家族の思い出1 ピクニックとレーザービーム
この話、書いてたらなんと七千字近くになってました。
一話三から四千字という自分ルールに思いっきり抵触してるものの切り詰めるのが面倒だったので分割。それでも色々こまかに足し算したら四千字近いという。(´・ω・`)
ボス戦より上って、なんだこれ。
目を覚ました俺はカーテンを開け、陽の光を身体いっぱいに浴びつつ大きく伸びをした。あれだけ激しい戦いをしたはずなのにまるでそれが嘘のように身体は快調そのものって感じだ。もっとも、三日もろくに何も食べてなかったので昨夜のディナーは胃がほとんど受け付けなかったけど。
窓の外を見れば空には雲一つなくどこまでも青く澄み渡っている。目の前の市場はすでに活気に溢れ、平和そのものだ。絶好のレジャー日和。本当に晴れてよかった。
昨日、三日ぶりに目を覚ましたという俺に待っていたのはたったの一時間ほど検査だけだった。
それが終わると、「異常なし、健康優良児!帰って良し」の医者の言葉と共に俺は病室から追い出され、今は宿の一室に戻っている。
「パパ! 今日はお出かけだよ!」
「おはよう。でも、まだ起きたばっかりだよ、ティア」
気がつけば眠れなかったのだろうか、少し目を赤くしつつも溢れんばかりの笑顔を湛えるティアがもう青いワンピースに着替えて、軽く開かれたドアのノブを両手で握ってピョンピョンと飛び跳ねている。
「目が少し赤いよ? ちゃんと寝たの?」
「寝たよ、ちゃんと。二時間!!」
「みじかっ!」
「大丈夫! さ、早く早く」
楽しみで眠れなかったのだろうか。それでもティアは元気にそうにまだ飛び跳ね続けている。
「陽の昇る前から八時はまだかな? まだかな? って時計見ながらずっと言っててうるさいもんだからおかげであたしもあんまり寝れなかったよ」
ティアの上からジェシカさんは気だるそうに目を擦りながら顔を覗かせる。彼女もいつもの格好にすでに着替えて準備は済んでいるようだ。
「ふわぁあ。まぁ、やるとなったら今日はとことんやりましょ。ほら、早く着替えた着替えた!」「着替えた着替えた!」
気持ちの切り替えが済んだのか、途端にハキハキし出すジェシカさん。俺も別にだらだらと時間を無駄にする気はないんだけれどもさ。
「あの、とりあえず、ドア、閉めてもらえません?」
ティアが攫われる前、馬車の中で二人で泣いていた俺達はささやかな約束をしていた。
一日だけ俺はティアのパパになる。
一度でいいから俺の娘として過ごしたい。それがティアの願いだった。
多分、それがティアなりのケジメの付け方なんだろう。それでティアが満足して俺と別れられるなら。そう思って俺は約束を交わすことにした。そして、今日は約束を果たす日。
昨晩、そのことをジェシカさんに話すと彼女は反対した。目覚めたとはいえ、安静にしてなきゃだめだろうと。バカなことを言ってるんじゃないと。俺の体を気遣ってのことだろう。その気持ちは有難かった。でも、医者からも太鼓判を貰っている。問題はないはずだ、多分。
そう自分に言い聞かせて俺は一歩も引かなかった。明日の馬車に乗るということは今日を逃せばティアとの約束は果たせなくなってしまう。死に掛けて危うく約束は果たせなくなりそうになったが、なんとか時間切れ直前にチャンスが巡ってきたのだ。この与えられた機会を逃すわけには絶対にいかない。
俺は粘りに粘った。三十分ほど話した後、「もう、好きにしなよ」ジェシカさんがそう言って折れて今朝に至っている。
いつもの私服に着替え鏡の前で身支度を済ませると、俺はドアを開けた。
「お待たせしました。さ、行こうかティア」
ドアの前で今か今かと待ち構えていたティアに向け手を差し出す。
「うん!」
満面の笑みを浮かべ俺の手にその小さな手を伸ばし握るティア。
「ママも」
ティアは反対の手をジェシカさんに向け伸ばす。えっ? あたしも? という顔をしながらもジェシカさんも手を繋ぐ。
「......あたしはお姉ちゃんがいいなぁ」
と呟きつつ。
「アインはパパで良いって言ってるよ? ね。いいでしょ? ジェシカママ?」
先日と同じ純真な子供の瞳攻撃を受けたジェシカさんは今回もあっさりと負けた。
「はぁ、まぁいいよ。さ、出かけましょう? ティア、パパ」
にこっと笑い俺をパパと呼ぶジェシカさん。その言葉がどうにもくすぐったい。
三人仲良く手を繋いで俺たちは街へと歩き出す。
ティアの希望でまずはデパートに行きバスケットと水筒、そしてティアが持ってきた子供テニスセットなる遊び道具を買い、屋台で買った昼食のサンドイッチ(どうやらティアはこれが中々に気に入っているらしい)と紅茶を詰め込み、毎朝稽古に来ていた草原のあの木の下までピクニックに来た。
木陰に入り俺たちは芝生に座る。青々と茂ったそれはふんわりとして柔らかくとても気持ちが良い。上を見上げれば枝葉の隙間から陽光が差し込んでいる。多分、ここに来るのもこれが最後だろうな。そんな感慨に浸りつつ、俺はそのまま芝生に寝転んだ。いつもは聞こえない街の賑やかな喧噪も今日は随分とよく聞こえる。それほどまでに平原には穏やかな時間が流れていた。
「パパ! ゴロゴロしてないでさ、『てにす』しよーよ。」
ティアはもうラケットとボールを芝に置き、遊び方の冊子を広げている。あれ? ティアって字読めるんだっけ?
