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眠れる病室の少年

 レビューを書いていただいたエレファントさん、ありがとうございました。

 昨日のPVが400近くなってて、もしかして今日中に上げれたらの言葉にみなさんがチェックしてくれた!? ひぇぇぇ申し訳ねぇ と考え一瞬戦慄しましたが、どうやらレビューのおかげだったようです。すげぇ(;´∀`)


 病院というやつはいつ来ても落ち着かない。光沢のあるタイル張りの廊下を歩きながら思う。


 買ってきたお弁当の入る袋を片手にぶら下げ、廊下の奥、扉に『1』と刻まれたプレートのついた病室に入る。狭いその部屋には中央に壁にくっつけるようにしてベッドが一つとその横に水差しを置くテーブル、ベッドを挟みこむように椅子が二つ置かれている。

 ベッドの横、窓際に置かれた椅子には背もたれに寄りかかり口をあんぐりと開け、目を閉じ眠るティア。あたしがお昼を買いに外に出ている間に窓から差し込む陽ざしの暖かさで眠ってしまったようだ。

 そしてベッドの上には短いざんばら髪の少年、アイン君がまるで死んでいるかのように、呼吸も感じさせぬほど静かに眠っている。

 扉側のもう一脚の椅子をそっと引き寄せ座ったあたしは、一昨日の出来事を思い出す。



 三日前、ジョルデスト逮捕に赴いた洞窟であたしは復活してしまった一つ目の巨人をみんなから遠ざけつつ戦った。

 思った以上に強く、また急所の分からない初めての相手に正直なところ苦戦した。普通に殺してしまおうとすればそれほどかからず事は済んだと思う。でも、それはしなかった。立場上それは出来なかったし、やりたくもなかった。だから無力化するのに思わぬ時間を要してしまった。洞窟の暗さで視界が利かないこともあったと思う。今にして思えば洞窟の入り口でさっさと片を付ければ良かった。

 でも、その時レーダーに映る光点は近くに一つしかなかったはずだった。あたしは多少長引いても問題ない。それよりも被害の出ないようなるべく遠ざけよう。そう考えていた。

 なんとか巨人を気絶させたあたしが戻ろうとしていると正面から脚に無数のキズを負った別の巨人が静かにこちらに向け歩いてきていた。剣を構えるも、巨人はあたしを一瞥し、闇の中へと静かに消えていった。何があったのだろう。不安を胸に巨人の来た方向へと駆けだしたあたしの目に映ったのは、倒れたままピクリとも動かないアイン君と彼に覆いかぶさるように大声で泣きじゃくるティア。少し離れたところに岩の壁に寄りかかり気絶しているガト。何が起こったのか見当もつかなかった。

 そして、その後、目を覚ましたガトと落ち着きを取り戻したティアに事の顛末を聞き、あたしはようやく事態を把握した。



 自分の分の冷めかけた弁当を食べつつ、巨人を圧倒したと言う彼の顔を見つめる。まだ少しだけ幼さの残るその顔。一週間ほどの間だが毎日傍で色んな表情を見せてくれていた顔。中でも疲れた表情が多かったかな。退色して茶色くなった髪は出会った一週間ほど前よりも明るくなっている気がする。この一週間晴れの日が続いていたし、なんだかんだでずっと外を連れまわしてきた。実際、よくついてきてくれたものだと思う。彼の前にホワイト地方で雇った彼よりも体格の良い男など給料も受け取らず一日で脱走してたっけ。

 

 まさか、あたしがこの一週間に無茶させ過ぎたせいじゃないよね?

 

 なんてことも考えたがおそらくそれは関係ないだろう。

 彼を診た医者が言うには、医療魔法師がここにはいないので断言はできないが体に異常らしきものは見当たらないという。骨折どころか擦過傷も見受けられない、と。

 

 アイン君が、モノアイタイタンを追っ払った? それも無傷で? ありえないとあたしは思った。彼の実力はここ数日稽古をつけていたあたしが多分一番よく分かっている。しかも一度ボロボロにやられた後に? そんなことあたしにだって不可能だ。


 もしこの奇跡を起こせる可能性があるものがあるとすれば......テクマタイトの使用。あたしはそう結論付けた。

 だとすれば、この眠りが覚めない原因は。最悪の予想が頭をよぎった。


 それに気づいたあたしは図書館に行ってテクマタイト関連の文献を片っ端から調べた。しかし、すぐにパタリと死ぬ人もあれば、このような状態になって暫く経った後死ぬ者もいるという色々な報告例が調べるほどに出てくる。結局、彼が無事に目を覚ますという確信を得られる文献は見つけることが出来なかった。



