警察のやり方、ジェシカのやり方。
数分前にこの通りまで駆けてきた数台の警察用の馬車が豪勢な屋敷を取り囲み、幾人もの私服・制服双方の警官が、屋敷から出てくる者がないよう警戒に当たっている。ここからは見えないが裏の庭と接する道路の方にも似たような景色が広がっていることだろう。
特に門の前の俺たちの側には何人もの警官が慌ただしく行き来している。皆一様に俺たちと打ち合わせをしている中年のでっぷりとした男、今回の捜査責任者となったフォルゴス警部に指示を仰ぎに来ているのだ。
「よーし、バルナス! 配置終わったなら今から乗り込むぞ! クレイン嬢も御同行願えますな? それにしても、絶滅危惧モンスター保護管理課ってのは公安部とはいえ随分と特権をお持ちのようですな。われわれが貴方のようなことをやったら下手すりゃ首が飛びますよ」
うぇっと言う顔をしながら右手の親指で首を横に撫でつつ、天を仰ぎ皮肉たっぷりにフォルゴス警部は言う。
「課が急ぎで新設されたばかりなのと荒事が多いもので、やり方も少しくらいは強引にやっても了承が出るんです、今のところ」
ジェシカさんもこういった対応に慣れているのか、当たり障りのない形で会話をしている。
「まぁ、我々警察も出来立ての頃はやりたい放題だったようですし、いずれは貴女も我々と同じように苦労するようになるでしょうなぁ。おっと、だらだらしてると定時で上がれなくなっちまうな。よーし、野郎ども。行くぞ!!」
周りに指示を飛ばすと警部はドスドスという効果音でもするんじゃないかと思うようなどっしりした足取りで屋敷へと歩き出した。俺とティアも門の辺りで待機しその様子を静かに伺う。
ジェシカさんは警部の横を昨日と同じ格好でゆったりとした歩調で歩いていく。先ほどの警部の様子に影響されているのか他の警官達もしっかりとした足取りで歩いているので、ジェシカさん一人だけが浮いていてなんだかおかしな光景が出来ている。
やがて扉の前に着いた警部は黒い鉄の戸に付けられた金色のドアノッカーを大きな音を立ててならすと、通り一面に響き渡るほど大きな声で屋敷の中の人に通告する。
「ビリジアタウン警察のフォルゴス警部だ!ジョルデストハウンダー!!武器違法取引の容疑で貴方には逮捕状が出ている!扉を開けて出てきていただきたい!」
ガトの名誉の為に確認しておいたが、ジョルデストが特殊な武器の販売権を持っている人間から購入した品を第三者に転売したことが問題らしい。
僅かな時間、通りに静寂が流れる。警部がもう一度ドアノッカーに手をかけようと腕を上げ、リングを掴もうとしたその時、金属と石が擦れるギギギという音と共に扉がゆっくりと開き、昨日トロスとジョルデストに呼ばれていた初老の男が姿を現した。
「おやおや、どういうことかは分かりませんが、ジョルデスト様は只今屋敷を留守にしております。申し訳ありませんが、また日を改めていらしていただけますかな?」
執事は何食わぬ顔でしれっと答えた。
「残念ながらそうもいかんのです。逮捕状もそうですが、捜索令状も出ていますので。すみませんが、これより中を捜索させていただきます。バルナス!」
警部に呼ばれた若い警官が一歩を踏み出そうとする。
しかし、次の瞬間、彼の喉元には鈍く光る刃渡り十五cmほどのナイフの切っ先が突き付けられていた。バルナスと呼ばれた警官は踏み出そうとした右足を宙で止め、ゆっくりと元の場所へと戻した。
「その娘が何を言ったかは存じませんが、お引き取り願いたい」
ナイフの切っ先はそのままに、トロスはジェシカさんを睨みつつそう言い放った。ジェシカさんを見て何故このようなことになったのか事態を把握したのだろう。その目は離れていても分かるほどに明らかに憎悪の色が滲んでいるように見える。
「我々もここまできて手ぶらで帰るわけにはいかんのです。それともアレですかな? やはり見られては不味いものがあるからこそ、このようなことをなさるんですかな?」
警部は相手の武器による牽制に対して怯むことなく、むしろここぞとばかりに言葉を返した。
「私が問題にしたいのはあなた方のそのやり方の方です。私の主人があらぬ疑いをかけられていること甚だ不愉快ですが、だからこそ、そのような強引なやり方に対し屈したくはない! ここはお引き取りを願いたい」
「しかしですな、われw……」
ゴスッ!
鈍い音と共に、今の今まで気丈な態度で話をしていたはずの執事はナイフを高々と天に突き出したまま仰向けに倒れこんだ。
「警察ものとかの煩わしいやり取り、あたしさ、好きじゃないの。さっさと終わらせましょ?」
ジェシカさんは執事に裏拳を当てたままの姿勢でつまらなさそうにそう言った。
「これ、後で問題になったりしませんかねぇ?」
「あのトロスって執事は公務執行妨害ってことで身柄拘束したってことにしちまえばいいだろう。その件はもういいから、さっさと終わらせて来い」
警部は明らかに困り果てた顔で問題ありげな発言と指示を部下のバルナスに飛ばしつつ、高級そうなソファに座り、しっしっと虫を追い払うような仕草をした。
屋敷に入っておよそ一時間ほど、ジョルデストの帰りを待ちつつ、俺たちは屋敷に入り、玄関ホールにあるソファの前で捜査の様子を見届けていた。
件の証拠品の他にも数々の問題のありそうなものが次々と運びだされていく。だが、俺たちが発見を待っているものは一向に見つかっていないようだった。
しばらくしてバルナスさんは階段の上からこちらを覗き、捜査状況を告げた。
「警部! そちらの方から探すよう言われていたブツがどこにも見当たりません!」
「だ、そうですが? クレイン嬢」
機嫌の悪さを隠そうともしない言い方の警部。まぁ、あんな無茶なことをやられたあとではしょうがないかもしれないが。
「警部、馬車を一台。悪路走破性が高くてなるべく速いやつ。今すぐに手配して」
「はいはい、かしこまりました。一体今度はどちらへ?」
「ヴェルデ渓谷に。奴は間違いなくそこにいます」
例のブツ、マジックカノンが見当たらないということは、ジョルデストがいる場所は間違いなく、あの一つ目の巨人、モノアイタイタンのいるヴェルデ峡谷だ。