「ママ、読んで!」
テッテッテとジェシカさんに駆け寄るティア。優しく身振り手振りを交えてやり方を説明するジェシカさん。のんびりとした時間が流れていく。
「よーし、じゃあ、いっくよー」
やり方を一通り教わったティアはボールを高々と天に放り投げる。俺は向かい側で小さなラケットを構えその様子を見つめる。
「えいっ」
初めてやるのでうまくいかず、ティアは盛大にラケットを空振りする。そして勢いそのままに顔からこけた。
「えぶっ! うー。もう一回!」
元気よく立ち上がったティアが再挑戦する。空振り。空振り。空振り。中々思う様にはいかない。
「パパ、代わって」
少しぶーたれた顔でボールをこちらに差出すティア。
「よーし、パパがお手本を見せてあげるから、しっかり見てるんだよ」
俺はボールを受け取り、放り投げラケットを振る。
「パパも、ダメだね。全然」
期待はずれですと言った感情の籠る視線に居心地の悪い気持ちを感じる俺。結局俺もうまくはいかなかった。当たりはするけど変な方向に飛んで行っちゃうんだよな。思い切り打ってもいないのに。力加減とその辺のコントロールがなかなかうまくいかず、中々遊び方に書いてあるテニスらしい打ち合いは始まらない。
「あー、もう! ちょっと貸して」
しびれを切らしたジェシカさんが俺からラケットとボールを引っ手繰る。ジェシカさんは二・三回ラケットを振り感触を確かめるとボールを高く上げ、ラケットを振った。
「うりゃぁっ!」
ビュン! バキっ! ゴッ!!
ラケットが強い風を起こすと、次いでラケットが折れ、打たれたボールはすさまじい速度で彼方へと飛んでいってしまっていた。呆気にとられていると、その先にある街の方から轟音が鳴り響いた。あれ、なんか街の壁が一部崩れていってるような……
「あ、あはははは。ごめん、久々だからかちょっと力入れすぎちゃった、かも」
頭にコツンと拳を軽くぶつけつつ、舌を出してウインクするジェシカさん。
ちょっと、じゃないでしょうよ、これは......
結局、ボールがなくなった上ラケットが壊れてしまったのと、城壁のことを謝らないといけないのとで、ランチは後回しにして二時間とせずに街へと戻る羽目になった。
「もーママのせいだよ。ぶー」
ティアはあからさまにふて腐れて見せる。それでもどこか楽しそうなのは多分俺の勘違いではないだろう。
「ホント、ごめんね。ちょっと謝ってくるからそこのベンチで待っててね!」
申し訳なさそうに言ったジェシカさんは崩れた壁を取り巻く役所職員の群れに向かって走っていく。
これは相当時間がかかるだろうな。と思いバスケットからサンドイッチを取り出し昼食をとることにする。
ティアは随分と食べ方がうまくなったようで具を取りこぼすことなくモグモグと小さな口を動かしご機嫌でサンドイッチをほうばっている。よっぽど好きになったんだな。
まだ胃が本調子ではない俺は水筒に用意していた紅茶を紙のカップに注ぎゆっくりと飲む。まだ少し胃にくるものがあるが昨日ほどではないかもしれない。
ふと目に入った空には朝から結構バタバタと動いていたのにまだ天辺までは昇っていないお日様があって、時間はまだたっぷり残されていることが見て取れた。一日を長く感じることがこんなに嬉しく思ったことが今まであっただろうか。
のんびりとそんなことを考えているとなんと二十分とせずに彼女は戻ってきた。
「ボールくらいで城壁が壊れるわけないでしょう? バカなこと言ってないで作業の邪魔になるので近づかないで下さい。 だってさ。老朽化だろうとかなんとか言って話してたわ」
その場にいた役人の真似みたいなニュアンスや手振りを交えつつ言うジェシカさん。
本当にそれでいいのかね? と思いつつ、俺はため息をつき、ジェシカさんにこれからのことを聞くことにした。
「で、どうします? 新しいやつ買ってまた戻りますか?」
「それがさぁ、これ、見てよ」
どこから持ってきたのかじゃーんなどと言いつつジェシカさんは一枚の紙を俺達の前に広げる。
そこには「移動遊園地バーナムワールド グリーン地方初開園!本日ついにオープン!! 夢と魔法の体験を貴方に」とでかでかと書かれた文字と共に、ピエロや見たこともない乗り物が紙いっぱいに描かれていた。
「これ色んな地方を回ってるはずなんだけど、今は丁度この街の裏手に来てるんだって! こんな偶然ってあるのね~。ねぇ、行ってみたいと思わない?」
食べかけのサンドイッチをポロリと落としそうになるほど目を点にしたままティアはコクコクと首を縦に振る。
「じゃあ決まり! お昼食べたら行きましょう」
そう言ってジェシカさんもベンチに腰掛けバスケットからサンドイッチを取り出しほうばる。
俺たち家族の一日はまだまだ続く。
というわけで続きます。
後半部分もあとは調整だけなので、余裕綽々の予約投稿が使えそうでゲス。
このマージンを利用して一部最終話もとっとと書いてしまおう。(*'▽')




