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ラヴちゃんの初心者のための魔法講座

「さてと、ラヴちゃんの魔法講座~。はじまりはじまり~」

 ぱちぱちと自分で手を叩きつつ、上機嫌なラヴィニアさん。

 昨日のディナーで約束した魔法講座は実際に魔法も使うため訓練室にて行われることとなった。

「はじまりはじまり~」

 ジェシカさんと一緒に庁舎に来ていたティアは私もアインとお勉強がしたいと言うので同席することになった。そのティアは俺の隣でラヴィニアさんに合わせてご機嫌でぱちぱちと手を叩いている。

「んで? なんで俺まで巻き込まれてるんだ? 俺も一応魔力はあるが基本の基本しかできんぞ?」

 飴を舐めながらその隣でやる気なさそうにフェリックスさんが問う。

「基本の基本しか知らないからお願いしたんですよぉ。その代り午後は私がフェリックスさんのお仕事にしっかりお付き合いしますからよろしくお願いしますぅ」

「そういうことなら、まぁいいか。丁度試してもらいたい道具も溜まってるし」

 その話を聞いてフェリックスさんは少し機嫌が良くなったところで授業が始まった。


「では! まずは魔法って何かしら? っていうところから始めますね」

 ラヴィニアさんは微笑みながら僕らに問う。

「はいっはい!! えーとキラキラ―ってして、バーン!で、ズドーン!とか、キラキラ~ってしてピカーンとか!!」

 ティアは擬音ばかりの言葉で無邪気に答えた。

「そうね。キラキラってするわよね。それは魔法が出来始めてる合図なの。因みに、準備が要らない魔法ならキラキラしないで即座に発動するのよ」

 ラヴィニアさんはティアの子供っぽい答えにもしっかり付き合ってくれている。っていうかティアは魔法を知ってるのか?

「爺がよく使ってたんだよー。ティアにも魔法を教えてくれたからティアも少しだけ使えるんだよ!」

 えっへんと言った感じで胸をはるティア。

 あれ? もしかしてここで魔力がないのは俺だけなのか?

 その事実に気が付き少し凹んでいるとフェリックスさんが声をかけてきた。

「いいかい? ノールズ君。魔法とは、魔王と魔族達の出現と同じ頃に人類が行使することが可能となった比較的新しい技術のことだ。その発動にはレベルの指標として扱われる血中魔素濃度などで計られる定着魔素ではなく、体内の自由魔素を利用する。纏めて言えば、魔力によって生成した自由魔素をそれ続く限り魔法力として用い現実世界に干渉する力のことだ。自由魔素とは体内に定着する前段階の魔素のことであり一般には二日から三日かけて身体に定着するため、魔法として使うつもりならその前に取り込んだ魔素は行使しなければならない。まぁ、本人の持つ体内定着魔素と魔力量に応じて自由魔素はある程度の時間をかけて体内で生成され続けることも忘れてはならないな。最も魔法を使うに足る量を自然生成に任せていては魔法使用士としては全くの役に立たないが。加えて言えば体内魔素を…」

「ちょっとちょっと、フェリックスさん! 勝手に話を進めないでくださいぃ」

 ラヴィニアさんは少し子供っぽく頬を膨らませながら注意する。そんな様子がとても愛らしくて思わずにやけてしまいそうだ。


「こほん、えーとフェリックスさんの言った通り魔法を使うには魔力、つまり魔素を魔法力に変換する能力と自由魔素が必要です。それで、えーと」

 すっかりペースを乱された様子のラヴィニアさんはこめかみに指を当てながら次に説明することを考え始め、ある程度整理がついたようなところで口を開いた。

「魔素が体内に定着する前に消費してしまう関係上、私達魔法使いはレベルが上がりにくい人が多いんです。その関係もあって魔法士でも戦闘に強い方はごくごく僅かしかいなかったりして、稀に魔力持ちでレベルの高い方はいらっしゃってもそういう方に限って基本的に戦士として十分に闘えてしまうのであまり魔法士としての技能は高くなってなくって、魔法は戦闘の補助程度に使われるって場合が殆どだったり。そういう事情も鑑みて魔法士のみレベルによる条件よりも魔力量やその使用技術などを審査基準として国に資格を与えてられています」

「最も、特等の彼女はレベルも含めた全ての面が超一流なんだがな」

「そんな褒められたら照れちゃいます」

 フェリックスさんに褒められ、誇らしげという風でもなくえへへという感じで笑うラヴィニアさん。ほんわかした雰囲気のせいであまり感じていなかったが、実はこの人もかなりすごい人のようだ。

 なんてことを考えていると、

「さて、とりあえず基本的な説明が終わったところで、それでは次はフェリックスさんに実際に魔法を使っていただきましょう。フェリックスさ~んお願いしまぁす」

 イベントごとの司会のようなノリでラヴィニアさんはフェリックスさんを促し始めた。

「さっきの話にもあったように魔素を使う関係で魔法は疲れるから嫌いなんだが。大体、俺は簡単な魔法しか使えないし、そもそも君がやれば良いだろう?」と嫌そうに答えるフェリックスさん。

