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姫君の翼  作者: いろみず
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停滞気味

朝方の5時過ぎくらい。

この時間のアラート待機は本当に座っているのが苦痛だ。

窓から見える東の空には、ぼんやりと東京湾にそびえる「光の柱」が見える。

あそこからはもう3年程はほとんどアンノウンは出てきていない。

俺が軍に徴兵され、一カ月目の5月、日本周辺の「光の柱」から無数のアンノウンが飛び出してきた。

制空権解放軍は半数の戦闘機、パイロットを失いながらも、奴らをなんとか食い止めた。

その戦いは「関東大空戦」と呼ばれた。

それ以来、「光の柱」から出てくるアンノウンは、戦闘機様ではなく、E-767を模したような飛行物体が出てくるようになり、スクランブルで発進して、ただミサイルをその無抵抗な機体に叩き込んで帰ってくるのが制空権解放軍の戦闘機部隊の仕事になっている。


アラート待機室のソファは座り心地が悪い訳ではないが、やはり夜通しじっと待機は楽ではない。

眠気覚ましにジョギングでもしたいけど、アラート機のすぐ近くのこの待機室からは離れられない。

スクランブルでもかかれば、嫌でも目が醒めるんだが。


隣のソファでは、僚機を勤める海堂陽一かいどうよういち)が背もたれに背中をべったりつけて、小説を読んでいる。

「こんな時間によく細かい字をずっと読んでられるな。」

眠気覚ましだ。どんな話題でもいい。

話でもしてなきゃ寝てしまいそうだ。

「読み始めたら、集中するから。眠気はあまり感じないよ。」

「俺にはそれは無理だな。」

俺は立ち上がって背伸びをする。

「スクランブル掛かんないかな・・・」

人間の三大欲の一つの睡眠欲を我慢するくらいなら、いっそのことちんたら飛んでるアンノウンを叩き落とすほうがましだ。

「やめろよ。言霊にでもなったらどうすんだよ。上がったら疲れる。」

こいつはフライトテクニックには長けているが、パイロットの仕事は好きではないらしく、今も地上での補給部隊の勤務の希望を出し続けているらしい。

パイロットの適性を持つ学生は、何が何でもパイロットにさせるのが今の軍の方針だ。

今はそれだけ戦闘機パイロットは必要な存在なのだ。



時計を見てみると、いまは5時半の少し前。

次のアラート要員が交代に来るまであと3時間ある。

スクランブルが掛かるなら、このタイミングが一番だ。

次の要員との交代直前に掛かったら、俺たちが上がんなきゃなんなくて、勤務時間が長引いてしまう。

頼むから、掛かるなら今にしてくれ。


それから会話も何も無いまま8時前。

もうスクランブルは掛からないでくれと祈っていたその時


待機室にベルが鳴り響いた。

飛び跳ねるようにソファから体を叩きだす。

目の前のドアを破るような勢いで開け、アラート格納庫に入る。

目の前には対空兵装を腹部に抱えたF/Aー18スーパーホーネットがいた。

タラップを駆け上り、コックピットへ体を収める。

もう勤務時間の超過などどうでもいい。

空に、上がりたい。

ヘルメット、酸素マスクのホースをを着装

電源をオン。HUDが点灯。

エンジンスタート。

轟音が格納庫の中にひびく。

整備兵が機体の前へ。

ハンドサインでの簡単な視力チェック。


車輪止めが外され、整備兵が下がったのを確認し、スロットルをわずかに開ける。

機体が前へ進み出す。

キャノピーを閉めて、敬礼で見送る整備兵に答礼する。


「調布タワーからマーキュリー11、マーキュリー22、離陸を許可する。高度3000まで上昇、要撃管制にコンタクトしてください。」

管制官からの通信。

まだ機体はアラート格納庫から出たばかりだ。

仕事の早い管制官だ。

「マーキュリー11了解、離陸許可。」

コールサイン、マーキュリー11の俺が先に答える。

続いてマーキュリー22、海堂が返答した。

格納庫を出ると、右には長いフェンスが、前方遠くに見えるサッカースタジアムの足元まで続いている。

フェンスの向こう側。

柳田と毎日一緒に歩いた道。

あの日、ここで彼女が先に走って行ってから、もうずっと会っていない。

俺は翌日から、戦闘機パイロット適格者として、立川基地に送られ、訓練を受けて今にいたる。

柳田の嫌な予感とは、この事だったのだろうか。

母校の校舎も、朝日を浴びて光っている。

戻りたいな、あの頃に。

柳田は元気かな。

そんな事を思いながら、誘導路を左折。ランウェイが横たわる。

少し進んで右のフットペダルを踏み込み、ランウェイに入る。機首は南に向く。


アフターバーナーに点火。

あの頃の景色は今日も後ろに吹き飛んでいった。


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