目覚めた其処は…何故か異世界
「ようこそおいでくださいました、黒曜の姫。」
目覚めた私が見たものは、見慣れた私の狭い部屋とは違い、見知らぬオリエンタルな神殿の内装と、そしてなんともファンタジーな装いの面々でした。
頬を強くつねってみても痛みで涙が滲んだぐらいで夢から覚めるような気配もない。
もしやこれが俗に言う【異世界トリップ】というやつなのでしょうか?
しかしまさか自分があのファンタジーの王道・異世界トリップに巻き込まれるとは微塵も思っていなかったので、まだ寝惚けているのかと思いたかったけど抓る頬の痛みは増すばかりだった。
けれど未だ現実が受け入れられない私は最初に声をかけられたことも忘れて、目の前の光景を呆然と見ていた。
「こ、ここは一体…」
ポツリと漏らすと最初に私に声をかけただろう黒いローブ姿の男がそれに答えてくれた。
「ここはあなたのいた世界とは違うルナリアという世界です。
我々があなたをこちらの世界にお呼びいたしました。
あなたの都合も考えずお呼びしたことは心苦しいのですが、どうか我々の話を聞いていただけないでしょうか。」
「話ってなに!?
贄とかそういうのは断然お断りですよ!
あと、世界を救うとかそういう王道は私には無理です!」
無理難題をふっかけられる前に私は無力な女子高生ですと訴えると、男は困ったような顔をしながらも首を振ってそれを否定した。
「いいえ。違います。
その、贄…というのに少し近いのかもしれませんが我が世界の王達のつがいに…花嫁になっていただきたいのです。」
男の言うそれはまさに王道中の王道設定だった。
魔力が強すぎて普通の女では皇帝の子を身ごもれないから異世界から皇帝の子を身ごもれる女を召喚した、という事らしかった。
魔力ゼロの私はどんな容量の魔力でも受け入れることができるから、らしい。
「っていうかなんで私…?容姿的にももっと釣り合うような人を呼んだほうが…」
ローブ姿の男の背後に控える姿格好から皇帝っぽいキラキラした美形達。
平々凡々の私には全くつりあいそうにない。
むしろ並んで立った私の肩身の方が狭そうだし、ファンタジー設定は大好きでも自分の身に降りかかるとなると色々と別問題だ。
むしろ面倒ごととか疲れるのは極力避けたい。
こういうのは本やゲームで第三視点として楽しむに限る。
「召喚したのは皇帝達と一番相性の良い方で、誰でも…というわけではありません。
少々年は離れていますが皇帝達もあなたを大切にしてくれるはずですよ。」
まさかこのような少女とは…と男も驚いているようで年齢的に17よりかなり下に見られているようだ。
それはともかく後宮の争いに巻き込まれるのも嫌だし、おほほと笑って過ごすような貴族生活とか私には無理ですから!
それに美形王子が恋愛対象設定とか、乙女ゲーで散々してもうお腹いっぱいだし。
どっちかとういとちょっとずれた、魔王とか獣人とかドラゴンとかの相手の方がきゅんとするし。
「で、でもですね…私も好みというのがありまして、美形よりどっちかというとああいうちょっと変わった獣人さんの方が好みなんで…」
さりげなく断れないだろうかと、私は部屋の隅に腕を組んで控えていた白銀の毛並みの狼の獣人さんを指さしてエヘヘと笑った。
動物大好きな私は獣人系も大好物だ。
ドラゴンも勿論大好物だし、もふもふな動物もそりゃ大好物。
美形よりドキドキせず安心感と癒しがあるからだ。
あんな獣人さんが護衛だったら毎日ウハウハだろうなぁなんて妄想を膨らましていると、件の美形さん方と獣人さん、そして目の前の男の人もそれは驚いた顔をしていた。
あ、これで送り帰してくれるかななんて思った時、予想外に目の前の男の人の態度がコロリと変わった。
私の思う方にではない方に…だけど。
「そうですか、そうですか。それはようございました。
あの方も黒の国の皇帝なのです。
それに他の国の方々もあのような姿を取られますから安心してください。」
「…え?」
にこにこににこ笑いながら手でゴマをする男の言葉に私はただただ絶句するだけだった。
そしてゆっくりと美形な方々の方に目をむけると、彼らも何故かとても嬉しそうにこちらを見て笑っていた。
あれ?私…選択肢、間違えた?
