第一王女ミリアリア①
クーザレが管理する奴隷たちとアルカリアは洗濯を済ませ、次の仕事場に向かっていた。
宮殿内の電灯に魔力を注ぐ仕事だ。
魔力なしのアルカリアは魔力を注入はできないが、他の2つの仕事を請け負うことで奴隷たちの仕事を軽減していた。
仕事1つ目。
「みぎはふたり……しようにんかな、ひだりはひとりだけど……あしおとがきしだとおもう」
「どちらもいるのか……右だな」
「騎士様は下手したら切られちゃいますからねぇ」
異母兄や悪質な使用人たちにより鍛え抜かれた索敵能力を活かした道案内。
「お嬢さん、ここから3つ目の部屋誰もいないか?」
「いないけど」
「よし、あそこに入ってやり過ごすぞ」
「「「「「えっ?」」」」」
このようなやり取りで移動しながら電灯に魔力を注いでいく。
仕事2つ目。
「お前は手前の部屋の電灯を担当しろ、お前たち2人は2つ目の部屋、お前は……」
奴隷たちが魔力を注ぐのを横目で見ながら魔力を注ぎ終えた電灯を磨いていくアルカリア。
「いやぁ、お嬢さんの仕事は素早く丁寧で素晴らしいですねぇ」
「そんなことない」
クットスはにこにこと笑顔で電灯に魔力を注ぎつつ、熱心に電灯を磨くアルカリアを褒め、アルカリアは口をもにょもにょしながらクットスから顔を反らした。
アルカリアは口が少し動いた以外は表情が変わらなかったが、その分を耳が補うように真っ赤なことがクットスは微笑ましかった。
そんなやり取りを繰り返しながら1階から2階へ移動した後、アルカリアの索敵能力が最大限発動される状況に陥る。
「みんなとまって」
アルカリアの常にない低く小さな声での静止にクーザレや奴隷たちの表情も強張る。
「どうしたお嬢さん」
クーザレは小さな声で尋ねるが、アルカリアは答えない。
しかし、アルカリアが情報を得るために五感を駆使することに集中しているだけだとわかっているため、クーザレはただアルカリアの返答を待つ。
「……むこうのろうかまがったところで、もいぶかんりしゃとそのどれいたちが、ありおすさまたちにいじめられてる」
(廊下の先でモイブたちがアリオス殿下たちに虐められている……ね)
第二王子アリオスの虐めなど、拷問とさほど変わりはないものだ。
少し経って帰ってきた答えにクーザレは手で両目を覆い、天を仰いだ。
「こっちに来る様子は?」
「どうだろう?いまはむこうのどれいたちにひどいことしているのにむちゅうみたいで……」
(此処に殿下方が来る予定なんて聞かされてない。急に変更になったのか?それとも……憂さ晴らしか)
クーザレは王宮内でまことしやかに広まっている噂を思い出した。
『第二王子アリオス殿下は陛下に魔力量のことで不満を述べられた』
この噂が流れだしてから、アリオス殿下の加虐性が増したという話も流れており、それは日々のアルカリアを見れば事実であることも知ることができた。
(今日は運よく会ってなかったみたいだが、それでも今四肢が無事なのは奇跡だ……まぁ、そうならないようにクットスとレドのやつが動いているみたいだしな)
クーザレはそんなことを考えると同時に現状についても思考する。
(さて、どうするか)
一番いいのはこのまま回れ右をして殿下たちを避けることだ。
しかし、この電灯の仕事は急務であり、この先の電灯の魔力注力が出来なかった場合に降りかかる問題もかなり大きいのだ。
しかし、奴隷がこの区域を移動できる時間帯は決まっており、今を逃せば注力は難しい。
であれば、どこか部屋に隠れてやり過ごすが吉か。
しかし、殿下の従者には、魔力感知長けた者もいると聞く。
見つかる可能性も高い、しかもこちらにはアルカリアの存在がある。
(やはり、回れ右だ。アルカリア様のことが知られるのは拙い)
クーザレが考えをまとめ終え、口を開いた瞬間。
「みんなはいちどむこうのかいだんからひとつしたにもどったほうがいい」
(((((!?)))))
「みんなはってお嬢さんはどうすんだよ」
レドが奴隷たち全員の気持ちを代弁する。
「わたしはむこうにいってようすみる。だいじょうぶになったらみんなをよびにいく」
「ダメに決まってるだろ」
「ダメですねぇ」
「ダメだな」
レドとクットスとクーザレの声が重なる。
「だめじゃない」
それをアルカリアが真っ向から否定する。
「それがいちばんいい」
「お嬢さん」
「このなかでありおすさまがころしちゃいけないのは、わたしだけ。そうだよね?くっとす」
「それは……」
クットスは知らぬよりも知っておくべきと判断して、アルカリアに彼女自身の立場を伝えていた。
(お伝えすべきではなかったか……!)
「みんながころされるのはダメ。でも、きょうじゅうにでんとうへまりょくいれないとみんなひどいめにあう。くーざれも」
「お嬢さん……」
「これがいちばんいいほうほう。わたしだけがみつかってもみんなとのことはしられない」
「……」
「だいじょうぶ、わたしかくれるのじょうず」
ふんっ
鼻息を荒くして胸を張るアルカリアをクーザレと奴隷たちは皆悔し気に見下ろす。
「まかせて」
アルカリアはレドがよく見せてくれる不敵な笑みを意識しながらニヤリと笑い、力強い目で周りを圧する。
その姿にクーザレは息を吐く。
(情けないことこの上ねぇ)
その小さな背に頼るしかない自分が情けなくて仕方ないクーザレだが、それが最適解であることも理解していた。
「お嬢さん」
「うん」
「すみません」
「そのことばすきじゃない」
「……ありがとうございます」
「うん!」
「任せます」
「まかされた!」
アルカリアはクーザレに答えるやいなや廊下の先へと向かい始める。
足音ひとつしない素早い動きを複雑な表情でクーザレは見送り、そのまま奴隷たちへ振り返ると彼らの間を抜けるように元来た道を戻り始める。
「さっさと戻るぞ。お嬢さんの行為を無駄にするんじゃない」
奴隷たちは悔しそうに移動を始める。
レドとクットスはそれでもアルカリアが向かった方向へ暫く顔を向けていたが、やはり悔しそうに移動を始めた。
「今は……我慢の時なんでしょうねぇ」
「だろうな」
2人の小さな会話を聞き取れたものはいなかった。
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