死神は今日も笑う
私は死神。
世間一般の私に対する認識は英雄的な警察官。
だが実際は「死神」と――そう呼ばれている殺し屋だ。
警察はあくまで自分の犯罪を警察側から操り、完全犯罪にするための、いわば副業だ。
警察としての私は英雄だ。昔、とある事件があってからそう呼ばれている。
だが、その事件は私としては殺し屋としての失敗の思い出、黒歴史というやつでね……
あまり語りたくは無いので省略させてもらおう。
さてさて、殺し屋の仕事を続けるには大変不本意だが、警察としての役割を果たさなければならない。
なに、私の役目は簡単でね。街を歩きながら子供達に微笑んだり、老人達には優しくしとけばいい。そうすれば人々が勝手に私をさらに美化してくれる。
都合の悪い事があればそれはそれで悪くない。殺し屋としての仕事になるからな。
実に簡単なお仕事だろう。殺し屋と信頼されてる警察は正に鬼に金棒。さらにそれがどちらも自分ならば鬼に拳銃さ、はっはっは。いや、なに、ジョークだよジョーク。も少し笑ってくれてもいいんだよ?
ごほん、そんな私だが最近困っている事があってね。君のような知らないやつに見られる事なんだよ。
ふむ、君の周りは今暗いようだね。後数秒動かないでいてくれると殺りやすいんだが…
「なぁ、君も少し位返事をしてくれよ。なんだ…もう死んでいたのか」
とまぁ、このように誰にも気付かれる事なく殺しを遂行する事からついた名が、「死神」だ。
いやまぁ、私が自分でつけたんだがね。昔からコードネームとかに憧れていてね。だが、あいにく私は使えない道具は募集していなくてね。そこで自分で自分の捜査中に勝手につけたのさ。
いやー、一般人にまで浸透してくれて嬉しい限りだよ。全く。こればっかりは新聞社にも感謝だね、不安を煽る記事をこれからも是非書いて欲しいものだ。
そんな生活を送っている私なのだが最近困っている事があってね。新しく警察としての部下が出来たんだが、これが実に厄介な事に賢いんだ。
私には劣るがね。
それでもいずれ私の障害となる事は確実だろう。私の夢のためにもやはり消えてもらうかな。
そう思い立ったが吉日、私はその日の夜のうちに部下の家へと向かった。
若い癖に、一軒家に住んでいるとはいいご身分だな。だが私にとっては好都合。さ、鍵も開けたし。お邪魔しまーす。今はもう深夜だ。おそらくもう寝ている頃だろう。寝室をそっと開け寝ている部下へ近付く。
「こんばんはそしてさようなら」
そう言い刃を下ろそうとした、その瞬間横からナイフが私の脳に向かって飛び出てきた。私は間一髪で避けると意外にも部下から話しかけてきた。
「よぉ、泥棒って訳でもなさそうだな。その身のこなし、もしやお前がし」
「そのとおーり!レディース&ジェントルメン!お初にお目にかかる訳でもないが私が死神です。以後お見知り置きを…あ、今日が最後の日でしたね、いやー失敬失敬」
「最後を迎えるのはお前だよ、例え俺を殺したとしても俺の事を可愛がってくれる優秀な…え?…」
どうやら私がその上司だと気付いたらしい。そして私の近くに居るならばそれだけ私の能力の高さも知っているだろう。
「ははは、優秀な上司なんて褒めないでくれよー殺したく無くなってきちゃうじゃないか。ま、見られたからには殺すけどね」
そう言うと段々部下…いや、元部下の顔色が絶望で埋め尽くされていく。
「くふふ、そうその顔だ!その顔が見たいから死神を辞められないのだ!」
そう言うと元部下は叫びながら、こちらへとナイフを持って突っ込んできた。だが、こんな単純な攻撃が私に当たると思ったら大間違いだ。私は避けると同時に足の腱を切る。部下はさらに叫ぶがそんな事は気にしない。私はそのまま壁にぶつかり、もたれかかった状態の部下からナイフを奪い、喉元に突きつけた。
「さようなら、そしておやすみなさい。」
そう言って首を切った。鮮やかな鮮血が首から飛び散るが、顔は恐怖と絶望の暗い色。これだ、私はこれが見たいのだ。
私は笑う。
死神は今日も笑っていた。
あの後私は自分の家に戻りくつろいで居ると上司から1本の電話が来た。
「こんな時間に…すまんな…」
「いえいえ、それより何かありましたか?」
「あ、あぁ…その事なんだが。落ち着いて聞いてくれ、君の可愛がっていた新任の部下が、叫び声を聞いた近所の住人からの通報があり向かうと…家で――殺されているのが確認された。」
「なんですって!そんな、あいつは殺されるような…殺されて死ぬようなやつじゃ!」
「あぁ、ほんとにその通りだ。彼は賢く、勇敢で、誇りを持っていた。ひとまず君にも捜査に加わって欲しくてな。なに、落ち着いてからでいいから現場の家か署へ来てくれ」
「…………」
「悪いが無理はしなくていいが頼むぞ。」
そう言い残し電話が切れた。と同時に私は笑いが我慢出来なくなった。
