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アインの弱点

 声が何か壁を通したような形のぼやけ方で聞こえる。注意深く聞いてみるとどうやら俺の名前を呼んでいるらしい。

 おでこの辺りがズキズキと痛む。ぼんやりとする思考が痛みで段々と鮮明になる。瞼を開こうとするが、それだけでも痛みが走った。なんとか目をこじ開けてようやく視界が効くとジェシカさんが俺の顔を覗きこみながら俺の名を呼んでいた。かなり近い顔の位置に少しドキリとするが、どうやら俺の頭の傍に座り覗きこんでいるらしい。

「アイン君。やっと起きた。ごめん。ちょっとだけ力入れすぎちゃった」

 そうだ。訓練途中でジェシカさんに地面に叩きつけられてそのまま気絶しちゃったんだ。

「すみません。すぐ続きを……」

 身体を起こそうとしたがジェシカさんに制止された。押さえられたおでこにひんやりとした冷たさを感じ、氷嚢が当てられてることに気付く。

「こぶ、出来てるし、起きたてだから動かない方がいいよ。今日はもう訓練はなし。だから、そのままで聞いて」

 ジェシカさんはそう言うと氷嚢を新しいものに取り換えてくれた。取り換えられた氷嚢のキンっとした冷たさに額が痛み悶えてしまう。痛み方からしてかなりでかいこぶがようだ。俺がそれに慣れてきて落ち着くと、ジェシカさんは喋り始めた。

「アイン君の弱点というか欠点の話、なんだけどね。アイン君って想像力も悪くないと思うし、読みは中々鋭いと思うんだ」

 褒められている。でいいのかな? この時点では悪くない評価のように聞こえる。

「でもね、アイン君ってさ、何て言うのかな。アイン君は想定した中で実際に起こる可能性の低そうなものを頭の中から完全に切り捨ててしまってない? 良い言い方をすればそれって迷いがなくなるってことなんのかもしれないけど、想定外の事態に対する対応力のなさ。あたしはそれがアイン君の弱点だと思うの」

 想定外の事態に対する対応力。確かにさっきの攻撃は予想もしていなかった。下段の横なぎを飛んで避けたと思ったら空いた方の手で髪を掴まれてそのまま地面に叩きつけられるなんて考えも出来なかった。

 でも、きちんと剣だけでなく他にも意識を向けていれば何も出来ないこともなかったはずだ。その前に蹴りを食らっていたにも関わらず、俺は横なぎが来た瞬間、それ以外の攻撃に対する警戒を一切怠ってしまった。それ以外の攻撃なんてないだろうと。つまりはそれが切り捨てている、ということなんだろう。

「アルのじいさんはそういうところって見逃さないのよ。そこを見抜かれたら、というか見抜いてくるでしょうけど確実に動きをコントロールしてアイン君が想定しない攻撃方法で攻めるって手を使ってくるわ。訓練前にも言ったけどあのじいさんはそういう相手よ」

 ジェシカさんは真剣な眼差しを俺に向け話を終えた。答えを求められているような気がして目を瞑り考えてみる。

 想定外の事態に対する対応力か……。そんなものどうすれば手に入るんだろう。



「どうすれば、いいですかね?」

 訓練室の静けさに耐えられずについすぐにそう聞き返してしまった。

 きっと「少しは考えなさいよ!」と怒られるだろうなぁ、と思いつつも恐る恐る目を開ける。でも、ジェシカさんは苦笑いしながら俺を見つめていた。 

「……やっぱ難しいよね。実はあたしもどう教えればいいか分かんなくって。考えているがゆえにそれが足を引っ張ってるとも言えるかもしれない。実際考えることなんてやめて頭空っぽにした方が反応良く動けるし。でもね、色々な事態を考える力がないのはすっごく問題なの。アイン君には考えない人間にはなってほしくない。だから、今はとりあえず経験を積むことが一番なのかなって」

 そこまで言うとジェシカさんは何かに気が付いたのか顔をさっと上げた。

 ドアの開けられる音がした後、わずかな振動とタッタッタッと足音が近づいてくる。

「アイン! 大丈夫?」

 かけられた声はティアのものだった。ティアは俺の傍まで来ると座り込んで不安げな表情で俺の様子を見つつ、ジェシカさんにも俺が大丈夫かどうかを聞いている。

「さっきお医者さんにも見てもらったから心配しないで大丈夫よ、ティア。ところでどうしたの? あたしが迎えに行くまではオフィスでラヴィニアと一緒にいるんじゃ……」

 ジェシカさんがそこまで言いかけたところでもう一人誰かが入ってきたのか、扉が閉じられる音と共に足音がゆったりとしたテンポで近づいてきた。その人物も俺達の傍まで来ると水色の長い髪を垂らし立ったままで俺の顔を覗き込んできた。

「私がジェシカちゃんに用があったから連れてきたのよ。あれ? アイン君お昼寝?」 

「ちょっと頭打っちゃって」

 自分を情けなく思うのはジェシカさんのおかげで割と慣れてしまってきてはいるが、やはりこういうところを人に見られるのは照れくさくって返す声もついハリがないものになってしまう。

「それはたいへん。じゃあ、私が一肌脱いじゃおうかな?」

 かなり軽いノリの言い方をするとラヴィニアさんはそのまま屈んで目を瞑った。俺の額から氷嚢を取り去り、一つ息を吐くと手を翳す。


 もしかして、これって治癒魔法をかけてくれるんじゃ?


