アインの気持ち、ティアの気持ち。
プロットが頭の中にもやっとしかないせいか書いてるうちにどんどん変わっていきます。不思議ですね。方針は決まってるので一応ブレはしないんですけど。
ハウンダー邸を出ておよそ一時間。馬車は今、切り立った崖と崖の谷間をかなりの速度で走っている。崖の高さがあるためか今頃かなり高く上っているはずであろう太陽の光も残念ながらここまでは強く差し込んでは来ない。薄らとした日陰の中を俺たちは進む。
鉱山として利用するため、大昔に渓谷を作った川の流れは変えられている。そのため俺たちが今馬車を走らせているかつて川底であった場所は、枯れた岩と錆の浮いた何年も使われていないレールくらいのものしかなく、時おり放置されている資材や壊れたトロッコ、そして小さな作業小屋があるばかりだ。向かう先には峡谷がグネグネと曲がっているため一面岩の壁。壁面には稀に坑道の入口である人がギリギリ通れる位の大きさの穴が開けられていて、高いところには当時資材の上げ下ろしをするために使われていたであろう滑車が残っていたりする。
「停めろ!」
警部の声に馬の蹄が地を滑る音と、車輪を止めるブレーキの音とを盛大に立て馬車が止まる。
渓谷の途中、大きく半円に谷が弧を描く場所の丁度真ん中くらいのところに予想通り、ジョルデストが昨日乗っていた馬と馬車が、鉱山夫達が当時使っていたであろう蹄洗場に停まっていた。少し上を見上げれば緩いスロープ状になるよう削られた岩肌の先に巨大な洞穴がその口をぽっかりと開いている。
「昨日見てきた様子だとこの峡谷内で鉱山に入り易そうでかつ、巨大なモンスターを出せそうなのはここの大穴以外にはないと思います」
思ったよりもエリアが広かったのと犯人の情報が手に入ってしまったため、坑道内は昨日あまり探索しなかったが、峡谷内でモノアイタイタンを表に引きづり出せそうなポイントはここだけだったはずだ。
「警部は何か知ってる?」
ジェシカさんの問いかけに警部は頭を軽く指で押さえ、記憶の底をさらう様に話す。
「元ハンターの若いやつが言ってた話だと確かモノアイタイタンってやつは表に出てくることがほとんどないらしいな。坑道の結構奥深くにまでいかないと遭遇することはまずないらしい。きっと暗いとこが好きなんだろうさ」
馬車から降りるなり、ジェシカさんは剣を握っているのとは反対の右手で例のホタテの貝殻を開き、「良かった、終わってる」と呟いた。
「何が良かったんですか?」
「グリーン地方には今、あたしとは別で調査が入ってるのよ。見て」
そう言ってジェシカさんが馬車の中の俺たちに見せたレーダーの画面には、端の方に黄色い点が幾つか固まって表示されていた。中心より下ではすぐそばに何体かいるように映っているがおそらく向かい側の崖の中だろう。
「こいつぁ、なんだ?」
「モノアイタイタンの現在位置よ。もうマーキングは済んでるみたい。あたしがブラウン地方に出向いたのと同じくらいの頃合いだから終わっててくれないと困るんだけどね」
警部は老眼気味なのか目を細めつつ画面を注視する。
「嬢ちゃん、そんなもんどこから持ってきたかは知らねぇが、どのくらいの範囲まで映るんだ?」
「おおよそ半径三kmってとこかしら?」
「ってことは全体までは写ってねぇのか。それに高さもわからねぇな。それじゃ使えねぇぞ」
「まぁ、元々そういう目的のものじゃないから。でも、これ、怪しくない?」
ジェシカさんは指で一ヶ所、中心から左上部分を指し示しつつ再び画面をこちらに向けた。そこには1つだけ孤立した黄色い点があった。
「およそ1km先ってとこか。ここからも近いしこいつは怪しいな」
「何らかの形でおびき寄せたのかもしれないわね。偶然の可能性の方が高いけど。どう考えても2体なんて相手出来るモンスターじゃないから1体の奴を手当たり次第に探してくしかなさそうね」
みんな分かっていたとは思うが、このマーキングレーダーは課の人間位にしか行き渡っていないかなり特殊なものだ。そもそも装置の持つ目的もジェシカさんがさっき否定したようにモンスターの場所の特定が主ではなく、個体数把握のためのものだ。
「しょうがねぇな。よし、ザッケルとクリーニはここでホシが出てこねぇか見張っておけ。後発隊も着き次第、配置。相手は武器持ってるらしいからな、狙撃も前提に入れとけよ!ジェティ、二・三人見繕ってお前は俺についてこい」
ザッケルとクリーニという部下二人はそういわれるや否や、馬車に乗っていた他の隊員に指示を出すため馬車に駆け戻り、ジェティは銃を構えつつ他の警官に声をかける。
