無価値王女の日常
アルカリアは儀式の日の翌日、母の宮から宮の庭にある物置の中で目が覚めた。
体がとても痛かったが起き上がり、物置のドアに手をかけたが、開かなかった。
何度も戸をたたいた。
ドンドンッ
「だれ……か」
ドンドンッドンドンッ
「だれ……か!」
アルカリアは何度も戸を叩いた。
薄暗く物静かな物置に幼いアルカリアが恐怖を抱くのは当然だった。
だからこそ、早く明るいところ場所に行きたいアルカリアは戸を叩くが、すぐに開くことはなかった。
アルカリアが戸を叩くのに疲れ、蹲ったころに戸が開かれ、光が差した。
膝にのせていた額を上げて戸を見たアルカリアは、乳母バルヤの姿を見つけて走り寄った。
「バルヤ……!」
パシンッ
アルカリアは伸ばした手を強く叩かれ、目を見開いた。
乳母バルヤは確かに彼女に鞭を向けたことはあったが、それは最初に約束事をアルカリアが破ったからの罰であり、それ以外でアルカリアに危害を加えたことはなかったからである。
故にアルカリアはなぜ乳母バルヤが自身を叩いたのかわからず、呆然と見上げた。
その視線に答えるように乳母バルヤは口を開いた。
「貴女は価値がなくなったのです」
そこから彼女はアルカリアに言葉をつづけた。
昨日大広間で行われたのは魔力量と属性を測る儀式であり、アルカリアが手をかざした水晶はそれを測る魔道具だったこと。
それによって、アルカリアが魔力なしと判定されたこと。
その判定により国王グオロスがアルカリアを価値なしと定めたこと。
価値なしと定められたため、誰からも王女として扱われることはないこと。
価値なしに宮に住む権利はなく、これからは物置に住むこと。
彼女は乳母ではなくなり、母アラミの侍女に戻るため、アルカリアの世話をするものはいなくなり、これからはアルカリア自身ですべて行うこと。
バルヤはそれを淡々と告げると、アルカリアの反応など気にすることなく物置から去っていった。
3歳のアルカリアには、それら全てを理解することなど到底できるわけもなかったが、ただ自身が一人きりなってしまったこと、この物置で暮らすことはなんとなくではあるが理解した。
その日1日中、アルカリアの目から涙が静かにこぼれ続けた。
アルカリアはこの儀式の日から無価値になった。
今までも王女として礼儀を尽くされていたわけではなかったが、王女としての最低限の敬意は使用人たちに示されていた。
それを全て失った。
皆、アルカリアをいらないものとして扱った。
アルカリアは物置で生活し始めた。
もらえなくなった食事は宮の厨房裏の残飯を漁って食べるようになった。
最初は残飯が混ざり合った独特の臭いと口に入れた瞬間の酷い食感で何度も嘔吐したが、次第に慣れた。
使用人から腕をひっぱられ、掃除等の雑用を命じられるようになった。
雑用は上手に出来ても出来なくても殴られ蹴られた。
次第に使用人の足音を遠くからでも聞き分けられるようになり、見つからないように物陰に隠れることが得意になった。
一度、アルカリアは傍からいなくなったバルヤが母アラミに笑顔で仕えている姿を遠目で見た。胸が苦しくなったため、二度と見ないようにしようと心がけるようになった。
最初はそれだけだった。
しかし、異母兄や異母姉がアルカリアを魔術の的あてにするようになった。
火の魔術、水の魔術、風の魔術、土の魔術と色々な魔術がアルカリアを襲った。
火の玉が腕に当たって火傷をした。
水の玉に顔を覆われ息が出来なくなった。
強い風に吹き飛ばされた。
体中泥だらけにされた。
異母兄達は魔術を使って探し当てるため、アルカリアには逃げ場がなかった。
アルカリアが苦しむ度に2番目の異母兄は楽しそうに笑い、3番目の異母姉は気にすることなく魔術を改良した。
周りにいる大人達は笑顔で時には手を叩きながら彼らの魔術の腕を褒めた。
そんな光景が日常的になりアルカリアの体に傷が絶えなくなった頃、アルカリアは薄暗い物置の中で腕に出来た傷をもう片方の腕で押さえながら、乳母バルヤの言葉が頭の中を巡った。
『貴女は価値がなくなったのです』
「かちがなくなるってこういうことなんだ……」
アルカリアは価値がなくなるという意味を認め、静かに涙を零した。
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