何が「彼は賢く、勇敢で、誇りを持っていた」キリッだよアッハッハ。賢いだ?勇敢だ?誇りだ?そんなもの死んだらなんの意味もないというのに。私はそれから数分間声を我慢しつつ笑いながら眠りについた。
うん、いい朝だ。
私は日が登るより少し早く目が覚めた。
空は既に明るくなってきている。
めんどくさいが少し化粧をしなければ。私は目の下にくまを作りさらに目が腫れて見えるよう印象化粧をした。
うん、完璧。
私はひとまず現場である部下の家へと向かった。
現場に向かうと何やら上司と同僚が話し合っていたが私は気にせず挨拶をした
「おはようございます。あの後睡魔に負け、寝過ごしてしまい遅れました。申し訳ありません」
そう言いながら私は頭を下げた。
顔をあげると上司と同僚は涙ぐんだ顔になり、上司は私の肩に手を乗せ
「そうか、今日は気持ちのいい天気だからな、仕方ないよ」
と言ってくれ同僚も横でうん、うん、と頷いていた。
この2人には私は部下を失い悲しみで一晩中泣いていたが、仕事はしっかり遂行しないと、と思い現場に来た、部下想いのいい警官に写ったに違いない。
馬鹿かこいつら
いい天気だからな、なんて夜に関係ないだろう。ましてや私の化粧と演技にも気付けないとは、やれやれだね。ま、馬鹿の方が都合がいいから、このまま馬鹿でいてほしいね。
その後は他の警察官らと証拠等の捜査をしたが何一つとして手がかりはなく、そのことから「死神」の一連の事件の1つとして処理された。
嬉しい事に私は休暇を貰えた。久々の休暇だカフェにでも行こうか。
私はカフェでコーヒーを頼み、道中で買った新聞を片手に優雅なティータイムを始めた。
やはり昨日の事は新聞の一面に、デカデカと載っていた。
見出しは「死神!またも完全犯罪成立か?!」私は嬉しさのあまり新聞に顔を埋めこっそりと笑った。その時同僚に見られているとも知らずに…
次の日署へ向かうと皆からやれ、「悔しいよな」や「もっと俺らに頼っていいんだぞ」や「死神は絶対捕まえような」などと口々に慰められた。どうやら昨日私が笑っているところを見られたが、そこはさすが馬鹿だ。どうやら私が悔しさから顔を隠し、泣いていると解釈されたらしい。私は最近気が緩んでいたのかもしれない、気を付けなければいけないな。
それから私はさらに殺し屋と警察のお仕事をこなしていった。だが、優秀な私でもミスをしてしまった。きっと明日は世界が滅ぶに違いない。
冗談はさておき、まさか心臓を貫いたはずなのに生きているとは…まだ意識が戻っていない、今なら殺せる。だが、ここで殺してしまうとまだ警察ですらごく一部しか知らない情報だというに死神が知っているというヒントを与えてしまう。どうすべきか…
あ、そうだ新聞社を使ってやろう。あいつらの情報拡散能力は凄いからな、いやー便利便利。
私はその足で匿名でタレコミを新聞社達に送り込んだ。次の日の新聞はもちろん、死神が初めてターゲットを殺し逃した可能性が出てきた事に対する反応だ。これならターゲットが殺されてもヒントは大きくない。新聞社達の情報を嗅ぎつける能力は警察でも予測できないからな。いやー私ってやっぱり天才ですなー、いやーそれほどでもー。ハッハッハ。
さて
殺すか
そのまま私は上手く病院に忍び込み、毒を仕込むことに成功した。と、思っていたのだが、私は天に見放されたのかな。またしてもターゲットは生き残り何と目を覚ましてしまった。それを聞いた私は上司に無理を言ってターゲットと面会させてもらった。死神を部下の仇として追っている警察官なら自然な事だ、やはり馬鹿はいい。こいつは上司から上司一位にしておいてやろう。
結論から言うと、どうやら記憶喪失になっているらしい。
私は死神を追っているという事で色々聞いてみたが、事件の事どころか自分が誰かすら分からないらしい。これは好都合と思っていたのだが…やはり天は私を嫌いになったらしい。
ターゲットを、彼女を記憶が戻るまで私が引き取る事になってしまった。上司一達の気遣いで記憶が戻ったら真っ先に情報を聞けるように、らしい。
気遣いありがとうよ!上司と馬鹿どもよ!俺は嬉しいよ、思ってた以上にお前らが馬鹿でいてくれて!
引き取る事になっては仕方ない。ひとまず家の片付けをしなければ。ふむ、人体模型や目玉のホルマリン漬け、100本以上のナイフは普通に家にあるものとして他のものはどうすべきか。
家に来た彼女に怖がられた、どうやら人体模型等々は普通の家にはないらしい。てへっ。
なんでそこは分かるんだよクソッタレ!シット!
まぁ文句を言っても仕方ない。慣れさせればいいだけだ。彼女の名前は「ニナ」というらしい、因みにこれは印象に残ってた言葉から予想して行き作ったものらしい。
名前なんて要らないだろ、まぁこれもお仕事だ覚えなければ。
めんどいね!
