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○○○○○料理専門店 『のすふぇらとぅ』

三年ぶりの投稿です。

これからまたちまちまと投稿したいなぁなんて。

せめて2部くらい完結したいもんです。

 クレイン邸よりさらに王宮から離れる方向に十五分ほどキャリッジで走った街道沿い、入口にアーチ状の大きなゲートが設置された道の前で馬車は止まった。鉄で出来たゲートのブリッジ部分にはハンバーグやスパゲティなどの料理の形を模った数枚のプレートと挟まれ、『食い倒れ横丁』と書かれていた。ところどころに薄らと浮かぶ錆が道の短くはないであろう歴史を物語っていた。


「ここから少しだけ歩くの。はぐれずについてきてね」


 そうにこやかに言うとラヴィニアさんはスキップするような軽い足取りで人でごった返す石畳の狭い緩やかな坂道を歩き始めた。

 人込みの中を軽やかに進んでいくラヴィニアさんを見失わないように気を付けつつ、でも好奇心には勝てずに辺りを見回しながらその後を歩いていく。

 居酒屋『ならず者』、bar『ハッピーライブ』、サラダ専門店『いさや』、鮮魚『マーメイド』等々。

 たくさんの飲食店が路地の両側に所せましと軒を連ね、あらゆる食べ物の匂いが混じった魅惑的な空気が路地を包み込んでいる。開け放たれた店先からは中の人々の騒がしい話し声が通りまで聞こえてきていて、まるでお祭りのような騒がしさだ。

 店の並び的には酒類を主に提供するような店が多く、食い倒れというよりも呑んだくれ横丁と言った雰囲気だが、そんな店に挟まれて高級料理店があったり、駄菓子屋があったりと飲食関係のお店なら何でもアリな様子で混沌と言う言葉がとても似合う感じではあるものの不思議と居心地の良さのようなものを感じてしまう。試験が終わったら是非また来てみたいなぁ。


 そんなラヴィニアさんのような世に言うお嬢様タイプの人間が通るにはどうなのか? という道を進んでいくと飲食店街は突然途切れ、人通りもほとんどなくなり、辺りは住宅が立ち並ぶ街並みに変わっていた。振り向けば入口と同じデザインのゲートが建っていたのでどうやらそこで横丁は終わりだったらしい。

 「あとちょっとですからね」というラヴィニアさんに続いてさらに進んでいくと住宅街には場違いなお城を模した小さいが豪華な建物の前へと辿りついた。日没と共に訪れた闇に溶け込むようにひっそりとそびえ立つその建物はどこか不気味さを醸し出しているのだが、塀には「のすふぇらとぅ」と可愛い文字で書かれた大きな看板がかかっていてその雰囲気を台無しにしてくれている。


「ふぅ、着きました。入りましょう」

 少しだけ疲れを見せた声でラヴィニアさんはそういうと案内係に名前を告げて店の中へと入っていった。

 見た目通り内装もお城のようになっている建物の中には如何にも裕福そうな人達に交じり、冒険者を生業としていそうなしっかりとした体つきをしたラフな格好のお客もいたりと客層は読めない。二階の個室へと案内され、席につくなりラヴィニアさんは「いつものコースでお願いします」とウェイターに言い二、三言口づてをすると手慣れた手つきでナプキンの用意を始めていた。俺もそれを倣いつつナプキンを用意すると早速前菜が出てきた。前菜は何の変哲もない普通の野菜の盛り合わせだった。

 それを平らげる終わる頃、ここにきてちょっといたずらをするような顔をラヴィニアさんは俺に向けて「さて、アインくん。ここは一体何のお店でしょう?」と聞いてきた。

「……普通のレストラン、じゃないんですか?」

「違いますよぅ。ヒントはぁ……そうですね、名前です」


 名前?