「それでは説明し辛いところがあるんです。それで構いません、お願いします」

「そんな部分なんてあったかね? …まぁいいか。どうせ午後の実験でしこたま魔法力を使ってもらうしな。まぁ温存しておいてくれ。それではノールズ君、これから君に炎の弾を飛ばす呪文、ファイアボールを見せてやる。一度しかやらないからしっかりと見ておけよ?」

 致し方がない、と言った風に立ち上がったフェリックスさんは少し離れたところに立ち、両眼を瞑り、両手の指を胸の前で合わせ、一息大きく呼吸をすると厳かに呪文を唱え始めた。


「…内なる力よ、今目覚めん。我が手に燃え盛れ、万物全てを焦がす紅き熱き炎」

 フェリックスさんがそう唱えると薄くキラキラとした光を発しながら掌の間に小さな炎の玉が発現した。

「強く大きく燃え上がれ。輝き猛り焼き尽くせ」

 段々と炎の塊が大きくなっていく。

「呪文ってなんかかっこいいね! アイン」

 ティアは一応フェリックスさんの邪魔にはならないように小さな声で俺に声をかけてきた。「そうだね」と俺も小さく返す。

 そんなやり取りをしている間に手で持つに丁度いい程の大きさとなったそれを投げようと振りかぶりつつフェリックスさんはさらに詠唱を続け、

「疾風の如くとb」

 そこまで詠唱した瞬間、

「フェリックスさん! 飴が落ちかけてますよ!」

「何!? それはまずい!」

 突然のラヴィニアさんの注意に詠唱が中断されるもフェリックスさんはすでに腕を振り始めており(意外と)しっかりとした投球フォームで炎の玉は放たれてしまっていた。

 しっかりと放り投げられたはずのその炎の玉は、


 べちゃっ!


 という音を立てフェリックスさんから人一人分と離れない場所に落ち、ブスブスと音を立てながら燃え…続けることもなく、どんどん小さくなってすぐに消えてしまった。


「フェリックスさん、あの、ティアね、ボールの投げ方教えてあげようか?」

 少し憐れみの色を滲ませながらティアがフェリックスさんに声をかける。  

「ち、違うんだぞ!? これはコットンテールが変なタイミングで声をかけたからであって、俺がボールを投げられない程の運動音痴だとかそういうのじゃないんだ! ホントに、本当に!」

 必死に取り繕うフェリックスさんに対し、ティアはどうすればいいんだろうと言った表情で救いを求めるように俺とラヴィニアさんを交互に見ている。


 するとぱちぱちぱちと可愛らしく手を叩き、ラヴィニアさんが口を開いた。

「フェリックスさん、ありがとうござましたー。そうですね。『これが』魔法というものです。分かりましたか? アイン君」

 そして、この空気をまるで気にせず、のほほんとラヴィニアさんは笑い、そして言葉を続ける。

「呪文により魔法の生成を行う関係上、詠唱を今みたいな形で中断させられたり集中が乱れてしまうと『今みたいな』飛ばない、燃えない、かっこ悪いと三拍子揃った出来そこないになってしまう。それが魔法の弱点です。ですが…」

 ラヴィニアさんがシュッと腕を振る。するとその腕の素早い動きとは対照的に放り投げるような速度で火の玉が壁に向かって飛んでゆき、少し離れた地面へと落ちた。その炎は今回は音も立てずに静かに、しかし力強く燃え続けている。

「魔法は呪文よりもイメージ力と使う際の集中力こそが大事なので、上位の魔術師ならこれくらいの初級魔法ならどんな状況下でも、()()()()で発動させることも可能なんですよ」

「君さ、俺をダシに使うために呼んだんだね…」

 フェリックスさんはがっくりと肩を落とした。


 その後も、呪文にはいくつかの定型文があり、一般的にはそれらの中から使用する本人がイメージしやすいものを選んで使うことや、上級魔術ともなると流石の専業の魔法士でも呪文の詠唱が必要なこと、また、呪文を唱えないモンスターが魔法を使える理由も近年の研究ではどうやらイメージ力と集中力のみあれば魔法を発動させられることに起因しているようだということを教えてもらった。


「因みに、私達魔法使用士の多くが所属する王立魔法研究所では新たな術式の開発の他に、多くの人がイメージし易く、詠唱も短かくて済む呪文の研究なんてこともしています。ここ数十年更新されていない程基本的な幾つかの常套呪文は試験にも出ますのでしっかりと勉強しておいてくださいね」

 そこまで進んだところで丁度終業ベル替わりに用意していた目覚まし時計の鐘が鳴り、ラヴィニアさんはこれから探査波出し(魔法で動いているレーダーを使うために魔法の波を国中に送ることらしい)の仕事があるということで今回の授業はそこでお開きとなった。


 一応、フェリックスさんの名誉の為に言っておくと、お昼休みの間にフェリックスさんはティアを誘ってキャッチボールをしていたが、しっかりボールは投げることが出来るようだった。

 


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