 勿論、例え目を覚ましたとしてもすぐに彼とは別れることになる。そんなことは分かっている。あたしがついてこないよう言って突き放したのだから。


 でも、あたしは彼が目覚めるまで待っていたいと思っている。

 彼とはちゃんとお別れをしたい。初めて今のあたしと旅を共にしてくれた人だったから。

 願わくば、また出会って、今よりも成長した彼と一緒に旅して、笑いあって。そんな未来が来てほしいと思う。

 だから、だからちゃんとさよならしたい。いつかまた笑顔で会えるように。


 とは言え、いつまでもここにいるわけにも行かない事情もある。もう事後処理は全て終わってるし、ジョルデストの自供も取れた。ここでの仕事はもう終わっている。流石にそろそろ一度帝都に戻って報告をしないといけないし、課からは魔伝で帰還の催促も届いている。

 それにこの少女、ティアも帝都に連れて行かなければいけない。二日後には二週に一度の帝都方面行の馬車が出る。この子に歩きでの旅を要求するのは酷だろう。それには乗らないといけない。

 あたしたちは待てて、あと二日。それが限界だ。




「んみゅぬ......アイン、やくそく、したよ」

 ティアは寝言を言いつつ、何かに寄り添おうとするように身体を傾けた。椅子から落ちそうになるのを慌てて手で押さえてやる。

 ティアの体勢を元に戻し、顔を上げると窓の外では気がつけば空模様が怪しくなってきていた。今日はもう宿に戻った方がいいかもしれない。 

 あたしは食べ終えた弁当を片付け、帰り支度を始める。



「わて、もう帝都に戻らんといけません」

 昨日ガトはそう言って最上級の栄養薬を残し、この街を去った。彼の期限は昨日だった。

 彼は別れを告げられぬことを残念がりつつも、アイン君が目を覚ますことを信じているようで、「栄養薬の代金は会った時に請求するってアインはんに伝えてくださいね、あねさん。じゃあ、お元気で」そう言ってガトはニカッと笑い、去って行った。

 彼のように物事を良い方向に考えることの出来ない自分が、少し情けなかった。

 

「ねぇ、アイン君。早く起きないとさ、あたし達ともお別れ、出来ないよ」


 あたしは気がつけば静かに泣いていた。目頭が熱くなり、涙が溢れる。やがて頬を伝ったそれは床のタイルに落ち、小さく音を立てた。

 続けてポタポタと垂れる滴。その音は急に激しさを増した。気が付けば外は景色が霞むほどの大雨だった。

「止むまで、帰れないか」

 あたしは椅子に腰を下ろす。涙の雫は止まらない。らしくないな、あたし。 

「ねぇ、目を、覚ましてよ……」



 

「また明日、来るからね」

 返事が返らぬことを知りつつも彼に声をかける。二時間ほど降り続いた雨が止み、帰り仕度を終えたあたしはまだ眠りから覚めぬティアをおぶさる。すっかり冷めてしまったティアのお弁当を腕にぶら下げ、部屋を出ようとドアノブに手をかける。


その時、


「じぇ、しか、さん......」

 弱弱しく枯れた声があたしの鼓膜を震わす。まるで死にかけの老人のような声。ひどく分かりづらいけど、このどことなく優しさを感じさせる聞き覚えのある声は......

 振り向くと、上体を起こした彼はぼんやりとした表情であたしを見つめていた。


「アイン君!!」

 あたしは思わず声を上げる。

「俺、あれ? ごほっ。巨人が、あれ? え、っと、ここ、どこですか」

 状況が掴めないようで目を白黒とさせながら、あたしに問いかける彼。きょろきょろと首を回し辺りを見回している。


 あたしは再び瞳を覆い始めるものをごまかすようにキッと表情を引き締める。

 彼に涙を見せるのはなんか、嫌だったから。


「あの、ジェシカさん?」

 未だ状況の掴めていない様子の彼はあたしを見つめている。


 さてと、なんか言ってやらなきゃ。なるべくいつも通りにね。あたしは一瞬考え、口を開いた。


「遅いぞ? アイン君」

 


 というわけで初めてのジェシカ回でした。

 短めにと思ってたらついつい妙に長くなってしまいました。だが、それに応じて時間もかかるというジレンマ。


 あと二回程で一区切りの予定です。次話はほんわか回。

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