「さぁ、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。行くとしよう。だが、その前に」
警部はそれまで大人しく俺たちについてきていたティアに対し、わざわざしゃがんで目線を合わせ言った。
「お嬢ちゃん。君がついてくるにはここは危険すぎる。わかるね。武器を持った犯人が何をするかもわからん。どうか待っててくれるね」
「いや。もう、一人になるのは嫌だよ」
ティアはそう言って悲しそうな目をして警部の言うことを拒否した。
それを聞いてあきれ顔を作った警部も、そしてジェシカさんも俺に対し視線を向けてきている。二人が俺に期待していること、今俺がするべきことは一つしかないだろう。
「ティア、俺も一緒に残るから。それならいいだろう?」
「いいの? アイン」
「ジェシカさん、大丈夫でしょう?」
「そうしてあげて」
二人が洞穴内に入っていくのを見送った俺とティアは他の人たちの邪魔にならぬよう、馬車に戻り、ジェシカさんの帰りを待つことにした。
ティアはその間伏せ目がちにずっと黙っていた。俺も昨日のことがあったのでなんと話しかけて良いか分からず、手持無沙汰を紛らすため剣の手入れを軽くすることにした。この後、何があるかは分からないし。
気まずい雰囲気の中、俺が簡単な剣の手入れを一通り終えて剣を鞘に戻すと、その音を合図にしたかのようにティアは口を開いた。
「ねぇ、アイン」
「どうしたんだい?ティア」
「昨日はごめんなさい。さっきも」
「えっと、何が?」
「私ね、アインと、ジェシカともお別れしないといけないの、ちゃんと知ってたんだ」
ティアはそういうと瞳を涙で潤ませながら話を続けた。ティアは俺たちの話を聞いてないようなフリをしてホントは全部聞いていたらしい。
「でも、また一人になっちゃうのが、どうしても、嫌で、怖くって。ティアには、アインと、じぇ、ジェシカしか、い、ないから、ちゃんと、ダメだって、我慢、しなきゃって、分かって、た、のに」
嗚咽を交えながらティアは必死に言葉を紡いでいく。
「昨日、ね、アインと、ジェシカが、今だけでも、パパとママに、なってくれたらって......でも、ごめん、な、さい」
ついにはわんわんと声をあげて泣き出すティア。
ティアは本当は俺たちなんかが考えていたよりずっと大人だった。俺は昨日ティアに対してしてしまった態度がどれだけティアの気持ちを踏みにじってしまったのかを知り、目頭が熱っぽくなるのを感じた。
「ティア、ごめん。俺、ティアの気持ち全然分かってなかった。ごめんっ!」
俺たちがどうにか気持ちを落ち着けたのと、ジェシカさんと警部が暗い洞穴の奥から姿を現したのはほぼ同時だった。
警官達から上がる歓声に馬車から顔を覗かせるとジェシカさん達が洞穴から手錠をかけられた五人の男を連れて出てくる様子が見えた。先頭の男は顔を伏せているが、そのパーマのかかった黒髪と服の質からジョルデストだということが分かった。
「アイン君! ティア!ただいま!」
ジェシカさんは馬車から出た俺たちを見るなり、元気に手を振りながら走ってくる。
「ティア、ちゃんと良い子にしてたー? あれ。ティア、なんか、顔赤くない?」
ティアの顔を見るなり、ジェシカさんはその異変に気づいていた。そりゃぁ泣き止みたてだもの、分かるよな。
「アイン君! 女の子を泣かすなんて......ってアイン君も、赤くない?」
俺の方を少し怒った顔で見るも、同じように赤くなった顔に気づいたジェシカさんは今度は明らかに狼狽え始めた。
「え、あの、ちょっと? 何があったの?」
今まで色んなジェシカさんを見てきたが、初めて目にする様子に俺は思わず笑ってしまう。見ればティアもさっきまでとは違った涙を出しつつ笑っていた。そして気が付けば、俺もティアも声をあげて笑っていた。
「ちょっと、二人ともなんなのよ! もー」
俺たちの笑い声が峡谷に響き渡る。周りにいる警官達や警部もなんだか不思議なものを見るような、だが暖かい眼差しで俺たちの様子を見つめている。
だが、その顔はすぐに大きく響く地響きの音と、地から足が浮きそうな振動に皆恐怖の色に染まった。
なぜなら、洞穴の中から薄らとした影を纏い、巨大な一つ目の巨人が姿を現したのだから。
今日中にもう2回投稿を! いや、っていうかこの話の終わりまで持っていきたいのです。
休みを利用し一気に書き上げる!




