林の中で聴く音色
3歳の時の儀式によって孤立したアルカリアは3年間で様々なものを身に着けた。
庭師や使用人等の会話の盗み聞きや奴隷たちから直接聞いた簡単な薬草や薬などの生活に必要な知識。
使用人や異母兄達へ近寄らないようにするための気配察知。
彼らから見つからないようにするための隠密行動。
何も見逃すことがないようにするための観察力、聞き逃すことがないようにするための聴力。
日々の危機から逃げ遅れないようにするための判断力。
残飯を食べ続けた結果、滅多に壊れることのなくなった胃腸。
日々暴力と魔術を浴びせられたことによって得たそれらの耐性など。
元々が優秀だったのか、生存本能によるものか、はたまた両方か、アルカリアは6歳とは思えぬ様々な知識と能力を身につけて生き延びてきた。
(きのうのありおすさまのひでうたれたところまだいたいなぁ)
2番目の異母兄、ゼロリアド王国第二王子アリオスの火の魔術で打たれ火傷を負い、薬を使って尚小さく痛む左腕にそっと触れるアルカリア。
アルカリアの体から生傷は絶えない。
なぜなら使用人や異母兄達から逃げないときもあるからだ。
逃げすぎると、逃げられない状況を作られ、何倍にもなって痛みが降ってくる。
それを3年間で学んだアルカリアは適度に痛めつけられながら、危険だと感じるものは回避してきた。
先ほどの使用人に関しても、アルカリアの本能が彼に痛めつけられるのは危険と感じたため、ゴミ場に隠れ続けたのだ。
「きょうも……きけるかな」
アルカリアはゴミ場から離れると周囲を警戒しつつ歩みを進め、王宮内で所有している林へと向かった。
この林は王宮の半分を囲うように広がっており、その囲いの中心には国王の妃たちの宮が並ぶ。
ただ並ぶといっても宮ごとに広い庭園をもつことを考えれば林の広がり具合がわかるだろう。
彼女はそのまま足を進め林の中に入るやいなや走り始める。
はぁ、はぁ、はぁ
アルカリアは息を切らし、器用に足元の木の根を避けながら走る。
アルカリアは目的の場所に着くと足を止め、木の根を椅子にして膝を抱えるように座るとある方向へと顔を向け耳を澄ます。
~♪~♪~♪~
遠くから聴こえる美しいヴァイオリンの音に目を閉じ、うっとりと聞き惚れる。
「ふふっ、きれい……だなぁ」
只管に懸命に生きるだけだったアルカリアにとって日々に娯楽も癒しもなかった。
しかし、それは偶然この林の中に薬草を探しに来た時、変わった。
(さいしょは、なにかきこえるようなきがして……)
遠くから聴こえる微かな音に気がつき、耳を澄ませた瞬間に変わった。
(こんなにきれいであたたかいおとがきけるなんて……これがしあわせ……なのかな)
この音を聞いてからアルカリアは毎日同じくらいの時間に林へ薬草取りに足を運んだ。
アルカリアも最初、誰が毎日この音を奏でているのかわからなかったが、この王宮にはお喋りな使用人が多い。
探さずとも噂話にすこし耳を澄ませば求める答えを知ることができた。
(だいいちおうじょのみりありあさま)
第一王女ミリアリア……国王グオロスと正妃レアンナとの間に生まれた王女だ。
膨大な魔力を持つが属性が聖属性のために国王から疎まれている王女である。
また、彼女の母、正妃レアンナは和平のために嫁いできた隣国の元王女、王族の誇りを何よりも大切にする。
そのため、誇りよりも悦楽を重視する愚王グオロスとは相性が悪く、現在王妃と国王の仲は冷え切ったものであり、そのことも国王が第一王女ミリアリアを疎ましく思う要員の1つだ。
このことにより、第一王女ミリアリアの立場は微妙なものであり、他の王族や貴族からも軽んじられている……それは使用人たちの態度や噂話にも表れている。
「また第二側妃様はミリアリア様をお茶会へお呼びにならなかったのか?」
「よりにもよって、ミリアリア様担当になってしまうなんて」
「また、ミリアリア様は陛下に楯突いたのか?なんと愚かな……」
アルカリアにも数々の噂話は耳にすることはでき、それによって第一王女ミリアリアの立場を理解することはできた。
その中には国王グオロスや異母兄や異母姉に苦言を呈しているものがあり、疎まれている立場で国王や他王子、王女へのそれを行える第一王女ミリアリアにアルカリアは無自覚に立場に対しての親近感とそれでも物申せることへの憧れを抱いていた。
その上、ヴァイオリンによる美しい音色がミリアリアによるものだということでアルカリアの憧れは更に強いものになった。
~♪~♪……
(あ、おわった)
アルカリアは、ヴァイオリンの音色が終わると林の中を薬草を求めて歩き回り、求めていた薬草を採り終え持っていた布袋にしまうと、林の外へ向かった。
(いつか……いつか、あえるかなぁ……あえると……いいなぁ)
お読み頂きありがとうございました。
いつの間にかブックマーク3件に評価ptまでいただいていてびっくりしてます。
ありがとうございます。
これを励みに一層頑張ります。




