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うさ百合~ツイてるふたりは恋仲です~  作者: 夏黄ひまわり


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第四話:好きが膨らむ私、変わりたくない私(3)

「宇咲さん、どこに行ったんだろう?」


 魚ノ女さんが去った後、私は宇咲さんを追って校門の側までやってきた。

 けれど、宇咲さんの姿はどこにも見当たらない。


「確かにこっちの方へ走っていったはずなんですけど……すぐに追いかけられていたら、耳で追えたのに……」


 耳を澄ましても、宇咲さんらしき声が聞こえてこない。

 足音の方は我を失いかけてしまった時に完全に見失ってしまった。


『ん〜、困ったことになったね』

『今から探すとしても、授業を空けるわけにもいきませんし……』


 職員室の方から聞こえてきたのは日野先生と田塚先生の声だった。


 ――何かあったんでしょうか?探す?誰を?


 ふと気になって、私はそのまま聞き耳を立てることにした。


『田塚先生。宇咲さんが正門から出て行ったというには間違いないのですね?』

『ああ、間違いないよ。彼女が門を飛び越えていくところを見たからね』


 ――宇咲さんが学校から脱走した!?


 まったくありえない話じゃなかった。

 むしろ、それなら納得がいく。


「大上さん!」

「大上先輩!」

「望月さん、宮原さん!」


 望月さんと宮原さんの二人が走ってやって来る。


「ももは……こっちにはいないのか」

「私たちもお姉様を探しますわ!」

「手伝ってくれるのはすごく嬉しいです。でも、その……宇咲さんは……」

「もしかして、何かあったのか?」


 私は校門を指さす。

 すると、望月さんは眉間にシワを寄せながら「まじか」と言わん表情を浮かべる。


「まさか、お姉様は外に!?」

「そうらしいです。先生がそう話していたので間違いないと思います」

「お姉様、なんて大胆な行動を!?」

「……じゃあ、私らも抜け出すか」

「望月先輩も何を当たり前のように校則違反をしようとしているのですか!?」


 いちいち大声で反応してくる宮原さんに苛ついたのか、望月さんはお叱りという名の軽い蹴りを食らわせる。


「ひどいですわ……暴力反対ですわ……」

「うるさい後輩はひとまず置いておいて、大上さん、他の情報はないの?どっちの方角に行ったとか?」

「えっと、それは……」


『捜索範囲は駅方面。まずは大通り沿いを中心に』


 もう一度耳を澄ますと、ちょうど私たちに必要な話をしているところだった。


「駅方面だそうです。それ以上に詳しいことは……望月さん?」


 じとー。


 望月さんは目を細くして私を見つめている。


「大上さん、先生の会話を盗み聞きしてるだろ?」

「え!?あ、えっと……は、はい……」

「盗み聞き!?先生のお姿は……どこにも見当たりませんが……?」


 宮原さんは首を忙しなく左右に動かして先生の姿を探そうとする。


「先生は職員室です」

「職員室!?」

「ここから職員室までは、五十メートルは離れてるな」

「オオカミのケモノツキの聴力は優れているとは聞いていましたが、これ程とは驚きですわ……」


 感嘆の溜息をつく宮原さんはそこでふと気付く。


「これ程優れた聴力を持っているのでしたら、お姉様の居場所も分かるのではないですか?」

「ごめんなさい、それは難しいというか……無理です。町中のような音が多い場所だと、私の耳あまり役に立たないんです」


 聴力が優れているということは、それだけ一度に多くの音を聞き取ることができるということだ。


「ゲームセンターってすぐ隣の人の声も聞こえにくいですよね。町中では、それとすごく似た状態になるんです」


 そう説明すると、宮原さんの口元に両手を添えてギョッと目を丸くする。


「聴力の違いでそこまで違うのですか!?ごめんなさい!知らなかったとはいえ、とても無茶なことを言ってしまいましたわ」

「謝らないでください。知らなくて当然だと思います。ネットにもこういう情報はほとんど書いてありませんし……」

「大上さんの聴覚ではももを追えないのは分かった。となると、どうやって追いかける?闇雲に探すわけにもいかないぞ」


 望月さんと宮原さんは「うーん」と頭を悩ませる。


「……あの、宇咲さんを追う方法。一つだけありますけど、試してみますか?」


 私は手を挙げ、二人に相談してみる。

 

