人の強さ、怪物の強さ。
公言通りアップ出来たぞー! うぉぉぉ!!
警部は二人の男を取り出した手錠でしっかりと拘束すると一人目を背負い、洞穴の外へと向かっていった。ただ、待っているのも危ないので俺はもう一人の男を担ぎ上げ、ガトに対してはマジックカノンの運搬をお願いしその後追う。
「自分で売ったものをまた運ぶってのも不思議なもんですな。あ、ティアはんランプはもうちょい先を照らすようお願いします」
「こうかな?」
「うまいうまい! ティアはんなら一流の照らし屋になれますな」
「えへへ。照らし屋さんだって、アイン」
「そんな職業ないだろ、ガト」
「ネタばらし早すぎですよ、アインはん」
俺たちはゆっくりと喋りながら洞穴の外を目指し歩く。さっきレーダーを見た感じだとこのあたりにタイタンはいなかったはずだし、モンスターが出てもガトがなんとかしてくれるだろう。武器もあるし。
「悪いね、ガト」
「ええんですよ。別に。友達やないですか」
ふと、ジェシカさんのことが頭をよぎったが、あの人に限ってやられることはないだろう。
「それにしてもアインはん」
ガトが、抱えているマジックカノンをいじりながら聞く。ピッという音と共に光っていた部分がその明かりを落とした。
「一昨日一緒にここ来たときよりも強くなったんと違います?」
「そうかな?」
「わてもそないに戦闘に詳しい方と違いますけどね。動きがスムーズになったいうか、無駄がなくなったいうか」
「ビリジアについてから毎日ジェシカさんに稽古つけてもらってるし、夜は鍛練もしてるし。そのおかげかな」
正直、誉められるのは照れくさいものの、自分の頑張りを評価して貰えるのは物凄く嬉しい。
そうか。俺は強くなれているんだ。
「今のアインはんならもしかしたら一人でモノアイタイタンくらい倒せるやもしれませんねぇ」
「そうかな? あはは。それくらいになってると嬉しいんだけどね」
こんなやり取りをしていたのがほんの3分くらい前だったろうか。緊張のためか時間の感覚がおかしい。
今俺は、先ほどまで背負っていた男を下ろし、剣を中段に構え、目の前の暗闇に全神経を研ぎ澄ませている。
あの会話の後すぐ、位だっただろうか?
出会い頭に姿を現した巨人・モノアイタイタンに気づかれ、追いかけられたのは。
素早いガトはともかく、男を背負っている俺とティアの足では間違いなく逃げきれないと判断した俺は、応戦することを決意した。
ランプの明かりが届かないため、巨人の姿は未だ見えないが、一定のリズムで段々と近づく振動の強さとその足音が巨体の接近を確かに示していた。
モンスターにも嗜虐的な感情なんてものがあるのだろうか? ジェシカさんを追っていったさっきの巨人の速さからすると、明らかにこいつはゆっくりと歩いてきている。まるで、のろまで弱い小動物をじわじわと苛め殺そうとしているかのように。
明らかにこの巨人は俺のことを格下に見ているという感覚と、普通に闘ってもどれだけ通用するか分からないのに、それどころか相手の姿も見えないという状況に対する絶望感に苛まれる。
一体、どうすればいい。そう考えていると、
「アインはん、伏せて!」
声と共に、俺の後方からバチバチという音と共に、光る何が倒れこむように伏せた俺の頭上を一瞬で飛びぬけ、闇の中へと進んでいった。次の瞬間にはその光に全身を包まれた巨人が目の前に現れる。まるで巨大なライトにでもなったかのように巨人は辺りに光をもたらした。思わず腕で目に入る光を遮る。
ガト放ったマジックカノンの弾が直撃したようだった。
暫しの間、光が辺りを照らした後、ゆっくりとその光は収まっていき、同時にバチバチとうるさかった音も消え、今度はブスブスとタイタンの身に付けている獣の皮から発せられる音と焦げ臭い匂いが空間を覆う。
幸いなことに明かりだけは消えなかった。雷光に代わり、炎の放つオレンジ光が辺りをぼんやりと照らし始める。どうやら今の電撃で天井にぶら下げられてた炎の魔法石に火が点いたようだ。
「やったか?!」
ガトの声が洞穴に響く。
その残響が消えぬうちに、巨人は苦しむような低い唸り声を発し、左手で顔を押さえつつ、腕をがむしゃらに振り回し始めた。
好機が訪れた。巨人の動きを押さえることには失敗したようだったが、これは間違いなくチャンスだ。
そう判断した俺は即座に上部の採掘のために階段状に削られた岩を駆け上り、眼下の巨人の背をめがけ剣を上段に構え跳躍する。
狙いは、棍棒を持つ右腕の付け根。腕を一本でも切り落とせば戦意を失ってくれるかもしれないし、どちらにしても確実に深い傷を負わせ、武器を一時的に奪うことが出来る。
落下による重力の力と俺の体重、腕力、そして俺が今まで身に着けた剣に力を伝えるための術、その全てをかけた一撃をこいつの腕に叩き込む!
