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課長、現る。

年内になんとかもう一話位投稿したいなぁと思いつつ。


 キャンディーをなめ終わった俺の前では湯気と香りの立つティーカップが置かれている。一口飲んでみたがオレンジが少し混ぜてあるようでほのかに甘かった。どうやら入れてきてくれたダリヤさんの趣味らしい。

 そのダリヤさんは俺の向かいのソファーに座りお茶請けのクッキーを齧りながらのほほんとしている。

「あの、さっきから気になってたんですけど」

「あら、何かしら?」

「……ダリヤさんは仕事しなくていいんですか?」

「んーあたしはジェシカさんの調査結果報告書出してもらわないと今日はもう仕事ないのよね。昨日までで一通りのデータの整理と分析は終えちゃったから」

 この部屋にいるある人物にも聞こえるような声で答えるダリヤさん。その人は……あ、レポート用紙また捨ててる。

「そうですかぁ」

 今一つ会話が続かない。所在ない俺はまたぼんやりと部屋を見回すことにする。部屋は基本的に片付いていて小奇麗だが、机の上みたいな個人のスペースはその限りではなく個々人の裁量で片付き方に差が出ているようだ。

 そして、それ以外の場所にも何に使うのか分からないような機械っぽいものが転がっていて少しだけ雑然としているところがある。何やら何かの素材らしきものが固めて置いてあったり、フェリックスさんの机の後ろ辺りのスペースは機械っぽいものが雑然と置かれているし、なんか柔らかそうな布が貼られた一対の箱とか、天井から下がる黒い大きな板とか、金属で出来ている黄色いでかい箱とか……あれ? これはどっかで見たことある気がするけど。とにかくそんなものが所々に適当に置かれている。

「そういえば、アイン君がモノアイタイタンを退けったって本当なの?」

 唐突にダリヤさんから質問を投げかけられた。

「え、あ、はい? 一応そうですけど」

「ん~そうかぁ。……そうかぁ?」

 質問が終わるなり何やら納得いかなさそうに腕を組んで唸り始めるダリヤさん。

「いや、今解析はしてるけどノールズ君の推定レベルって大体十五前後だと思うんだけどね。モノアイタイタンのレベルって知ってる?」

「いえ? ギルドの資料に書いてあったような気もしないでもないですけど」

 確かギルドの資料にもレベル表記があったような気もするが、十前後の俺が気にすることじゃないだろうとあまりちゃんと見ていなかった。

「あの子達のレベルは六十から七十前後が平均ってとこなの」

「な、七十!?」

「そ、テクマタイトが底上げしてたとはいえ、到底ノールズ君の敵うレベル差じゃないはずなのよねぇ。ほら、倍どころの騒ぎじゃないでしょ?」

「でも、確か戦った時結構余裕ありましたよ。その後死に掛けましたけど」

「適正が高かったのかしらねぇ。実は私達もテクマタイトについてはどれくらいのレベル差を埋められるアイテムなのかははっきり知らないというよりわかってないのよね。お義祖父さまの研究されてた当時はそもそもレベル測定の方法もまだまだ確立されてなかったし。個人差が結構な幅を持って出るってことは分かってたけどそれでも精々二から三倍ってとこに値が偏ってるみたいで、弱い人間にはそれほど大きな効き目はないって結論は出てたしねぇ」

「つまり、俺みたいなレベルでは使っても本来勝てるはずはなかったということですか」

「まぁそういうことよねぇ。さすがにもう一回使ってなんて言えないしね。物もないし、仮にあったとしても死ぬのは嫌でしょ?」

「何でもないことで使って死ぬのは勘弁してもらいたいです」

「とりあえず一つだけお伝えしておきます。貴方も知ってると思うけどレベル十五は軍の一般兵の審査基準にも本来引っかからないわ。受験資格はレベル二十以上だから。だからあなたがこれから受ける特定部門特殊採用試験は前例ないほど厳しい評価基準になるはずです。気を、引き締めてね」