 『のすふぇらとぅ』と言えば真っ先に思い浮かんだのは今日読んだ本に書いてあった二十六年前に絶滅したモンスターのことだった。

 それはは人、動物、虫、そしてモンスターまで、とかくありとあらゆる生物の血肉を食べる人型の(しかもその容姿はとてつもなく美しかったという)アルティメット雑食モンスターだ。どれだけ食べてもその空腹は満たされることはなく、こいつが現れると辺り一帯の生物が全て消え去ってしまったとか。

 主に同族であるモンスターを食すことを好んでいて人間にとって都合の良い面も持つモンスターだったけれど、ある時一匹のノスフェラトゥに結構大きな都市を壊滅させられたことで人間側は本格的に対策に追われ、三十五年前に殲滅作戦が発動。二十六年前を境にそれ以降目撃情報がないため絶滅したと言われている。

「もしかして……」

 俺が言いかけたその瞬間、ウェイターがテーブルに皿を音もなく置きその答えとなる料理名を告げてきた。



「レッド地方はブラッド砂漠に生息するオアシスマーマンの内臓を使った冷製スープでございます」



 さも当たり前のようにそう告げるとウェイターは下がって行った。ラヴィニアさんはというとスプーンを手に取るとまるで地上に舞い降りた天使のようににこやかに微笑み、

「ここはモンスター料理専門店、のすふぇらとぅ。王都内随一の美味しいモンスター料理を出してくれる最高のお店です。」

 そう言うとご機嫌でスープを口に運び舌鼓を打った。



 

「アイン君、食べないんですか? 冷製だけど早く飲んだ方がより美味しいんですよ」

 にこにこと笑うラヴィニアさんに言われ改めて自分の前に置かれた皿を見つめる。苔のように濃くドロッとした緑色のスープがそこには置かれている。変な匂いはまるでしないのだが冷製のはずなのになぜか泡が時たま浮かんでくるのは一体何なのだろう。お腹は空いているはずなのだが食欲は全く湧いてこない。

 向かい側に置かれたラヴィニアさんの皿はすでにその底の白色が見え始めているのだが、本当に美味しいのだろうか? これ。

「……もしかして、モンスター料理って食べたことなかったり?」

 どうやらラヴィニアさんは俺がモンスター料理を食べたことがあると思っていたらしい。

「こういうのはちょっと……」頷きつつ答える。



 モンスターの食材は通常の牛や豚、羊と言った家畜化されている動物と比べるとその殆どが養殖などは出来ずそもそも狩猟自体困難であることや冒険者たちの運搬能力の問題もあり入手は難しく、量も確保しづらい。なので値段も自ずと高値となりがちだし、その上調理法もかなり特殊なものが多いので、俺のような庶民が普通に生活している分にはまずお目にかかることはない。

 勿論、比較的普通の動物っぽいやつ(絶滅危惧種だけど先のブラウンウサギモドキなんかもこれに当たる)は俺みたいな駆け出しの人間でも狩れるし、調理法も簡単でサグラ兄さんに調理してもらって幾度か食べたことあるけれども、このような本格的モンスター料理なんて勿論食べたことはないのだ。


「そうですかぁ。せっかくだから試験の前に少しでもレベルが上がれば良いかなぁと思って誘ったんですけど…初めての人にはやっぱり厳しいですよね」

 相変わらず泡を出し続けるスープを前に逡巡し続ける俺を見て、すごく申し訳なさそうな頭をしてラヴィニアさんは言った。

 

 モンスターの血肉には確かに魔素が多く含まれているって聞いたことはあるけど……修行の一環と思えば食べられる。……のかなぁ?

