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姫君の翼  作者: いろみず
4/8

遭遇、再会。

幼いころ、近所の丘でソフトグライダーを飛ばして遊んだのを思い出した。

母親に夕飯の買い物に連れられたときに買ってもらった、レシプロ戦闘機を模した安いソフトグライダー。

それを一日中、飽きることもなく丘の上から飛ばして遊んでいた。


その日の夕方も、丘の上からソフトグライダーを飛ばしていた。

水平に近づいて着ている太陽に向けてソフトグライダーを投げ続けていた。太陽に向かって投げれば、いつかは太陽に届くのではないかと、幼い頃の自分はそう思っていたからだ。


しかし現実はそんなはずはなく、ソフトグライダーは原っぱに胴体着陸をするだけだ。

次に投げて太陽に届かなければ今日は諦めよう、そう思い幼き頃の俺は思いっきりソフトグライダーを太陽目掛けて投げた。

胴体着陸を繰り返し、ボロボロのソフトグライダーはついに真っ直ぐ飛ぶことなく、左にバンクしていき、高い木の枝たちに捕らわれてしまった。


愛機を失い、俺はその場で泣くしかなかった。




そんなことを、目の前の光景を見てふと思い出した。


数十キロ先の、朝日を背景に、空の要塞から放たれる対空砲火、それに呑み込まれ、砕け散っていく金属製の戦闘機。

ソフトグライダーなんかではない。

生きた人間の操縦する、ジェット戦闘機が、ボロボロのソフトグライダーのように墜ちていく。


恐怖を感じて当然の光景だが、現実味に欠けるような光景でもある。


(あの対空砲火じゃミサイルも落とされる訳だ)

まずはいかにあの対空砲火をくぐり抜けるかを考えなければならない。

「マーキュリー22、まずは相手をよく観察しよう。弱点を見つけなきゃならない。」

「マーキュリー22了解。」

「初の実戦だ、必ずあいつを落として生きて帰ろう。」

「頼むぞ、隊長。」

「任せろ。まずはこの距離を保ったままアンノウンの周囲を回る。編隊を維持してくれ。」

「マーキュリー22了解。」

概ねアンノウンとの距離は20キロメートルくらいだろう。

少し見ただけだが、どうやら対空ミサイルよりも機銃が主な武装のようだ。

アンノウンは徐々に左旋回をしながら、頭を都心方向に向け始めている。こっちから見ると、機体の左側が見える状態だ。

アンノウンがどんな形になっているのかはよく分からないが、周囲に分厚い対空砲火をしているのはよく分かる。その周囲を、ベイパーを引きながら複数の戦闘機が戦闘機動をしながらミサイルを発射している。

「高射砲ではないようだ、あれは落とされてるミサイルの煙だ、マーキュリー22。」

「分厚い対空砲火だな。やっぱそう簡単には近づけないってことか。全く、交代まえにとんだハズレくじを引いちまったな。」

「もう少し距離を詰めてみよう。ここからでは分からない事も多い。マスターアーム点火。」

「マーキュリー22了解。マーキュリー22、マスターアーム点火。」

スロットルを開き、5キロメートル手前まで接近する。

アンノウンの左後方につく。

そろそろアンノウンの対空ミサイルの餌食になってもおかしくない距離だ。

激しく翼を振りながら機銃を回避しつつ、揺さぶられながらアンノウンを観察する。

さっきよりも対空砲火はかなり手薄だ。

もうほとんど撃ってこない。

形そのものはアントノフ225だが、発射口らしきものはよく見えない。

しかし、米国の戦闘機は周囲には見当たらない。

「大人しくなってきたな。」

「そうだな。米国はどこいった?」

「マーキュリー11からコンバットコントロール、米軍機は?」

「マーキュリー11、上がった8機は全て撃墜された。現在、直近にいた海上保安庁の艦船が救出に当たっている。」

「マーキュリー11了解。なお、アンノウンの抵抗は現在ほとんどない。」

「コンバットコントロール了解。可能であれば海上で撃墜せよ。」

「マーキュリー11了解。直ちに撃墜する。」

使用兵装をサイドワインダーにセット。

右のフットペダルを踏み込み、アンノウンの巨体をHUDに捉えると、耳障りな独特の電子音が高音になり、発射準備完了。

「マーキュリー11、FOX,,,,」



待て、待てよ?

お前は・・・

お前はだれだ?


突然、頭の中が真っ白になる



まさか



お前は・・・・・・そうなのか?



そうだよ。



なんでここにいる?



やっと会えたね。

ずっと待ってたの。



やっと、会えたのか?



うん。

とても嬉しい。




全ての音が、この世界が遠くに感じる。



「・・・ー2!、ミサイ・・・されたっ!!・・・キュリー・・・・!」



無線越しに聞こえる声で我にかえった。

「マーキュリー11!!、何してる!?助けてくれ!!」

次の瞬間、アンノウンから飛翔体が発射された。それは迷う事なく海堂洋一のスーパーホーネットに向かっていった。

「海堂っ!!」

本当に一瞬のことだった。

彼の乗るスーパーホーネットは垂直尾翼が吹き飛ばされ、キリモミ状態になった。

どっと冷や汗が出る。

エレメントリーダーである自分が呆然としていたために、ウイングマンをなくしてしまった。

誰よりも空を望まない男を、こんなことに。

(ベイルアウトしてくれ!)

すると、直ぐにキャノピーが吹き飛び、パラシュートが開いた。

(すまない。生きててくれ!)

彼が無事に救出されるのを祈り、再びHUD越しにアンノウンを見る。

もう光の柱が近い。

アンノウンは右に旋回し、光の柱へと向かう。

するとたちまちアンノウンは光に包まれ、目の前からも、レーダーからも消えた。

「マーキュリー11からコンバットコントロール、ターゲットロスト。」

「コンバットコントロール了解。幸い、戦死者が出てないのは奇跡だな。」

「それは良かった。マーキュリー11、フューエルビンゴ。RTB。」


調布基地への帰還をひとりで開始する。

再びさっきと同じコースでアプローチ。

なんだったのだろうか、さっきのアンノウンは。

あれは俺にコンタクトをしようとしてきた。そうとしか考えられない。

そして、とても敵とは思えない感覚を覚えた。まるで、久しく会っていない友人にでもあったような。


とにかく、今回の一件はみっちりと調べられるだろう。

タワーから着陸許可を受け、ランディングする。

ノーズギアが接地し、速度をタキシングできるまで減速。

そろそろタワーから、グランド管制へのコンタクトの指示が来るはずだが、なかなか来ない。

管制は何をやってるのだろうか。

「マーキュリーから調布タワー、グランドにコンタクトするぞ。」

「マーキュリー11、後ろに・・・」

無線が途切れる

後ろがどうした?

後ろを振り返ってみる。


「嘘だろ・・・」


俺は目の前の事が現実なのか、もう分からなかった。

巨大な、二枚の垂直尾翼の灰色の飛行機が、ピッタリと、ほぼ俺と同時に着陸したとしか考えられない距離で付いてきている。



さっき光の柱に突入していったアンノウンが、ピッタリとスーパーホーネットの後ろを地上滑走していた。

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