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ジェシカのお友達

改稿してたら時間が二日も……


 御者の言葉通り二時間超に及ぶ移動の果て、最後の交差点で初めて馬車は右に曲がりようやく目的地に到着した。馬車から荷を降ろしつつ、道に影を落としている目の前の建物を見上げる。

 見上げてもこの建物の先にあるはずの王宮のもっとも高い真ん中の尖塔ですらその姿を拝むことは出来なかった。理由は簡単で、目の前の建物が大きいため、視線を遮られているからだ。

 王宮の周りを取り巻く石造りの巨大な建物群の内の一つであるそれの目の前の正面玄関らしき開け広げられた扉の横には縦に『合同庁舎 C棟』と書かれた金属の四角いプレートが掲げられている。今まで通ってきた道では奇抜な外見の建物なんかも結構あったけれども、さすがはお役所というべきなのか、質実剛健と言った雰囲気の石造りのしっかりとした5階建てのビルディングになっている。外壁は鈍い銀色一色。グレートシルバーウォールと同じような造りの建物なのかもしれない。

「ここが……」

 思わず声を上げてしまう。ついに、着いた。旅の目的地。

「そ、ここが絶滅危惧モンスター保護管理課のある合同庁舎C棟 通称、公安棟。アイン君の勤め先……になるかもしれない場所よ。よく覚えておいてね。じゃあ、あたし、入館証貰ってくるから、荷物下ろし終えたらついてきてね」

 馬車の代金を払い終え領収書を財布にしまいながら、足早に玄関口の先のおそらく受付らしきところに対しジェシカさんは駆けて行った。

「アインもここで働くの?」

 上を見上げたままのティアが呟くように聞いてきた。

「うまく行けばね。さ、ティア、俺達も行こう」

 そう、ここからが本番、なんだよな。


 ジェシカさんが受付で貰ってくれた入館証を首から下げ、受付横のつづら折りになっている階段を四階分上がり、道路側の壁に沿う廊下のど真ん中をジェシカさんに先導され歩く。廊下は地面が白いタイル張りになっている以外は実に質素なもので、各部屋の扉も普通の木の扉。ただ、建物が大きいためなのか廊下も外の歩道と同じくらいに広い。

 広さを取ってある理由はこれですと言わんばかりにスーツ姿だったり、ジェシカさんのようなTシャツGパンスタイルのラフな格好だったり、俺と同じように鎧を着こんでいたりと色々なタイプの出で立ちの人が忙しなく行き来している。

 まるで街の歩道と変わらぬように思ってしまうが、談笑を交わすような人がいないせいか廊下には足音以外に響くものはない。いかにも不真面目そうな格好の人でもその表情には真剣の二文字が貼りついているように見え、皆忙しそうにしつつも廊下のど真ん中を突き進むジェシカさんに一瞥くれると通り過ぎていく。

「なんか、すごいですね、ここ」

 ジェシカさんの表情も妙に引き締まっていてどこか居心地の悪さを感じてしょうもない感想を口にしてしまった。ジェシカさんは視線だけを俺に向けながら人の流れを割りながら進んでいく。

「この建物は公安の一から四課で使用率の九割を占めてるからね。みんな大体そっちの人と思っていいわ。正直、居心地はあまり良くないわよね。でも、安心して。うちは割りとふつ……変わってるのが多いから多分平気だと思うよ」

 大体の人がそういう仕事の人なのか、なるほどね。でも、これから行くところは変わってる人が多いのってどうなのかな? などと考えていると、静かな廊下のその先からハイヒールの立てるカツカツという音が響いてきた。それと同時に前方の廊下を行く人たちがざわざわとし始める。

 ジェシカさんの肩越しに前方を見やると廊下を歩いていた人々がジェシカさんを避けるのとはどことなく違う雰囲気で道を開けるように端に寄り始めている。

 ついに俺達とその人物が邂逅する。その人は純白の上質そうなローブを羽織った背の高い女性だった。

「あ、ラヴィニア」

 ジェシカさんがキッとした表情を崩し、その女性に声をかけた。

「ジェシカちゃん!」

 ラヴィニアと呼ばれたそのお姉さんはまさにユルフワ系と言った感じの顔にニカッとした笑みを作り右肩から前に下ろされた腰まで届きそうなほど長い水色の髪を揺らしながら、こちらに駆け寄ってきた。

「お帰りなさい! 元気そうでよかったぁ」

 人懐っこそうな笑顔を湛えたお姉さんはとても嬉しそうにジェシカさんを見つめている。気がつけばいつの間にかそんなお姉さんを周りの人たちは立ち止まり好意的な目で見つめていた。その場にいた皆が二人の様子を見つめている。

「ただいま、ラヴィニア。貴女も元気そうでよかったわ」

 知り合い以上の仲のようにも見えるくらい砕けたもの雰囲気の二人。もしかして友達?

