チェッタとの出会い①
一方その頃、ミリアリアにやり込められたアリオスは荒れに荒れていた。
ミリアリアに勧められた地理学などするはずもなく、部屋で手にするものを投げて壊すを繰り返す。
「クソッ!ミリアリアめ!」
ガッシャーン
「闇属性も持たぬ王族の恥さらしのくせに!」
バサバサバサバサッ
「…………」
アリオスの側仕えたちは一言も話さない。
何か発すれば自分が的にされることがわかっていたからだ。
アリオスのイライラは止まらない。
(クソッ!部屋にいても苛立ちが募るだけだ!)
アリオスは外に向かう。
「ア、アリオス様どちらへ」
「うるさい!無能が!僕に話しかけるな!」
ボウッ
「ああああ!」
アリオスの放った火の魔術が声をかけた従者の顔の右半分に命中し、従者は転げまわる。
慌てて周りの者が彼の顔に水をかけて鎮火するも、彼の顔から放たれる肉の焦げた臭いが周りの者たちの鼻につく。
近くいた別の従者が薬箱から火傷の薬を取り出すが、アリオスがそれを止めた。
「そんな無能にその薬を使うことは許さないよ」
「し、しかし」
「何?僕の言うことに逆らうの?」
薬を塗ろうとした従者はアリオスの冷たい目に背筋が凍ったような錯覚を起こした。
「承知致しました」
「そ。あ、そこのお前付いてきて」
アリオスは近くの騎士に声をかけるとそのまま部屋を出ていく。
「……すまない」
「く……そ……」
薬を塗ろうとした従者は、火傷を負っている従者へ静かに謝り、火傷の従者は無事だった左の目でアリオスが出てったドアを憎々しげに睨みつけた。
アリオスは最初収まらない苛立ちをアルカリアにぶつけようと考えていた。
しかし、この頃のアルカリアは中々見つからず、見つけるのが得意な従者は先ほど火傷を負わせたばかりである。
後ろにいる騎士はアルカリアの見つけるには使えないのをアリオスは知っていた。
では、奴隷を痛めつけるのかとも考えたが、どの奴隷が明日の作業に関わっているかわからないため、これも却下。
その辺にいる使用人たちに関しても明日の作業に関わっているかもしれず、それをまたミリアリアに突かれるのは彼のプライドが許さないため、やはり却下。
(クソッ!うまくいかなことばかりだ!)
そんな風にイライラしながら歩いていると、さっと目の前を何かが過ぎる。
とっさにそれへ火の魔術を当てるアリオス。
ヂゥッ!?
それは子どもの手のひら大の大きさの鼠型の魔物だった。
「なんだこれ?」
「アリオス様それはウィーラッドと言われる鼠型の魔物です」
「魔物?この弱弱しいのが?それに王宮には結界が貼ってあるでしょ?」
「はい、どこでも潜んで食べ物などを盗み食いするしかできない魔物です。魔物は本来王宮の結界に阻まれて入れないのですが、こいつは弱すぎて結界をすり抜けてしまうのです」
「ふーん」
(あ、いいこと、思いついた)
アリオスの顔に邪悪な笑みが’浮かぶ。
アリオスは傍にいる騎士へ振り返る。
「ねえ、ポーションって魔物に効くの?」
「は?え、ええ。効くはずですが」
「なら、ポーションを持ってこれるだけもってきて」
「し、しかし」
「さっさと行けよ」
アリオスは冷酷な目を騎士に向ける。
騎士はそれに口をつぐみ、ポーションを取りに宮内に向かった。
アリオスは再度ウィーラッドに目を向けるとにんまりと笑い、話しかける。
「遊んであげるよ」
それから数刻が経ち、アリオスの遊びに付き合わされている騎士は顔を蒼ざめていた。
「ほらほら、鼠、逃げないとまた熱いよ」
アリオスの手から火の魔術によって作られた火の矢が飛び出し、ウィーラッドの足に当たる。
ヂゥ!
ウィーラッドは痛そうに鳴きながらも逃げ続ける。
アリオスの火の矢が届かないところまでもう少しというところまで逃げるが、ここで邪魔が入る。
ザシャッ
騎士が持っている剣を土に突き立てウィーラッドがそれ以上逃げないように妨害するのだ。
これ故にウィーラッドはアリオスの火から逃れられない。
ボンッ
ヂゥッ!
「いいぞ。その調子でやってよ」
「……はっ」
騎士は苦いものを噛み潰したような表情をしながらもアリオスに従った。
ウィーラッドは2度目の火の矢によって瀕死の状態に陥っていた。
それに気づいたアリオスは騎士に声をかける。
「あれかけて」
騎士は傍に置いてある箱から一本のポーションを取り出すと、ウィーラッドにかけた。
みるみるうちに傷が治るウィーラッド、その顔は絶望の色をしていることが騎士にもわかった。
「よし!再開だ」
愉快そうに笑うアリオスは魔術によって作り上げた幾つもの火の矢を空中に留め置く。
無詠唱で行われるそれは12歳の少年が笑顔で行えることでは到底ない。
彼が紛れもない魔術の才の持ち主であることの証明といえた。
魔術とは何か。
魔法が魔力や魔素をそのまま行使して発症するものであるのに対し、魔術は魔力や魔素を呪文や魔術陣、道具などにによって変換させて発生させることだ。
例えば、水属性の魔力を持つ人がいる。
その人が水属性の魔力をそのまま手から放出したら水が出て手が濡れる、放出した魔力量が多ければ手からこぼれて地面を濡らすだろう……これが魔法である。
今度は「水は球となりて放たれる、水球」と詠唱しながら水属性の魔力を手から放出する。すると、水が球体の形をとり、対象に飛んでいき当たる……これが魔術である。
基本的に人が魔術を使うには詠唱や魔術陣、魔道具などが必要だ。
しかし、「水球」のような簡単な魔術の場合は詠唱を必要としないことも多い。それは、構造を理解し、その通りに魔力を操作できるからだ。
魔術というのは、必要な魔力量と魔術へと形作る構造への理解、構造通りに魔力を操作できる能力が必要と言われている。
この世界の人々は魔術が身近にあるため、簡単な構造や操作を幼い頃から理解し使用しているため、詠唱を使わないで出来る魔術を持っている。
しかし、それは簡単な構造のものだけだ。
無詠唱で「火矢」を複数空中に留め置き放つという魔術は12歳の簡単にできる魔術の範囲には入らない。
「さーて、どれくらい避けられるかな」
幾つもの火の矢がウィーラッドへ飛んでいき、ウィーラッドはそれを必死に回避するもいくつか着弾する。
そして、瀕死になれば騎士がポーションをかけた。
攻撃を当てる。
瀕死になる。
ポーションで治す。
逃がす。
これの繰り返し。
ウィーラッドにとっては救いのない時間、これがアリオスの遊びだった。
しかも、アリオスはウィーラッドが諦めて逃げないようになると闇の魔術を使って痛覚の感度を上げたのだ。
これは拷問によく使われる魔術だった。
これにより、逃げないとより一層痛い思いをすることを学んだウィーラッドは必死に逃げつづるしかなくなった。
騎士はこの惨い遊びの的であるウィーラッドへ憐憫を向けずにはいられなかった。
そして、アリオスの遊びは彼の心ひとつで終わりを告げる。
アリオスが遊びに飽きたのだ。
「まぁまぁ、面白かったかな」
そういってアリオスと騎士は宮へと戻っていく。
騎士は少し振り返り黙って目を瞑るとすぐにアリオスの後を追った。
ヂゥ……
瀕死のウィーラッドをそこに残して。
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