跳躍し上昇していたはずの俺の体は、やがて落下へとその運動の方向を変える。まるでスローモーションのようにゆっくりと、だが確実に迫る岩のような筋肉をむき出しにした巨体。
まだ、早い。
まだだ。耐えろ。
......今だっ!
巨人の体に当たる剣に力を伝えるに完璧なタイミングで俺は剣を渾身の力で振り落す。俺の人生の中で最高の剣戟が、剣の刃の風を裂くブゥンという音と共に巨人の右肩に直撃する。
しかし、俺の剣が巨人の肉体を断つことはなかった。硬質な音を立て俺と剣は弾かれる。それどころか、剣が弾かれた反作用で巨人の背から離れつつある俺が見た、剣の当たったはずの場所には傷の一つもついてはいなかった。
自分の無力さに打ちのめされながら落下した俺は、受け身を取ることも忘れ、背中から地面に着地してしまった。その衝撃に俺は呼吸が出来なくなる。
早く立ち上がらなければという焦りと、死に対する恐怖、そして未だ残る無力感。それが一気に押し寄せ、俺の頭をグルグルと渦巻き、思考を支配する。
それでも何とか息をすることが出来るようになり剣を杖替わりに地に突き立て、なんとか立ち上がる。
前を見据えようとする俺の目。そこには巨大な茶色の壁が強風と共に俺に猛然と迫っていた。
それが巨人の持つ棍棒だと認識した俺は、それを受け止めるため無意識に剣を構える。腕に耐えがたい衝撃が走ると共に、まるで脚の速い馬に乗っているかのように俺は地を滑る。木の壁が、巨人が遠ざかっていく。
そして、次の瞬間には今まで体験したことのない衝撃と激痛が背中に走り、目の前の景色が動きを止める。どうやら岩の壁に叩きつけられたらしい。
肋骨、下手をしたら背骨も折れただろうか。猛烈な吐き気を催し、壁に寄りかかったような姿勢のまま俺は嘔吐し、そのまま倒れこむ。出てきたものは鮮やかな赤い色の液体だった。どうやら臓物もやられてしまったらしい。
これは俺、死ぬな。なぜだか無感動にそう感じた。本当に死ぬときってこういうものなのだろうか。
まだ、立たないと。ティアやガトを護らないと! 闘わないと!!
俺の中の俺が必死に叫ぶ声が聞こえる。
どうやって?
俺は問う。
涙か、血か。液体に覆われていく瞳の映す視界がぼやけていく。ぼやけて滲んだ世界はだんだんと見たこともない色の光で染まっていく。全ての絵の具を中途半端に混ぜたような、強いて言うなら鈍く汚い虹色だろうか。それがじんわりと明滅を繰り返している。何故だか、知っているような光。
無意識に体を転がし、光源を探すと、俺が打ち付けられ、砕かれた岩壁の奥にその光源、鈍く光る別の岩の壁が見えた。
その瞬間、俺の中にある単語が浮かぶ。かつて読んだ本の一節。嘘だと分かっていても大好きだった物語。そこに書かれていたものと完全に一致する光。それを見て俺は思わず呟く。
「テクマ......タイト?」
夢中で書きすぎて1時間しか寝れねぇぞ・・・やべぇw




