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姫君の翼  作者: いろみず
1/8

窓辺の戦場

初投稿です!

よろしくお願いします。

「時間です。問題を裏返しにして集めて。」

教卓の前で偉そうにする教師が時計を見ながら言う。

ようやく中間試験の最後の科目、家庭科の筆記が終わった。

教室中からペンを置く音が聞こえ、何人かが喜びの息を漏らす。


世間が世界各地に現れた「光の柱」からの進撃にピリピリしているというのに、教育者というのはこんな意味のあるか分からない座学をいつも通りやらせて、本当に呑気だと思う。

学校の目と鼻の先にある制空権解放軍の調布基地からは、いつもジェット戦闘機が飛び立ち、南へ向かっていくのが最近の日常だ。


問題用紙を前の男子生徒に回し、背伸びする。

ちょうど一番腕が高く伸びきったときだ。後頭部をつつかれた。

南野みなみの)、後で部室ね。」

二人しかいない、同じ剣道部の女子部員の柳田有里やなぎだ ゆり)だ。

髪は金色に近い肩までの茶髪、つり目で視線がキツい。

言葉使いも少し乱暴な所がある。おまけに気が強い。

女子生徒からも怖がられて、あまり女子生徒と一緒に居るところを見たことがない。

「オーケー。道場はまた使えないんだろ?」

「使えても練習しねーけど。」

「まあね。」

そう言って彼女は机に突っ伏した。


「突然だが、男子は昼休みのあと、体操着でグランドに集合すること。」

は?

男子生徒共がざわつく。

「男子だけ走るんじゃね?ザマア」

柳田は突っ伏したまま、笑いながらそう言う。

「じゃあ柳田はひとりで部室にいなよ。寂しくて柳田泣いちゃうかな??」

柳田が勢いよく顔をあげる。

「馬鹿じゃないの!?泣かないから!!」

柳田のデカすぎる声量の訴えに、クラスメートの視線が二人に突き刺さった。





梅雨だというのに、グランドの砂はやたら熱く、乾燥していた。

頭のうえをバタバタとやかましく解放軍の、たしかブラックホークとかいう緑色のヘリコプターが飛んでいる。

暑い気温のなか、暑苦しいゴリラマッチョの体育教師が走って校舎から出てきた。

男子生徒共はいつもの背の順にダラダラと並ぶ。

「それでは、今から行う種目を説明する。」

ゴリラの声が鼓膜をジェットの排気音のように刺激する。

「まずは3000メートル走測定!」

大ブーイングの嵐。

「腕立て、腹筋を30回!それが終わったら体育館に集合すること!3000メートル走は15分したら始めるぞ!」

なんでこの時期に体力テストなどやるのか。

多分ここの全員が疑問に思っているはずだ。

すると、一人が手を上げた。

「先生、体力テストをなぜいまの時期にやるんですか?」

「それは・・・先生からは言えない。」

男子生徒たちがざわつく。

「とりあえずこれはいつも以上にまじめにやってほしい。」

体育教師は一気に真面目で、低いトーンの声になり言った。

俺達は小言を言いながらもその意味深な課題は取り組んだ。


3000メートル走はトップ、腕立てと腹筋も30回問題なくこなした。

その後体育館では、身体測定の他にずっと片足立ちをさせられたり、半球状の装置に頭をいれ、視野を測られたりした。

普通の身体測定より明らかに精密なものだと、誰でも気づいていた。

生徒のなかには、「光の柱」が関係する病気の調査ではないかと噂がたちはじめた。

身体測定が終わると、パズルを何種類かやらされ、解散になったころには陽が沈んでいた。

制服に着替えて門をくぐり抜けると、柳田が待っていた。

「まだ待ってたの?」

「暇だったから!」

「寂しいんだ。」

「別に!」

柳田は見た目とは反対に、ウサギ並みの寂しがり屋だ。

いつも通り、二人で自然に並んで歩き出す。

「今日の男子だけのやつ、何だったんだろうね。」

「さあ、先生も教えてくれなかった。」

基地のフェンスが右側に果てしなく続く。

「私ね・・・」

柳田が小さな声で言う。

「ん?」

「なんか、嫌な予感がするの。」

左側を歩く柳田の横顔を見る。

大きな瞳、高い鼻、緩んだ襟元からチラつく鎖骨、細い首。

あれ?こいつこんなに綺麗だったっけ?

「どうして?」

「やっぱ何でもない。今の無し!バイバイ!」

柳田はそう言って、フェンス横の、果てしなく長い歩道を走って行ってしまった。

柳田は、さっきの一連の検査について何か知っているのだろうか?

彼女の走る後ろ姿は、いつも以上に女性らしく、綺麗だった。

フェンス越しに、戦闘機を降りるパイロットの姿が見える。

「光の柱」から現れられる未確認飛行物体との戦いで、制空権解放軍はかなりの戦闘機とパイロットを消耗しているそうだ。

まさか、行き詰まった解放軍が、高校生まで戦闘機乗りにしてしまう事は無いだろうか?

そのためにさっきみたいな身体測定をやったのか?

いや、珍しく俯いたテンションの柳田に、俺が不安になって考え過ぎてるだけだろう。

きっとそうだ。

そんなの有り得ない。

ただの妄想、妄想。

フェンスのすぐ目の前の、星を散りばめたようなランウェイを、向こうからスーパーホーネットと名付けられた戦闘攻撃機が滑るように走ってきて、真横に来る頃には脚が地面から離れはじめた。

内臓までえぐるような爆音と振動が、俺の背中をかきむしった。

「まさか・・・ね。」

振り返り見上げると、雀蜂は左に急旋回。

いつも通り、東の空に消えて行った。


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