「はい。覚悟の上です」

 俺が今ジェシカさんについていく為にはこれしか方法はない。ビリジアを出てからここまで死ぬ気で頑張る覚悟はとっくにできている。


「ふむ。少年、君がそうだったとはな」

「ぐうぁ!?」

 いきなり男の声がすぐ真横から聞こえた。俺は反射的に飛びのきソファからずり落ち尻餅をつく。このパターンどこかで……

 声の主を見ればどこかで見たことのある小さな丸眼鏡をかけた大男だった。俺の記憶の中にある姿と違い今はパリッとした黒いスーツに身を包み、赤い短髪も綺麗に切りそろえられ、清潔感に溢れている。

「あ、あんたは!? ビリジアの森で会った……なんでここに!?」

「ここは私の受け持つ課だ。少年、君の方が異邦人なんだがな」

 少しだけ眉間に皺を寄せて俺を見下ろす男。課を受け持つってことは、では、この人が?

「課長、その、人の横に気配無くたって声かける癖、何とかしたほうがいいんじゃないの?」

 こちらに歩いてきたジェシカさんが上司に向けてにしてはやけに砕けた口調で課長に声をかける。

「別にわざとやってるつもりはないんだがな。で、クレイン君。報告書は」

「誰かさんがマーキングミスしてくれたおかげでまだ纏まってませんが?」

 あからさまに態度悪く答えるジェシカさん。こちらも眉間に皺を寄せているのでパッと見だと、完全に一色触発位に見える。

 だが、課長の方はどうやらあまり気にしていない様子で思い当たる節を探すようにたばこを取り出し火をつけると、一息だけ吸って話に戻った。

「何のことだ?」

「書面にて、報告させていただきます」

「……とりあえず終わらんのか。まぁいいそれは後回しだ。クレイン君、君は正装に着替え一時間後の会議に同席してもらう。推薦者だからな。で、人出も足らんしスタッフの認めるところならば私には異存はないが、お偉方の方は説き伏せられるのか? 彼は少しマシになったようだがどう見ても実力不足にしか見えん」

「他の人間ならともかく、このあたしが現状の実力とその将来性を認めてるってだけで充分に説得できますけど?」

「そういうならばまぁ私からは何も言うことはないがな。そう言った面も含めて準備にかかってくれ。それから、テクマさん。旦那に解析結果を持って会議に参加するよう伝えてくれ。コットンテール君。君はいつも通り……なんだこの子供は?」

 そこまでテキパキと指示を飛ばしていた課長は飴を舐め終え、クッキーを食べ始めていたティアに気づき疑問を口にした。

「子供じゃないよ。ティアだよ。おじさんは誰なの?」

 ティアは俺達にはともかく、知らない人に子供扱いされるのはあまり好きではないようだ。ティアの機嫌を損ねたことに気が付いたのか課長は目線をティアに合わせると丁寧に対応を始めた。

「すまないな。ティアちゃん。私はギルモア・ロックハート。ここにいるみんなを纏める仕事をしている」

「こんにちは。ギルモアさん」

「こんにちは。君も、よろしく頼む」

 ティアへの挨拶を終えた課長は俺に対し握手を求めてきた。前にあったときに武器にも使っていたという通り大きくごつい手を握り返す。

「すみません、ご挨拶が遅れました。アイン・ノールズです。よろしくお願い致します。ティアは俺……僕が貴方と会った後に出会った孤児なんです。孤児院に預けるまでの間僕とジェシカさんで面倒を見ています」

「ふむ。なるほどな。コットンテール君。すまんが、ティアちゃんと一緒にいてあげてくれ。ノールズ君、君には会議までの時間で私が礼儀作法を教えるとしよう。そういうところで彼らの評価を落とすわけにはいかないからな」

 

 こうして俺は会議までの間、別室でよりにもよって二週間ほど前に会った時には失礼な人間だなと思っていた人からしっかりとした礼儀作法について教わることになった。


次回は査問委員会です。

新キャララッシュが続いてるんですが、ストーリーの関係で今一つ自由に動かせないです。

短編でも書こうかなぁ……いや、本編進めよう。

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