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母と娘

とかくバタバタしていたのと文章書けないや症候群に陥っていました。すみません。

五か月振りの更新でかつあまり話は進みませんが、読んでいただけたら幸いです。

 まるで時が止まってしまったかのような凄まじく長い、気まずい沈黙が流れた。


 目の前には二人のほとんど同じ顔をした美女。違いと言えば着ている服と、パッと見ただけでは気が付かなかったがウエーブがかった髪の毛先に当てられたパーマネントの有無。

 そして、決して口に出せはしないが、お母さんと呼ばれた方が心なしか化粧が濃いようにも見える。

 そんな間違い探しのようにそっくりな二人は片方がきつい視線を浴びせ、それを向けられた方はなんとかその視線を避けようとあらぬ方向に視線を向け続けている。

 それにしてもいつまでこの状況が続くのだろう。彼女達以外の誰かが何かを言わなければ、しなければ、この状況は変わらなさそうだ。ということは何となく感じるのだが正直どうすれば良いのやら……。ホレスさんは二人を交互に見ながらどう声をかけたものかと迷っている様子で頼りには出来そうにないし。

 困りに困っていると突然鐘の音がフロアに鳴り響いた。音の元はどこかと思って部屋を見渡すと隅に置かれた俺の背丈よりも大きな振り子時計は五時を指していた。部屋に入ったのが確か五時五分前くらいだったのでたったの五分ちょっとの時間しか経っていなかったということに驚く。気持ち的には一分当たり一か月位には感じたのに。勿論大げさな表現だけど。

 だが、この鐘の音で止まっていた時間は動き出したようだ。五回目の鐘が鳴り終わると同時にポンっと手を叩く音と共に、ホレスさんが喋り始めた。

「お、奥様もお嬢様もとりあえずおかけになられてはいかがでしょう? 奥様もお嬢様もお紅茶でよろしいですか? 私急いで淹れてまいりますので」

 そう言うなりホレスさんは素早く部屋から出て行ってしまった。今回はドタバタとはしないで一流の執事然とした動きだったので、最初のときは本当に我を忘れていたんだなぁと感じる。

 ピンクの方の、お母さんと呼ばれた女性も視線から逃れるチャンスと見たのか

「そ、そうねぇ~とりあえず座ってお茶にしないとだったわねぇ! ささ、ジェシカちゃんもそこのお二人もおかけになって」

 そう言って俺とティアの背中を押してソファの方へと動き出した。

 こうして俺達はとりあえずソファに腰掛けることになり、すっかり固まっていた時は動き出したのだった。



「さて、自己紹介がまだでしたわね。わたくしがジェシカの母、スティカです。よろしくね、ティアちゃん」

 スティカさんは満面の笑顔をティアに向けた。近くで見てもやはりものすごく似ている。ジェシカさんの場合滅多にこんな笑い方はしないけど。

「それと貴方は?」

「アイン・ノールズです。ジェシカさんのお仕事のお手伝いをさせていただいてます。よろしくお願いしますスティカさん」

「ティアです。よろしくお願いします、スティカさん」

 ティアは俺に倣って普段よりも俄然丁寧にスティカさんに挨拶を返した。初めて会った頃と比べるとしっかりした挨拶が出来るようになったなぁと一瞬思ったが、ティアは明らかに萎縮しているというか壁を作ろうとしていることに気がつき複雑な気持ちになる。

「ごめんね、ティア。お母様は悪い人では……ないんだけど。その、可愛い人や物が大好きで歯止めが効かないというかなんというか……」

 同様にそのことに気が付いたらしいジェシカさんがフォローを入れようとはしているけれど、フォローしきれない様子でどうも歯切れの良くない言い方になっている。

「だってティアちゃんがあまりにも可愛いんだもの。ジェシカちゃんも昔はとっても可愛かったのよ~」

 スティカさんはそう言うと近くの本棚から一冊の本を迷うことなく取り出し、栞の挟まれたページを開いてテーブル上に乗せた。どうやら頻繁に出しては見ているもののようだ。開かれた本には綺麗に着飾って笑顔を見せる三人の可愛い子供達の写った写真が一枚貼られていた。二人はドレスを着た女の子。もう一人はスーツを着ているので男の子のようだ。

「この真ん中にいるのがティアちゃんと同じくらいの頃のジェシカちゃんよ。可愛いでしょぉ? それで、隣にいるおなじ位可愛いのが幼馴染みのラヴちゃん。それでもう一人の男の子が、なんと!」

「お母様!」

 突然、大きな声と共に目の前から写真の入った本が消えた。その声の主であるジェシカさんを見るとその本を胸に抱き顔を真っ赤にしていた。余程恥ずかしいらしいが、そんな姿が少し可愛いなぁー。なんて思ってしまう。

「ジェシカちゃん、はしたないわよ。お客様の前で」

「お母様には言われたくありません!」

 二人の視線が熱く交錯する。まずい。また始まってしまいそうだ。この二人、実は仲が悪いのか?