その後固まったままの私は、皇帝と呼ばれる方々ととりあえず挨拶というか自己紹介をしたものの美形を目の前にした私は緊張のあまり相手の名前やら情報が殆ど頭には入ってこなかった。
今はまだ混乱もあるだろうからと黒いローブ姿の男が気遣って、あまり会話することなく彼らと引き離してくれたことは正直ありがたかった。
そして部屋での休息を勧められ案内されていた時、すごく立派な庭を見て私が足を止めるとそちらへ行ってみますかと侍女の方が案内してくれた。
案内役の侍女の方は気が済むまでゆっくりしてくださいと少し後ろで控えてくれていたので、私はその場に腰を下ろして緑いっぱいの中新鮮な空気を吸って深呼吸した。
混乱はまだしているけど少しだけ落ち着いた。
まだ異世界に自分がいるなんて信じたくもないけど…なんてため息をついたとき、庭の低い植木の中からぽぽぽんと何かが飛び出してきた。
子ドラゴンに、白い子虎、赤い子鳥に角の生えた子白馬。
全部ぬいぐるみみたいにミニマムで、それを見た私の目はキラキラと輝く。
か、かわいすぎるっ。
「怖くないよ~。おいで~。」
おいでおいでと手招きすると素直にとことこやってくる彼ら。
そして傍まで来るとおすわりしてちぎれんばかりにしっぽをふっている。
なんて愛い奴らなんでしょう!
なので遠慮なく撫で回さしていただきましたとも!
そして思う存分もふもふを体感した後、私は彼らと小休憩。
丁度その時ちょっと離れたバラ園の向こうに白銀の毛並みのしっぽが見えたので、あの銀色の獣人さんか?と思ったけれどよくよく考えれば私は彼等とは反対方向に別れて進んだのでそれはないだろうと判断した。
ではどんなもふもふがいるのかと気になった私は愛くるしい獣たちを引き連れて近付く。
向かった先にいたのは巨体を横たえて休憩していた白銀の狼だった。
あ、と思ったときには彼と目が合っていたけれど、狼の方は私に興味がないのかすぐに視線をそらして寝る体制に入った。
でも触りたい欲に勝てず、私は狼を伺いながらそろっと近付いて声をかけた。
「あ、あの…ちょとだけ触っていい?」
私の声に応えるように狼は片目を開けて此方を見たけど、またすぐ目を閉じてしまった。
そんな狼の態度に判断が困ったけれど、嫌だったら触ったときに怒るよね、なんて安易に考えて私は目の前の巨大な毛玉に手を伸ばした。
「わぁ…さらさらぁ…。きもちいい。」
見事な毛並みとその触り心地に最初は遠慮してびくびく触っていた私も次第に大胆に触る。
そして大きな体にぎゅーと抱きつき、もふもふの毛並みを体感した後、大きな肉球もぷにぷににぎにぎした。
一通り狼の体を堪能した後は柔らかなお腹を背もたれにして、飛びついてくる愛くるしい獣たちを抱きとめる。
「天気もいいし、日向ぼっこには丁度いいねぇ」
ぽかぽか陽気にニコニコ笑っていたけれど心地好い温度に眠気が誘われる。
いろんなことがあった分精神的に疲れていたんだろう。
私はその後暖かい毛玉達に囲まれながら夢の世界に旅立っていた。
目覚めたらいつもの自分のベットの上だといいなぁなんて思いながら。
しかしそんな私の戯れの様子を侍女が驚き見ていたことも、皇帝たちが魔法で覗き見していたことも勿論夢の世界に旅立った私は知る由もなかったのでした。
◆皇帝サイド《覗き見サイド》◆
魔法の鏡に映し出されたこの世界の聖獣たちと召喚された乙女の戯れを皇帝たちはただにこやかに眺めていた。
「黒曜の姫はやはり素晴らしい。
僕たちの半身もあんな姿を取るほど彼女をお気に召したらしいね。」