「いただきます」

 勇気を出して一口、目を瞑って口に入れてみる。

 思わず吐き出したくなるようなすさまじい味がするのかと思いきや、

「ぐぅぅう!?!?!?!」

 突如として辛さにより舌に激痛が走り、どちらかと言えば不快な部類の奇妙な臭いが口の中を包み込んだ。

 味も甘いような塩気が多い様な、お世辞にもうまいとは言えない味である。ある意味で言えば想像通り。

 辛さに悶絶しながら何とかスプーン一杯分のそれを飲み下すと目の前ではとてつもなく面白そうに肩を震わせながら俯き笑うラヴィニアさんの姿が見えた。

 ラヴィニアさんに文句の一つも言いたいところだが、とにかく口の中を洗い流すことを優先。コップの水を口の中に流し込んで、行儀が悪いのも承知でくちゅくちゅと口の中で水を暴れさせて飲み込むと


「全く、コットンテール様もお人が悪い。お冷をお注ぎしましょう」


 後ろから聞こえる声に反応して振り返ると先ほど料理を持ってきた人とは別のウェイターが端正な顔立ちを困ったように歪めながら今空にしたばかりのグラスに水を注ぎこんでいた。

「だって初めての人にこれをそのまま飲ませることほどおかしなことってないとは思いませんか? テルクシノエさん。前に他のテーブルの方がやってるのを見て、私もいつかはやってみたいと思ってたんです」

 未だに肩を震わせ悪戯に成功した子供のように無邪気に笑いながらラヴィニアさん。

「申し訳ございませんがお客様、こちらのお酢をスプーン一杯ほど混ぜてから再度お試しいただけますか? 味は私が補償いたしますので」

 そこまで言われるならとウェイターさんに促され、言われた通りに卓上のお酢をスプーンに注ぎスープに混ぜ込み、再び口へと運ぶ。


「あれ? う…うまい!?」

 先ほどの強烈な辛味も匂いも嘘のように消え去り、ほのかな甘みと上品な辛さ、先ほどは感じる余裕は露ほどもなかった喉越しの良さが心地よさを与える極上のスープへと生まれ変わっていた。

「本来は最初から酢酸を入れて提供させていただく料理なのですが、コットンテール様のご希望によりお客様のものだけは省かせていただきました。申し訳ございません。何分稀に酢酸を混ぜずに激辛珍料理として食べたいというお客様もいらっしゃいますものでして…。申し遅れましたが、私、当店のオーナーをさせていただいておりますジョルジュ・テルクシノエと申します」

 テルクシノエと名乗ったオーナーはオールバックに整えられた銀髪の映える頭を下げた。

「アイン・ノールズです。こんなに味が変わるとは正直驚きました」

「モンスター料理はほんのわずかな違いで大きく味が変わるものなのです。この後のお料理は始めからしっかりと美味しくいただけるようお出し致しますので、どうぞご安心して楽しんでいただければ」 

 上品な笑みと共にそう告げると、テルクシノエさんは下がっていった。


 その後も、スープと同じオアシスマーマンのバターソテーや、ホワイトブルホーンのステーキなどやはり見た目はアレだけど、今度はテルクシノエさんの言う通り味はとても良い料理が続き、残すはデザートのみとなってラヴィニアさんとの談笑の時間になっていた。


「ラヴィニアさんはモンスター料理ってよく召し上がるんですか?」

「ええ、とても。魔法使いは自分の中の魔素を魔力を用いることで魔法として使っているから私みたいにモンスターと直接対峙することが殆どない人の場合だとこういう方法で魔素を補給しないといけなくって。必要経費ってことで代金も国が補償してくれていますし、週に、そうですね、三日は食べています」

 アイスクリームに和えられた暴れ林檎のケーキを上品にフォークで切り分けながらラヴィニアさんは答える。

「魔法ってどういうものなのかまだ知らないんですが、案外大変なんですね。俺、魔法ってただただ便利なものなんだとばかり思ってました」

「その辺のこともまだ詳しく知らないんですね……そうだ! さっきのお詫びに明日、良かったら教えましょうか? 特等魔法使用士の講義なんて中々受けられないんですよ?」

 先ほどのことを思い出したのか少し笑いをこらえるような声でラヴィニアさんは言った。

「それは是非にお願いします!」

 こうして俺はラヴィニアさんとのディナーの結果、楽しい時間と美味しい料理の他に、経験値とラヴィニアさんの魔法講義をゲットした。

  

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