ある子どもの置かれた立場
ゼロリアド王国王宮の下級使用人用の厨房には外に繋がる出入口があり、その横には幾つもの空箱が積んである。その空箱の隙間に身を隠すように一人の子どもが蹲っていた。
王宮内とは思えないようなみすぼらしい恰好の子どもは抱えた膝に己の額をつけながら必死に耳を澄ませ、己の不幸がやってこないように祈る。
しかし、その祈りを嘲笑うかのように不幸は笑って子どもの名を呼びながらゆっくりと歩いてきた。
「やーっと見つけた」
その声を聞くや否や膝につけていた額を上げて声のほうへ目を向けた子どもは、己の不幸そのものを目にいれて、これから自分に降りかかるものに体が勝手に震え、恐怖に喉を小さく鳴らす。
「こんなところにいるなんてダメじゃないか。おい、これを連れてこい」
子どもの不幸は子どもよりも幾何か大きな体をゆっくりと揺らして笑いかけた後、近くにいる従者に子どもを連れてくるように命令すると、すぐに踵を返してもと来た道を戻っていく。
従者はゴミに触るのが嫌とでもいうような顔で子どもを見下ろした後、震える子どもの二の腕を乱暴に掴んで自分の主人の後を追い始めた。
王宮の廊下にいる使用人たちは尊大に歩く子どもの不幸とその従者には頭を下げたが、子どもには目も向けなかった。まるで、そこにはいないかのような扱いだったが、己の不幸から向けられた笑みが頭を巡り続ける子どもにはそれを気にする余裕などなかった。
子どもは自分に笑いかけた自分の不幸……母違いの兄のその笑みにどんな意味があるかを本人から聞いて知っていた。
(わたしがいたかったりくるしかったりするのをみるのがたのしいって……いってた)
これからとても辛い時間が始まる。
(いたいっていっても、つらいっていっても、だれもきいてくれない)
痛いのも熱いのも苦しいのも嫌だ。
でも、誰かが側にいるのはもっと嫌だ。
自分の声が誰にも届かないことがわかるから。
どんなに叫んでも、自分の声は誰にも届かない。
(いつか)
子どもの目に涙が溜まり、視界がぼやけ始めるが誰もそれに気づかない。
たとえ、気づかれたとしても何も変わらないだろう。
それがこの子ども、アルカリア=ゼロリアドの置かれた立場なのだから。
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