フフッと妖艶に笑う深紫の髪の男の横で金色の髪の男も見惚れるような笑顔を浮かべて乙女を見つめていた。
「ああ。召喚で花嫁を呼ぶのは躊躇ったが、彼女でよかった。
これならもう一つの姿にも怯えたりはしてくれないだろう。」
「そうだな。ヒューバードの姿さえ怖がらなかったのだ。
そして聖獣も恐れないあの娘は希望だ。」
「そうですね。この世界には彼女の様な方はまずいないでしょうしね。
しかしあれほどに幼い姫だとは…少しお呼びする時期が早すぎましたかね…。」
この世界では聖獣は世界の一部だ。神に最も近しい生き物。
皆が頭を垂れるのは当然、気安く触ることも許されない。
聖獣自身がそれを良しとしないせいもあるが、しかし鏡に映し出された聖獣に威厳というものはなかった。
威厳などかなぐり捨てて大好きな気持ちだけを全身で示している。
そんな姿は半身の彼らでも見たことがなかった。
けれど半身の喜びは彼ら自身の喜びでもある。
なぜなら彼らのもう一つの姿は、聖獣と同化することで獣人化し、彼らの力を借りることができるからだ。
「そうだな…。あのような幼い姫を親御殿から引き離すのは心苦しいものがある。
だからこそ、大事にせねばなるまい。」
「あんなところで無防備に寝てしまう姫君だ。
誰かにさらわれてしまう前に迎えにいかないとね。」
鏡の前から踵を返す深紫の髪の男の前に銀髪の男が無言で立ちはだかる。
「なんだい、ヒューバード。君は姫に興味はないんだろう?
俺の邪魔をしないで欲しいな。」
「……貴様がいかずとも奴らがなんとかする。」
男たちの視線は再び鏡の中へ。
鏡の中では聖獣たちが眠り込んだ少女を起こさないよう魔法で浮かび上がらせて、彼女を部屋へと案内している様子が映し出されていた。
「ふふ…シヴァより彼らの方が手が早かったようですね。」
そうして彼女の部屋の寝室まで運ぶと、人が三人以上寝れるだろう大きなベットの上に寝かせ、彼らも同じように彼女の傍で丸まって眠る体制をとる。
人の五倍はあろう大きさだった白銀の狼も今は他の聖獣たちと同じ大きさになり彼女の頭の近くで身を丸くして眠る体制に入っていた。
「…仕方ない。黒曜の姫の目覚めまで半身に任せるとしよう。」
侵入者を入れないために結界を張り巡らした彼らの半身にシヴァと呼ばれた深紫色の髪の男は肩をすくめて微笑んだ。
黙って鏡越しの彼らを見守る他の男達もそれには同意のようで、黙ってほのぼのとした光景を見つめ続けた。
〈END〉
※気紛れで続くかもしれない物語
※ここから自分用設定メモ
◆桃城 雪17才
乙女ゲー&漫画大好き高校二年生。
容姿は何処にでも居そうな普通の女の子。
父親がヘアサロンを経営しているので長い黒髪だけは唯一誇れるもの。
◆ヒューバード 28才
黒の国の皇帝。半身の聖獣は銀に黒のメッシュの入った狼型
銀の髪に黒のメッシュ、金の目。見た目から漂う冷酷さ。
美形でもてるが自分以外の者にも厳しく無能な女には興味がない為花嫁選びに消極的。
◆ドゥーラ 30才
緑の国の皇帝。半身の聖獣は緑の鱗のドラゴン。
体格のごつめだけれど美形の軍人系堅物お兄さん。
深緑の髪
◆シヴァ 26才
赤の国の皇帝。半身は赤いフェニックス
派手めなアラビアン風の衣装に、褐色の肌。
深紫の髪に赤のメッシュ、緑の眼。
少しタレ目な遊び人風美形。
◆クライム 27才
白の国の皇帝。半身は白い虎
金の髪に白のメッシュ、アイスブルーの瞳。
王道な王子様キャラ
◆カイン 29才
青の国の皇帝。半身はユニコーン。
深紺に青のメッシュ。魔導士風な温厚・温和。