魔力なしの無価値王女
その日、アルカリアは朝から幸せであった。
いつもなら顔を見ることができない母に会えたからである。
会えたといっても、アルカリアに目を向けることはなく、いることすら気にしていないような状況でアルカリアが一方的に目を向けていただけであった。
アルカリアはそれでも、会えたことが嬉しかった。
アルカリアは他の異母兄や異母姉などが母という存在と楽しそうに話しているのを見て、近くにいる乳母に母に会いたいとお願いしたことがある。
その時、乳母は嫌なものを見る目を自分に向けて言った。
「アルカリア様はお会いできる立場にありません」
乳母の言っていることはわからなかったアルカリアだが、会えないことだけはわかった。
それでもどうしても会いたくて乳母の目を盗んで母がいる部屋まで行き、そこで丁度部屋から出てきた母に声をかけた。
「おかあさまっ」
アルカリアはこの時の自分へ振り返ったときの母の目を忘れることはないだろうと思う。
「どうしてこれがいるの!」
憎悪を煮詰めたような目を向けられ、金切り声で叫ばれたアルカリアはやっと乳母が母に会ってはいけないといった意味が分かったのだ。
『おかあさまは、わたしが……きらいなんだ』
そのあとアルカリアは自分を追ってきた乳母に連れられて自室に戻り、何度も背中を鞭で打たれた。曰く、母に会った罰らしい。
この日以外にアルカリアは母に会いたいと乳母に願ったことはなく、この日を境に他の兄弟、姉妹たちが自身たちの母と仲良くしている様子を眺めるのもやめた。
アルカリアの母、アラミは病弱を理由に基本自分の用意された宮から出てこない。
アルカリアはアラミと同じ宮に住んでいるが、移動できる範囲が決められてるため、アラミと会うことは、アルカリアが範囲外へと行動しない限りはない。
また、他の王宮の人間も基本的に宮から出てこない母子をみることは少ない。
そのため、アルカリアの3歳の誕生を祝うための大広間に現れた母子に皆興味を向けた。
時には隠されながら、時には不躾に向けられる視線にアルカリアは恐怖を抱いたが、誰もアルカリアを守ってくれるものはなく、ひたすら母の後ろを小走りについていくだけであった。
その姿に皆眉を潜めた、アルカリアに品位が見受けられなかったからである。
アルカリアの乳母はアルカリアに必要最低限の世話しかせず、それ以外を何も教えはしなかったし、アラミはそれをよしとし、教育者をアルカリアに付けることもしなかった。
結果、所作の美しいアラミの後ろを所作のしの字も見受けられないアルカリアがついてくため、更に粗が見える状況となった。その上周りの視線に怯えたアルカリアのキョドキョドとした様子が更にそれに拍車をかけてしまっていた。
それを知らない者たちは本日の主役たるアルカリアに失望と嘲笑を向けた。
そして、それを玉座に座りながら憤怒の表情を隠しもせずに見下ろす、アルカリアの父にしてゼロリアド王国の王グオロスとなんの感情も見せずに見下ろす王妃レアンナ。
そんな周りを気にすることなくアラミは側妃の席に座る。
アルカリアは傍に控えていた使用人の一人に促されるまま大広間の中央に立たされた。
そこには一人の神官が大きな水晶を持って立っていた。
「この度はお誕生日を迎えられましたこと、心よりお慶び申し上げます。神々のご加護があなたと共にありますように」
神官はアルカリアに微笑みを向けたが、その目の奥が嘲りの色に塗れていた。
その色を感じ取っていたアルカリアは怯えた目を神官を向けただけで、声を出せなかった。
それが更に神官の目の色を色濃くさせていた。
「どうぞ、こちらの水晶に手をかざしてください」
神官はねっとりとした声色でアルカリアに手をかざすよう促し、アルカリアは言われるがまま手をかざす。
そのまま、なにも起こらずに時間が流れた。
それに神官は目を丸くし、侮蔑の目をアルカリアに向けた後、玉座にいる王グオロスに言葉を向けた。
「恐れがら陛下、アルカリア王女殿下は魔力なしでございます」
その一言によって騒然となる周りの様子にアルカリアは不安を抱えた。
魔力なしがよくないことはわかるが、何がよくないのかアルカリアにはわからなかった。
大きな不安で胸が苦しくなったアルカリアは縋る思いで母に目を向け、目を丸くする。
母は嬉しそうに微笑んでいた。
初めて見た母の笑みにアルカリアの体中に汗が噴き出した。
アルカリア自身にもなぜかわからない恐怖が、何か良くないことが自身を襲うだろう予感が彼女を襲った。
それに耐えていたアルカリアは気づかなった。
怒りに震えた父が自分に魔術を向けていたことを。
「こんなものはいらぬ」
その一言ともに放たれた魔術はアルカリアを襲った。
キンッという音が聞こえたと思った瞬間、アルカリアの意識は暗闇の中に放り込まれた。
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