ゼロリアド王家の歪み
誤字が確認されたので修正しました。
「考えられる」→「考えられぬ」
行間増やしました。
国王グオロスは人払いをした執務室に侍従と2人でおり、その顔は苦虫を嚙み潰したようだ。
「アレは処分できぬのかっ!?」
「陛下、何度も申し上げましたが、アレでも王族であり、直系。簡単に処分など許されません」
「あんな!あんなものが王族など!我の子であるなど許されぬ!知っているだろう!アレのせいで我がどのように言われているか!」
「お怒りはごもっともでございます。しかし、王族の系図にはもう名が刻まれ、血筋は正当なもの。……使いようもあるかと存じます」
侍従が最後に囁くような声で言った言葉に、グオロスは落ち着きを取り戻す。
「……フンッ」
グオロスは椅子のひじ掛けに肘を乗せ、顎を手の甲で支えた。
「忌々しいことだ。あんなものでも王家の系図に名が刻まれるなどっ」
「ご心痛のほど、お察し申し上げます」
「しかし、我が国の情勢は安定しておらぬ。いざという時は、あんなものでも我が王家のための贄くらいにはなる……そうだな?」
「左様でございます。どうかご理解を」
「ふんっ、わかっておる。しかし、アレが我の名を貶めた罪人であることも事実。決して人として扱うことは許さん!」
「承知しております。私共とて魔力なしを私共と同じ人などと考えられぬことです。死なぬようにだけ注意致します」
「ふんっ、ならよい。それで?アレの母親はどうだ。我の子として魔力なしを生むなど到底許されぬ所業である」
「何度も申し上げましたが、第四側妃様は元々陛下が周りの反対を押し切って娶られたお方。たとえ魔力なしを生んだからといって処分などになれば第四側妃様の父君たるアプダーク伯爵の反発は必至。その上、その伯爵閣下が与する派閥はあの侯爵閣下が筆頭。侯爵閣下の喜び勇んで陛下の御前に参られるか様がありありと想像できます」
「はあ……わかっておる。それにしても忌々しい!我の為に闇属性で膨大な魔力を持つ子を産むはずだった女が魔力なしを生むなど!」
ドンッ
グオロスは顎を載せていた腕を振り上げると執務机にそのまま振り下ろし打ち付けた。
「我の後継は、初代様のように尊き闇属性を持ち、膨大な魔力を容易く支配してのけた者でないといかんのだ!」
「陛下……」
怒りを抑えることなく大きな声で叫ぶように話すグオロス。
長年彼に仕えている侍従は下手に声をかけると自身へと矛先が向けられるため、黙ってグオロスの様子を見ていた。
ゼロリアド王国の王族の大半は闇属性の魔力を持つ。
これは、ゼロリアド王国初代国王パンラドック=ゼロリアドが闇属性の魔力持ちだったことに起因する。
パンラドックは、闇の魔術とその身に持つ膨大な魔力によって魔物の暴走群を沈たり、集落を従属させようとする大国から集落を守るなどの多くの功績により、ゼロリアド王国の前身である小さな集落の長となった。
パンラドックの活躍は小さな集落で留まらず、近くの集落をいくつも救ったことで、多くの者が彼を慕い彼の下に就きたいと願った結果、彼は王となった。
初代国王パンラドックはゼロリアド王家の偉大なる祖であり、祖の血を引き、祖の多くのものを守り救う意思を継ぐことが王家の誇りであった。
しかし、国の歴史が長く積み重なり、祖の偉大さを見ること感じることなく、文字でしか知ることが出来なくなった弊害だろうか……この誇りは徐々に歪んでいった。
『祖の血を引いたものが祖の意志を継ぐ』ことが最大の誇りであったはずの王家は『祖の血を引き祖と同じ力を使える』ことを誇りとするようになった。
故に今のゼロリアド王国の王族は闇属性の魔力を持つことが絶対であり、持っていない王族はそれがたとえ王家直系であろうとも生涯冷遇されることになり、そのような子を得たことは王族の恥であると考えられていた。
ゼロリアド王国国王であるグオロスは劣等感と虚栄心の塊のような男であった。
彼には、アルカリアの母アラミ=アプダークを側妃として娶る前に2人の息子と4人の娘がいたが、その子どもの中に彼の虚栄心を満たすような子どもはいなかった。
彼が欲したのは『祖の血を引き祖と同じ力を使え』且つ『祖のような膨大な魔力を持つ』子どもだった。
元々グオロスは先代国王の3人いる王子の内の2番目であり、闇属性魔術に秀でた兄と豊富な魔力を持つ弟に挟まれた凡才、本来であれば玉座になど座れぬはずだった男だ。
しかし兄と弟が相次いで亡くなったことにより、男は玉座に座ることとなった。