 ラヴィニアさんは魔法使用士だもんな。きっとすごい魔法をかけてくれるに違いない! 初めてかけられる治癒魔法に痛みも忘れ期待に胸がいっぱいになる。

 固唾を飲んでどんな魔法が掛けられるのかと期待して待っているとと、ラヴィニアさんは突然カッと目を見開き、



「いたいのいたいのー、とんでけー なんて」



 とんでけーのところで翳した手を勢いよく天井へ向けて振りながら、いたずらに成功した子供のような笑顔で呪文を唱えた。

 子供の頃よくお母さんがやってくれた、気持ちの面はともかく実際に痛みなんて消えるはずのない子供だましの呪文……あれ、これってもしかしてからかわれただけ!?


「からかわないでください!」

 勝手に俺が期待しただけだけど、さすがにちょっと頭にきて身を起こし、ジトッとラヴィニアさんを睨む。 

「からかってないですよ? ふふふ」

 いや、どう見てもからかってたでしょ! と言おうとして気が付く。あれ? 痛くない。慌てて額に手を当ててみると痛みがないどころかコブらしきものすら一切なかった。

「あんたねぇ、治癒魔法なんて使っちゃっていいの?」

 呆れ声で言うジェシカさん。え? 今のが? 生まれて初めて受けた治癒魔法だからよくわからないけど、あんなのが治癒魔法!? 思ってたのと全然違うんですけど。凄く期待はずれなんですけど。

「今日はもう規定業務終わったからね。このくらいのなら全然平気。あら~? アイン君、そんなにびっくりしたぁ?」

 ラヴィニアさんは俺の愕然とした様子を見るなりクスりと笑った。

「あ、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 今度は含みのない笑顔で笑いかけてくるラヴィニアさんを見て俺はがっくりと肩を落とさずにはいられなかった。



「で? 何しに来たの?」

 そのまま部屋の中心に輪になって座ることになった俺達。ラヴィニアさんが水筒に入れてきてくれた温かいお茶を飲みながら話をすることになった。

「実はさっきね。孤児院の人が来たんだけど、来週までかかるみたいなの」

「来週!? なんでまた? 昼間はそんな話なかったわよ。部屋が一つ空くから明後日にははいれるって……」

「その空く予定だった部屋の子が出ていく話、急に御破算になったんだって。だから受け入れの準備をするのにどうしてもあと一週間くらいは見てくれないかってことらしいの」

「そっか。でも、どうしよう」

 ジェシカさんは少し残念そうにそう言った。ティアとのお別れが先延ばしになるなら別に悪いことでもないと思うんだけど、何かまずい事情でもあるのかな。

「ティアは昨日みたいにここのソファで寝るのもいいよ? ふかふかだし」

 ティアもそう言ってるし別にいいんじゃ……

「ここの? あれ? ジェシカさんの家に泊まったんじゃないんですか!?」

 昨日ティアとジェシカさんはここから少し離れたジェシカさんの家に泊まったはずだった。ここを出ていく時には見送ったし間違いない。どういうことかとジェシカさんを見ると明らかに気まずそうな顔で俺に視線を合わせないように天井をどことなく見つめていた。

「ん~、実はね。家、なくなっちゃったっていうか。なんていうか」

「はぁ?」

「その、どうやらあたしがブラウン地方に出てすぐ位にどうやら実家に解約されちゃったらしんだよね、マンション。行ってみたら全然知らない人が住んでてさ。しょうがないから昨日は戻ってきてオフィスのソファで寝たの」

「え、ちょっと待ってくださいよ。そんなことってありですか!?」

「ありえないよね。あたしもそう思う」

「ん、あれ? 実家って?」

 実家って親の家だよね? と当たり前な疑問が浮かぶ。

「うん。前にも言ったけどあたし家出てるからさ」

「あ、ごきぶ……」

「それ以上言ったら怒るよ」

 そういえばその事件があってから引っ越したって前に言ってたっけ。ってことは帝都に実家があるってことじゃないのか? だったらもうゴキブリも出ないんだしとりあえずそこに帰れば……

「それだけじゃない、でしょ? ね、ジェシカちゃん?」

 少しだけ厳しい顔を作ったラヴィニアさんはそう言うとカップのお茶をくいっと飲み干し立ち上がった。

 それだけじゃないってどういうことだろう。

「多分ね、帰ってきてほしいのよ、ジェシカちゃんに。あたしはちゃんと、話し合うべきだと思うな」

 ラヴィニアさんは厳しい顔から一転してお母さんのような優しい笑顔をジェシカさんに向けるとそのまま部屋を出て行ってしまった。


「分かってるわよ、それくらい」

 そう呟いたジェシカさんはそのまま黙り込んでしまい、声をかけられずどうしたものかと困ってしまいそうになる。

 でも、すぐにジェシカさんは立ち上がって

「アイン君、今日悪いけどこれからちょっとだけ付き合ってくれない?」

 え? 何に? 答える間もなくティアの手を引いてジェシカさんは出て行ってしまった。


 流れ的にはこれ、ジェシカさんの実家に行くってことだろうか? 

 疑問を抱えたまま、部屋を片付けて俺も後に続くことにした。

すみません。二日遅れちゃいました。

文もうまく書けなくなってて。継続は力なり。小説にも言えるんですね。一つ勉強になりました。

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