奴隷たちとの出会い②
少年が走っていなくなったのをじっと見ていたアルカリアだったが、その後ろ姿が見えなくなるとすぐに座り込み、肩を抑えた。
「い……たい……」
「お、おい、あんた……」
声をかけられたアルカリアは後ろを振り向いた。
そこには手で押さえても押さえ切れずに腹から血を流している男がいた。
「……ちょっとまってね」
アルカリアは、自分の腰に括り付けている布袋から数枚の葉を取り出すと男に向けて差し出した。
「は?」
男は呆然とそれを見つめる。
「?これわからない?やくそう……くちにいれてかんでからきずにあてるんだよ」
「いや、それは知ってる」
「そう?じゃあ、はい」
「いや、それはあんたのじゃ……」
「わたしのはまだある」
「しかし……」
「はやくうけとって。そっちのひとのもあるから」
「!あ、ああ」
「ん」
男はアルカリアから薬草の葉を受け取ると口に含み嚙み始める。
それを見たアルカリアも再度袋から薬草を取り出し、自分の口に含み噛み始めた。
ムグムグムグムグッ
静かに薬草を噛む音だけが響く。
噛み音が止むと、男は吐き出した薬草を全て倒れている男の傷に張り付けた。
それを薬草を噛みながら見ていたアルカリアは口から薬草を取り出し、服の襟元から肩を出して薬草を張り付けると、また腰元の布袋から薬草を取り出し、嚙み始める。
男はそんなアルカリアの様子に気が付くことなく、倒れている男の様子を見ている。
アルカリアはそっと立ち上がり、噛んだ薬草を口から取り出すとそのまま男に近づき、服の裾を捲り薬草を張り付けた。
「うおっ!?」
男は驚き、振り返る。
アルカリアはジト目で男を見据える。
「あなたのぶんもあったのに……」
「あ、すまない」
「いま、はったのはあなたのぶん」
「あ、ありがとう」
「…………」
「ど、どうかしたか?」
「んーん」
男はじっと見つめるアルカリアに困惑した様子で尋ねたが、アルカリアはただ首を振った。
(ありがとう……はじめていわれた)
アルカリアはすこし俯き口の端を上げたが、男がそれを見ることはなかった。
アルカリアはすぐに顔を上げる。
「きず、どう?」
「ああ、薬草のおかげで痛みはだいぶマシになったよ」
「ん」
(でも、かおいろよくない)
「すぐ、そのひとつれてうごける?」
「あー、まだそこまではな……短い距離なら」
「ん」
(たぶん、このひともそっちのひともやくそうだけじゃたりない)
それは、いくども薬草や下級ポーションなどを使って己の体を治したアルカリアの経験に基づいた勘。
その勘がこのままでは危ないとアルカリアへ訴える。
アルカリアはキョロキョロと周りを見渡す。
(うん、ここからはやしはそんなにとおくない)
ここから林までの距離を考えたアルカリアは、小さく頷くと男に声をかけた。
「そのひとをつれてはやしまでいこう」
「は?」
「つれていけない?」
「いや、行けるが」
「じゃあ、いこう」
「いや、まて……」
「はやくいかないとあなたもそのひとも……しぬよ」
「!」
「いこう。ついてきて」
「わかった」
男はアルカリアから色々聞きたそうにしていたが、アルカリアが発した「しぬ」の一言を聞いてすぐに意識をかえ、倒れている男を抱え、アルカリアに付いていく。
アルカリアは男が付いてくる様子に頷いて歩き出す。
そして、歩き出してすぐに男はアルカリアの能力に舌を巻いた。
(なんて、索敵能力だ)
アルカリアは林に着くまでの間、誰一人会わないように動いた。
(みぎはひとがいる、ふたりかな。ひだりはいない……とおまわりだけど、ひだり)
時には遠回りになることもあったが、それが最短距離だとわかっていた。
そして、それは正しかった。
もし、ここでただ道としての最短距離を選んでいたら、林にすら着けなかっただろう。
それは付いていく男もわかっていた。
それほどに、奴隷という立場は低い。
林の縁まで来ると、男は一旦立ち止まるが、アルカリアは気にした様子もなく進む。
男はその様子に流石に声を立てながらも付いていく。
「おい!この林は入ったら出てこれない迷いの林と聞いた。入って問題ないのか?」
「わたしはまよったことない」
「え?」
「でも、わたしをおいかけてはやしにはいったひとはまよってた」
「何?」
「でも、ありおすさまとかしゃんてさまはまよわないからわたしはにげられない」
実はこの林、ただの林ではない。
ゼロリアド王国建国当時から存在し、初代国王パンラドック=ゼロリアドが特殊な魔術を施した林なのだ。
では、その魔術とは何なのか。
それは、パンラドック=ゼロリアドの血筋を持たない者が林に入ると必ず迷い、1日経たないと絶対に林の縁にたどり着くことが出来ないというものだ。
パンラドックはもし子孫が追われる事態になったときを考えて、この林を逃げ場としたのだ。
このことを正確に知っているのは王宮の中でも限られており、ほとんどの人が林に入った者全員が迷うと思っている。
アルカリア自身、なぜ自分は迷わないか、どうして他の人が迷うのか理由を知らずに利用している。
「アリオス様とシャンテ様って殿下方か!?」
「そう」
「殿下方から逃げられないってお前一体?」
「……わたしのことしらないの?」
「あ、ああ。俺は王宮の奴隷になってまだ3日だから」
「そっか」
「それで、お前はいった」
「ついた」
アルカリアは男の言葉を遮って足を止める。
そこは暖かい木漏れ日が射す、美しい場所だった。
「ここは……」
「そのひと、ここにねかすといい」
「あ、ああ」
「ん。じゃあ、ここでまってて」
「は?」
「きずがいたいなら、したのやくそうむしってつかうといいよ」
「え?おい!」
アルカリアは男が抱えていた男をゆっくり下したのを確認し、必要な言葉を言い終えると踵を返して走り出した。
男は慌ててアルカリアに声をかけるがアルカリアの後ろ姿は遠ざかっていき、見えなくなった。
「うそだろ……」
林で置き去りにされたことに男は呆然とした。
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