 あまりよくないとは思いつつも、お姉さんを凝視してしまう。ヒールのことを考えても多分背は俺と同じか少し高い。近くで見て見ればお姉さんの髪は両側のこめかみの辺りから三つ編みが後ろに輪っかを作るように伸びていて、二つの三つ編みは後ろでお団子でまとめられている。表情を見ればその誰もが可愛いなぁと思ってしまうような笑顔でまだ笑っていたが、少しだけ冷やかしの色が混ざった。

「あれぇ? ジェシカちゃん。えーっと武人口調? だっけ? あれはもう止めちゃったの? んふふ。多分長持ちしないだろぉなぁとは思ってたけど」

「え、あっ、ちょっ!!あ、あれは!なんか疲れるから止めたの!」

 慌てた様子のジェシカさんは後ろにたつ俺を一瞥し、何やら照れ臭そうに言った。

「あー! なるほどぉー。後ろの男の子のせいかぁ。ジェシカちゃんったら悪い子ね」

「そ、そんなんじゃないってば!」 

 すっかりおいてけぼりだな、俺達。と思っていると俺と同様においてけぼりなティアが俺の袖をくいくいと引っ張ってきた。

「ねぇ、ぶじんくちょーってなに?」

「武人口調ってのはね。何て言うかなぁ」 

 うまい説明が思い浮かばない……。相手のことをうぬ。とか言うやつだっけか? そういえば初めの頃ジェシカさんってしゃべり方違ったような……

「ジェシカちゃんにはあぁいう感じよりも、やっぱりいつもの感じが可愛いと思うよぉ。あなたもそう思うよね、アイン君?」

「え、あ、はい」

「え、ちょっと、アイン君?」

 あれ? 俺自己紹介したか?

 その疑問に思わず女性の目を見つめてしまう。彼女はんふふ。と笑いながら右手を伸ばしてきた。

「こんにちわ。アイン君。私はラヴィニア。ラヴィニア・コットンテールです。『ラブちゃん』って呼んでくれたら嬉しいな。ジェシカちゃんの幼馴染で、一応、絶滅危惧モンスター保護管理課所属の特等魔法使用士です。あなたのことはジェシカちゃんからの魔伝で聞いてるわ。試験、大変だけど頑張ってね」

 語尾にハートか音符のマークでも付きそうな見かけ通りの少し高い可愛い声で挨拶をしてくるラヴィニアさん。

 目の前に出された握手を求める綺麗な手に対し、ドギマギしつつも握手を返す。

「あ、アインです。アイン……」

 そこまで言ったところでお姉さんの腕に急に引っ張られた。突然のことに思わず俺はのけぞり彼女の胸元に寄りかかってしまう。若草色の胸元が迫る。彼女の細い腕は俺の背中に回っているようで気がつけば俺は彼女にギュッと抱きしめられていた。

「ジェシカちゃんと仲良くしてくれてありがとうー。これから私とも仲良くしてね」

 強い力ではないので簡単に振りほどけそうだが、無理やり振りほどくのも躊躇われた。でも、僅かに顔に柔らかげなものが当たってるし。

「ちょっと! ラヴィニア!! ありもしない胸をアイン君に押し付けないでよ! アイン君もさっさと離れなさい、この、え、エッチ!」

「ありもしなくないですー。最近Aが一個減ったんだから!」

「んな自慢にならんこと自慢気に言うな! っていうかそうじゃなくてぇ!!」

 ラヴィニアさんに抱きしめられているためかグーこそ飛んでこなかったものの、見えないけどかなりご立腹な雰囲気のジェシカさん。あぁ、あとが怖い。別の意味でも離れられなくなりそうになる。

「ほら、アイン君も満更でもなさそう。ね、アイン君」

 回答を求めないでください。どうすればいいのか分かりません。そう思っているとラヴィニアさんは俺にだけ聞こえるような声でぼそっと 

「アイン君いい男になりそうだし、私と付き合わない? ジェシカちゃんとはねあんまり深い関係になったらダメよ、ダメ、だから」

 と言って腕の力を抜いた。解放された俺は呆然と立ち尽くす。 

 一体、どういうことだろう? 

「ん? あらら? 後ろの子は……はぁわわ。何なになにっ、この子? ものすごくかわいいぃ」

 疑問に思う俺が聞き返す間もなく、今度はティアが抱きしめられた。


 それから5分ほどティアを抱きしめたままのラヴィニアさんと談笑した後、彼女を混ぜた俺たちはようやく目的の場所、絶滅危惧モンスター保護管理課の扉の前に移動した。

次話は明日出しますよ! 今度こそちゃんと!!



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