「そ、それよりジェシカさん? ティアの件のお願いに来たんですよね? その話をしましょう」

 俺は本題に移ることでその流れを無理やり止めようとした。ジェシカさんがスティカさんに向けていたきつい視線をそのままに俺を見てきたので一瞬怯みそうになったが、ジェシカさんも我を取り戻したのかすぐに表情を和らげ、

「そうね。このままだと話が進まないわ」

 そう言うと本は抱えたままで落ち着いて事情を説明し始めた。


「ティアちゃんを預かることにはまったく問題はありません。むしろ大歓迎。いっぱいオシャレさせてあげるからねぇ、ティアちゃん。今から楽しみだわぁ」

 事情を話し終えるなりすごくご機嫌にティアを預かることをスティカさんは快諾してくれた。「オシャレさせてあげる」とスティカさんが言った瞬間にジェシカさんは何か言いたげな顔をしたが、今回はどうやら飲み込んだようだ。

「で、ジェシカちゃんも帰ってくるのよね?」

 ご機嫌なまま、スティカさんはジェシカさんに問いかけた。

「私は帰りません。しばらくはホテルで過ごして新しい部屋が見つかり次第そちらに移ります」

「そんなこと言わないで帰って来て。勝手にアパートを解約したことは謝るわ。でも、貴方に帰って来て欲しいからこそあんなことまでして……。お父様だってね……」

 一転してすごく寂し気に言うスティカさんだったがジェシカさんはすっかりそっぽ向いてしまっていて聞こうとはしていないようだ。確かにやったことは常識外れだけれども、ジェシカさんの怒り様はそれだけの問題じゃないような気もしてきた。 


「何を騒がしくしているんだね、スティカ?」

 そんなとき一人の男性が部屋に入ってきた。金髪を綺麗に撫でつけた上品な出で立ちの優しそうな紳士。どこかで見たことがあるような……

「旦那様。お帰りなさいませ。お嬢様がお客様をお連れになって戻っておいででして」

 部屋の出入り口の辺りにいたホレスさんが状況を簡潔に説明する。それを聞いたジェシカさんのお父さんらしき男性は俺に対してにこやかに微笑み、「やぁ、君はノールズ君か」と言った。

 なんでこの人は俺の名前を知ってるんだろう? 「会うのは二回目だね」そう言われて初めて気が付く。そうか。この人は確か会議の時にいた人だ。

「貴方! ジェシカちゃんがね、帰らないっていうのよ。なんとか言ってあげて下さい」

 スティカさんはすがるような目で男性を見つめた。

「ジェシカ。どうしても嫌かい?」

「アパートの件も許し難いですが、私はあの件、まだ納得していませんから。それが解決するまでは帰りたくありません」

 目を合わせようともしないまま怒りを押し殺したような声でジェシカさんは答えた。納得していないって一体なんのことだろうか?

「……そうか。ノールズ君、ジェシカの父アルバートです。ゴールド地方の知事を務めています。娘のジェシカともどもよろしくお願いします」

 寂しそうな瞳でジェシカさんを見つめた後、ジェシカさんのお父さんもまた俺に丁寧にあいさつをしてくれた。



「じゃあ、帰ったらしっかり復習すること。私はもう少し話をしてから帰るから」

 玄関まで見送りに来てくれたジェシカさんはいつも通りの口調と雰囲気で俺にそう告げて屋敷の中へと戻って行った。

 その後もアルバートさんを交え少しだけ話をしたティアはスティカさんに何とか馴れてくれた様子だったけれど結局、(多少問題はありそうだったけど)とても良い人たちに見える両親とジェシカさんが何故対立しているのかは全く分からなかった。

 まさかジェシカさんって反抗期? ……なんて感じでもなかったしなぁ。

 そんなことを考えながら夕焼けで真っ赤に染まった門をくぐりぬける。見れば空はもうほとんど夜の色に染まりつつあった。とりあえず帰ったらさっさと夕飯を食べて今日の復習をしよう。出来れば明日の分の勉強も。

「アイン君、待ってました」

 思案に耽りながら門をくぐった俺に出し抜けに声がかけられた。

「ディナーに、付き合ってもらえませんか?」 

 耳障りの良いその声のする方を見るとそこには小さな若草色のハンドバッグを両手で上品に持ち、少しだけ照れくさそうに笑顔を俺に向けたラヴィニアさんが立っていた。

次はまた半年後……にならないよう頑張ります。

ラヴィニアさんとのデート回は流石に早く書けそうな気が。

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