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And, journey goes on.

後篇です。

「アイン君!」

 気が付いたときには馬車の扉を開け、あたしは叫んでいた。

 呼んで、叫んでなんになる? 無責任に、ただ、自分のわがままだけで金も力もまだない彼を帝都に連れて行ってそれでどうするんだ。フォローできるかどうかも分からないくせに。


「アイン君! アイン君! アイン君!!」

 だけど、口は一心不乱に声を張り上げ、彼の名を呼び続けた。

 



 ―――あたしはまだ、彼と一緒にいたい!


 心の声が叫んでいる。その気持ちはあたしの身体を動かしていく。あたしは無意識に彼の方へと手を伸ばしていた。










 遠ざかりつつある馬車。手を振るティアの表情ももうはっきりとは見えなくなっている。もう少しすれば速度も乗って今よりもずっと早く小さくなっていくのだろう。

 結局、ジェシカさんはお別れを言ってはくれなかった。でも、それは別れを惜しんでのことだとそう思いたい。そんな都合の良い願望が頭をよぎる。

 もっとも、もうそれを考えたところで意味はないよな。馬車をちゃんと見送ったら、村へと帰ろう。そう思った時だった。


「アイン君!」


 聞きなれたその声が群衆の声を掻き分け、俺の耳を刺す。

 

 ジェシカさんが呼んでいる? なんで?


 頭をよぎる疑問。しかし、それを置いたまま、俺は無我夢中で遠ざかる馬車へと走りだしていた。

 今、駆けださきゃいけない。

 見えない力が俺を、突き動かしている。










 伸ばした腕の先。

 人の群れから飛び出し駆けてくる一人の少年が見えた。

「アイン君っ!!」

「ジェシカさん!」

 馬車の屋根を支える柱に空いている方の手をかけ、身を乗り出して手を伸ばす。

 必死に馬車を追いかける彼。しかし馬車は速く、ジリジリと彼の姿は遠ざかっていく。


 不意に、体が後ろへと引っ張られる。あたしと彼をより強く引き離すように。その力に負けないようにもっと身体を腕の先へと突き出す。あたしは落ちそうになりながらも、それでも精一杯に手を伸ばす。彼の手を掴むために。

 

 その時を境に、彼は段々と走る馬車に近づいてきてた。

 なんで? 胸を突く疑問に思わず振り返ると、そこにはいつの間にか御者のすぐそばに移動していたティアが顔の前で両手のこぶしを握り縦に振りながら、「頑張れ」と見て取れる口の動きをして立っていた。

 ありがとうと呟き、再び彼の方を見ると、その姿はすでにもうそこまで近づいていた。真剣な眼差しをあたしに向け、彼もまた、あたしに腕を伸ばそうとしている。


伸ばされた腕のその先、指先が微かに触れる。掴もうとするもしかし、手は空を切ってしまう。


もう少し。


もう、少し。


そして、ついに手に温かで確かな感触が当たった。それを離さぬようあたしは手にぎゅっと力をこめた。



そして、ついにあたしは彼の手を掴んだ。




 




「も、もう。はぁはぁ。一体、なん、なんで、すか。」

 シートに腰掛けた彼は息も絶え絶えに彼はあたしに問いかける。なんて、言えばいいんだろう。

 気まずい空気が流れる。すでに馬車は再び速度を上げ、走り出している。私と彼の間に座るティアは嬉しそうに笑ってその様子を見つめている。

 他の乗客達は有り触れた草原を走る退屈な旅に降って湧いたことの成り行きを見届けようと、好奇の視線をあたし達に寄せている。それがなんかとても痛い。


「あ、えーと、そのぉ」

 言葉に詰まる。私から突き放したのに、今更一緒に来てほしい何て絶対言えない。かといえ、あんな恋愛小説みたいなことまでしちゃって下手な言い訳も言えない。八方塞がり。それに衆人環視のせいでなんだか顔が火照ってしまって余計に考えが纏まらない。顔から火が出るなんて嘘だと思ってたけど、きっと今、あたしの顔はまさにそうなっているに違いない。

 ホント、どうしよう。なんか、言わないと。



「アイン君の方こそ、何で追いかけてきてくれたの?」

 気まずい空気に耐えきれなかったせいかそんなことを聞いてしまった。

 名を呼ばれ(それも叫んで)、その上掴んでくれと言わんばかりに腕まで伸ばされて追いかけないやつはいないだろう、多分。どう考えても理由はあたしにある。

 なんで、そんなことを聞いちゃったかな、あたし!

 自分の発した言葉に後悔しつつ、彼の様子を伺うと目の前の彼は視線を左下に移し何かを考えているようだった。


「ジェシカさん」

彼は視線を戻し、あたしの目を見据え名を呼んだ。

「はっ、はい?」 

 あたしは思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

「ごめんなさい。自分でも正直何でかは分からないです。気が付いたら走ってたって言うか、何となく追っかけないといけない気がしたっていうか」

 彼はあたしが呼んだり、腕を伸ばしていたことには触れず、申し訳なさそうにそう言った。

 そんな風に言われるとあたしの申し訳なく思う気持ちに拍車がかかってしまう。


「で、お願いなんですけど」

 彼はそんなあたしの気持ちを知ってか知らずか言葉を続けた。


「俺、もう少しだけついていってちゃダメですか?」

 願ってもない提案に思わず頷きそうになる。でも現実的な問題を思い出し、あたしは踏みとどまる。

「......前にも言ったけど、もうお給料は出せないよ?」

 こんなことを言いたいわけじゃない。でも現実的にここ一週間近く二人分(途中からは三人分)の旅費を出してるし(入院費も立て替えたな、そういえば)、昨日は旅費は二人分で済むだろうというつもりでお金使っちゃったし、給料日前だしで、あたしの懐事情はかなり心もとなくなっている。貯金癖を付けとけばよかったとつくづく思う。


「俺、宿には泊まらないようにしますし、自分のことは自分で何とかします! 道中何とかして金も稼ぎます。......だから、お願いできませんか?」 

「もう、好きに......していいよ」

 

 せめて、感謝の気持ちくらいは伝えろよ、あたし。

 またも素直に言えない自分を心の中で思いっきり引っぱたき、今度こそはと気持ちを声に出す。


「アイン君、その......ありがとう」

 頑張った割には顔を俯かせ、目を背けながら呟いてしまったあたし。目だけでちらっと彼の様子を伺うと彼は照れくさそうに優しくあたしに微笑みかけていた。


 ティアのやったぁ! という声と共に馬車の中に拍手がチラホラと鳴り始めた。段々と大きくなるその音にあたしはもっと顔を俯かせてしまった。穴があったら入りたい。


 馬車は走る。

 一度は終わりかけたはずの『私達の』旅。

 それは快晴の空の下、盛大な拍手と共にもう一度始まった。

 

読んでいただき今までありがとうございました。


12月24か5辺りに2部をスタート予定です。

それまで一時完結にさせていただきます。


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