剣戟の雨
まるで豪雨のような剣戟が降り注ぐ。
刀身を横に構え、それを受け続ける。妙なしなり方を見せつつ、剣と剣がぶつかり合い続ける。まるで壊れた打楽器でも叩いているかのような鈍い音が一面白で塗られた空間に響き渡る。
突如、腹に何かがめり込むような感覚。胃液が逆流しそうになる気持ち悪さを感じる。前を見れば剣戟の豪雨を振らせていた張本人、左足を前に突き出したジェシカさんが目の前から遠ざかっていく。それを見て蹴り飛ばされたことに気が付く。次の瞬間、彼女から三m程離れた地面に俺は背中から落ちていた。
「はぁ……はぁ……」
即座に立ち上がり、剣を構える。乱れた息と胃から込み上げてくる気持ち悪さを整えるように荒くなった呼吸に一定のリズムを与える。
「行くよ」
だが、相手は乱れた呼吸を整える暇も与えてはくれないようだ。
猛然と迫る彼女。再び剣戟の豪雨が降り注ぐ。
縦 縦 縦 縦 縦 横 横 縦 横 横 横 縦。
とにかく滅茶苦茶に、滅茶苦茶な速度(それでも多分本気ではない)で剣を振る彼女。ビリジアの時の修行では相手の剣をいなす様なスタイルが主体だったジェシカさん。今は全くの逆で怒涛の攻めを見せ、激しい剣戟を俺に浴びせてくる。
防ぐだけで精一杯でこちらが攻めに転じる隙すらない。こんな防戦一方の状況が蹴り飛ばされる前から続いている。
まず、距離を取りたい。その為には僅かでも隙を作らないといけない。このままではじり貧だ。横薙ぎが来てしまったらどうしようもないが、敢えて賭けに出ることを決める。縦に振り下ろされ続ける剣戟をまず弱く二回受け、最後の一つで思い切りはじき返す。思わぬ力のかかり方のためか、それとも剣のしなり方が独特の為か、とにかく一瞬ではあるが、彼女に隙が生まれた。跳躍にならぬ様逸る心を抑え、細かなステップを刻み、距離を取る。なんとか間合いの外に逃げることに成功。
即座に剣を正眼に構え次の攻撃に備える。勢いよく構えた剣の切っ先から、わずかにぶれるような抵抗感。ジェシカさんも同じ剣を使っているためだろうか。お互いまだ違和感を払しょくしきれていないことが今の場合はプラスに働いたようだ。
目のピントをブレの残る剣の切っ先からジェシカさんに戻すと、彼女は剣を体の正面で下段に下ろしていた。下段に下ろすと言っても、その剣の切っ先は地面につきそうなほど下げられている。一見すると力すら入れていないようにすら見えるほどに。
下段の構えを取ることで考えられる狙いのパターンは大きく分けて二つ。
一つは最速で脚への一撃へ移ること。上下移動がない分だけその剣戟は早い。そして、もう一つは上半身に隙を見せることで相手を誘いこむこと。
どちらで来るのか。初対面の相手ならともかく、俺は彼女を知っている。ジェシカさんの剣の速度と実力差を考えれば構えによるメリットデメリットはほぼ存在しないに等しい。どんな動きでも対応される。つまり、ここで下手に動くことは命取りだ。
剣に注意を払いつつゆっくり視線を上げ、彼女の目の動きを追うことにする。
目は口ほどに物を言う。そこから少しでも判断材料を手に入れたい。
しかし、下段の構えは剣と目の距離が離れるため、相手の意思を目から読み取りづらくなる。
「あっ」
想定外の展開に小さく声が漏れる。彼女は頭を垂らしていた。これでは目線から動きを読むことは出来ない。無論、彼女も。
でも、こちらの動きに対応しようという気がないなら……。
俺が結論を得た瞬間、彼女の剣は俺の足を刈り取るように横薙ぎの軌道を描き始めた。
低い。これなら!
俺は両足で膝を曲げ跳躍する。ぎりぎりのところで剣戟は俺のつま先の下を通り抜けていく。今なら完全に体ががら空きのはず。俺は狙いを定めるため、視線を彼女に戻そうとする。
が、次の瞬間。何故か後頭部に引っ張られるような、激しい痛み。目の前には白い肌。
……腕?
そう思ったのも束の間、視線がぐるりと回り地面がすさまじい勢いで迫る。
なすすべなく、受け身も取れずに叩きつけられる。
ぼんやりと薄れゆく意識。頭を強く打ち過ぎたらしい。
畜生、まだ、終わるわけにはいかないのに……
第二部スタートです。
書き溜めが上手くいかなかったのでガクブルしてますが年末まで毎日更新目標に頑張ります。