非凡な兄と弟への劣等感を拭い去れないグオロスは、兄と弟を超える子を持つことでそれを拭い去ることが出来ると本気で考えていた。
しかし、彼の子どもたちは彼の期待には添わなかった。
正妃との間に生まれた第一王女は、魔力量は膨大であったが闇属性ではなく聖属性を持つ。
第一側妃との間に生まれた第一王子は闇属性を持つが、魔力量が平均的。
第二側妃との間に生まれた第二王女と第四王女は闇属性を持つが、魔力量が少ない。
第三側妃との間に生まれた第二王子は闇属性と火属性、2つの属性を持つという稀有な存在だが魔力量は平均的。
国王グオロスにとって闇属性がこの世で最も優れた魔力の属性であるため、火属性があるということに何の魅力も感じていなかった。
同じく第三側妃との間に生まれた第三王女は闇属性を持ち、魔力量も平均より多かったがグオロスの求めるほどではなかった。
グオロスはその劣等感により、子どもを諦めることはできず、結果、魔力量の多い闇属性の魔術使いを多く輩出しているアプダーク家から第四側妃としてアラミを迎えることにしたのだった。
「なんという女を側妃に迎えてしまったのだ」
グオロスは後悔していた。
アラミ=アプダークを第四側妃に迎えたばかりに、己の名は後世に魔力なしの子をなした王として残ることは確実。
魔力なしもアラミも忌々しく、自分の心の安寧のためにすぐにでも殺してしまいたい。
しかし、それはグオロスを大事な玉座から蹴り落とすことに繋がる可能性がある以上、出来るはずもない。
離縁も同様の理由で難しい。
只管に苛立たしい気持ちへ蓋をするしかなかった。
しかし、そんな気持ちを持て余していたグオロスに朗報が侍従よりもたらされる。
「なんだと?病?」
グオロスは驚きで目を大きく開いた。
「はい、今まで部屋から出てこなかったのも、それを隠していたようです」
「寿命にかかわるものなのか?」
「いえ、寿命に係わるものではなく、あくまで心、精神の病だそうで」
「精神の病だと?」
「はい、自分が魔力なしを生んだことで、心が大きく傷つけられたそうです。それを隠すため自室に籠り、数名の決まった侍女だけしか部屋に入れないのだとか。時折奇声が部屋から聞こえることもあるとのことです」
「なるほどな、つまり魔力なしを生んで、狂ったのか」
「仰る通りかと。医者が言うには、この王宮には現況たるアレもいるため、王宮から離れて治すのが一番良いのだとか」
「ふむ」
「そのため、第四側妃様には王宮の別荘地へ……」
「いや、それは必要ない。」
「は?」
「これを理由にあの女とは離縁する」
「え!?」
グオロスはこれまで魔力なしを生んだことだけで離縁が出来ぬか考えていたが、それだけではアラミの父たる伯爵や派閥筆頭の侯爵を納得させるのは難しい。
しかし、アラミ自身の体調面を押し出せば離婚も可能であるとグオロスは考えた。
それは間違いではなかったようで、思いのほか交渉はうまくいきとんとん拍子に離縁が成立した。
貴族婦人にとって離縁は大きな恥である。
それが妃であればなおさらだ。
アルミはグオロスの期待を裏切り、その上顔に泥を塗った女。
故にこのような大きな恥をかくくらいは当然だろうと、グオロスはほくそ笑んだ。
「り……えん?私、離縁されるの?」
第四側妃アラミは自身の部屋でのソファで寛ぎながら、目を大きく見開き、侍女頭に聞き返した。
今この部屋にはアラミと侍女頭ニカエラ、他3人の侍女が控えている。
「陛下がご決断なさり、伯爵閣下とも話されたとか」
ニカエラは神妙に頷く。
「……」
アラミは黙って肩を震わせながら俯く。
部屋にいる者たちの目には、その姿は離縁に絶望した妃の姿そのものに映り、皆顔を蒼ざめた。
魔力なしを生んでから気の狂ったような言動が増えており、そのため部屋で暴れるのではないかと考えたためだった。
しかし侍女頭は他の侍女を全て部屋から出る指示としばらくの人払いの指示を出したため、皆安心し侍女頭に感謝しながら部屋を出ていき、部屋にはアラミとニカエラの二人のみとなる。
「ふ、ふふふっ、あ、あははははははははっ」
アラミは狂ったように笑いだし、それを見てニカエラは嬉しそうに頷いた。
「ようございましたね、アラミ様」
「ええ、やっと!やっとよ!ニカエラ!」
二人の嬉しそうな話声は宮の廊下まで響いたが、人払いされていたため誰かに聞かれることもなかった。
アラミ=アプダークが第四側妃として嫁いでから約6年後、アルカリア誕生から5年後、彼女は計画通りに王宮を去った。
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