あれから早数日経つが、ニナの記憶はまだ戻りそうに無い。いっそ戻ってくれた方がやりやすいのだが…
いつ爆発するか全く分からない爆弾と共に生活するというのは嫌なものだ。
もうやだ、私逃げたいっ
だが、人を飼うというのも意外に悪くないもので、嫌ではあるが嫌いではない。段々と情が湧いてくると可愛いものだ。そうだ!今日はあいつの好物の菓子でも買ってやるかな。
私は菓子を買い、ルンルンで家に帰った。ドアを開けようと近づくと、ちょうど飛び出してきたニナとぶつかった。
「ひゃっ、ごめんなさ…ひっ」
その瞬間ニナの顔が恐怖で歪む。あぁ思い出してしまったか。
あ、逃げられた…必死で逃げる人間は意外に素早いという事を失念していた――まぁ、いいか。
私はぶつかった拍子に袋から落ちた菓子を拾った。
美味い
さて、逃げたターゲットが行くところと言えば相場は決まっている。私の職場だ。私は仕方なく家の鍵を閉め、もう一度警察署へ向かう事にした。戸締りは大事だからね。
警察署へと向かう道はいつも人が居る場所も人っ子一人いない。
――なんだっけ…あぁそうだ、ニナだ。
ニナが逃げる時に、周りの人にも伝えたのかな。
粋なことをしてくれるじゃないか、私専用の花道を用意してくれてるだなんて。
警察署に着く頃には、署の前にパトカーや警察官が沢山いた。ちょうど上司が目に入ったので、後ろから肩に手をかけ会話を試みる
「やぁ、何かあったのかい?」
「いや、実はな…」
と言いかけたところでどうやら私だと気付いたらしい。少し遅れて他の警察官も私に気付き、すぐに銃を向けられたよ。対話失敗とは悲しいね。
「まぁまぁ、私の右手にご注目ー。何の変哲も無いこちらの右手があら不思議、突然こいつの首に当てると血が出るではありませんか」
上司だったものはそのまま地面に倒れた。
警察達の反応はそれぞれだった。銃を撃つもの、逃げるもの。まぁ、私には関係ないが。
サクッと警察達にトドメを刺していく。今気付いたが私は殺す時首を切る事が多いらしい、癖だろうか。
全員殺し切る頃には私は鮮血にまみれていた。
「ははっ、いいね!ここまでの血を一度に見るのは初めてだ!」
もう少し楽しみたいが、あいつを探さなければ。ゆっくりと建物へ目を向けると
居た
やはりいい顔をするな、ここは真顔で近付く方がいいのだろうか。ま、どちらにせよ死ぬしいいか。
ゆっくりと建物へ歩みを進めると突然あいつの顔が明るくなった。何故っ
「ガハッ」
後ろから突然撃たれた、チッもう来てやがったのか。私を撃ったのは署に残っていなかった警察であり、昔私が指導をしていたやつだった。だからか、こんなに射撃が正確だとは。
「動くな!死神!大人しく手を上げろ!これ以上罪を重ねるな!」
はいはい、言われなくても君たちを殺す気は無いよ。あいつは殺るがね。私は足元に殺した警察が持っていた銃があるのを確認してゆっくりともたれ掛かる。
今だっ。私は銃を取りニナへ向ける、撃てば殺せる。
「チッ、あーあそんな顔してたら殺す楽しみが無いじゃないか。」
仕方ない。その瞬間私は心臓を正確に撃ち抜かれた。
あーあ、これで死神は終わりか。死神が殺されるなんて…どんな嫌味だよ、ははっ。はぁ。ま、最後に沢山殺せたんだ、良しとするか。
とその時、先程まで居なかった何かが居ることに私は気付いた。
「………」
残念、喋りたいがもう喋れないようだ…
「貴様には随分楽しませて貰った。死ぬ前に望みがあるなら聞いてやろう」
それは突然喋った。ははっ、随分偉そうだな、何様のつもりだよ。ふっ、聞いてやろうだなんて。そもそも私はもう喋れないというに。
「そうか貴様には特別に教えてやろう。我は「死神」生と死を司る神なり。そして案ずるな、我らは思考を読める、喋らなくとも理解できる。」
そうかい、真打登場って事かい。
ははは、まさか死神を見れるとはね。
けど結構だよ。私はもう満足した…
これが伝説の殺し屋「死神」!
その舞台の幕引き…上々のクライマックスだったと思わないかい?
「そうか、貴様が望むのならばあのニナとかいうやつを殺してやる事も出来るが」
はっ、私を舐めるなよ。自分の手から逃れたものを得ようと思うほど愚かではない。
「そうか」
そ、れ、に。銃で撃たれた瞬間にパトカーに映っていた私の顔、あの顔も中々に良いものだった。くふふ、それだけで満足さ。
その瞬間、死神の顔に笑みが浮かんだ。そんな気がした…
「ふっ、この異常者め。それでこそ死神だ」
光栄だね、本物の…死神の、お墨付きだ…
死神は今日も笑う
きっと明日もその先も