「あるのですか!それで、その方法とはどのような?」

「オオカミの嗅覚で宇咲さんの匂いを追うんです」


 そう言って、私は自分の鼻先を指さす。


「そうか。オオカミって嗅覚も鋭いんだっけ」

「でも、町中へ行くのなら追跡の難しさは音の時と同じではないのでしょうか?」

「音は似たものもありますし、他の音で消えてしまうこともありますが、体臭は特徴がはっきりしてるので、匂いで探す方が音で探すよりずっと楽なんです」

「いいじゃん。じゃあ、それでいこうよ」

「でも、一つ問題がありまして……」


 私はあらかじめ一言ことわって、続ける。


「私、まだ宇咲さんの匂いを覚えられてなくて。なので、その……宇咲さんの匂いがついた、それもできるだけ濃い匂いがついたものが必要でして……」

「濃い匂いがついたものって、例えば?」

「下着とか……?」

「「……」」


 次の瞬間、望月さんと宮原さんはドン引きな表情をしながら、私から一歩遠ざかる。


「二人とも引かないでください!下着は例えばの話でして!肌に長時間触れていたり、汗がついてたりするものなら何でもいいです!」

「なるほどね。うん、言いたいことは分かったよ」


 何とか二人とも納得はしてくれる。

 でも、引きつった表情は戻らないし、距離も遠ざかったままだった。


 ***


 少しして、望月さんは教室からボストンバッグを持って戻ってきた。


「バッグごと持ってきたのですか!?」

「教室で漁るにもいかなくてさ」


 望月さんはバッグを開いて、中を物色する。


「あった、ももが今日の朝練で使った服!大上さん、これでいい?」


 望月さんは鞄からピンク色のスポーツウェアを取り出して、私に手渡す。


「大上先輩、本当にやるのですか?先生方にお任せするというのは?」

「あんな状態のももを放って、授業に出られるわけないだろ」

「それはそうですが……」

「宮原、もうこれしかないんだ。それに、大上さんはももの恋人だから、ギリ許され……」


 望月さんはそこまで言うと、急に声のトーンを低くする。


「許されないかもしれない……」

「望月先輩もお姉様への申し訳なさがあるではありませんか!」


 そのまま言い合いを始めてしまう二人。


 ――時間もないし、もう始めちゃおうかな……。


 嗅いでいるところを見られるのは流石に恥ずかしいので、言い合いを続ける二人に背を向ける。


 ――宇咲さんの匂いが染みついた服……どうしよう、ちょっとドキドキする……じゃない!早く匂いを覚えて、宇咲さんを迎えに行かないと。


「宇咲さん、勝手に嗅いじゃってごめんなさい」


 私は思い切って自分の顔を服に押し付けて、鼻に意識を集中しながら深呼吸する。


 ――うん、これ。宇咲さんの匂い。


 桃みたいな甘くて優しい匂い。

 そこに、ちょっとだけツンとした匂いが混じる。


 ――宇咲さんに包まれているみたい。ずっと嗅いでたいかも……。


 息を吸うたびに、宇咲さんとキスしてる時みたいに頭がフワフワして気持ちいい感覚になる。


「……大上さん、大上さん?」

「わわっ!?」


 気が付くと、望月さんは目を細くして、じーっと私を見つめていた。

 宮原さんの方は何故か口元を手で覆いながら、顔を赤く火照らせていた。


「尻尾がすごく激しく動いてたけど、目的忘れてないよね?」

「ごめんなさい。自分の世界に入ってました……」

「バカ野郎」


 そうツッコまれながら、背中を軽く叩かれる。


「あの……それで、お姉様の匂いは覚えられたのでしょうか?」

「宇咲さんの匂いは覚えました。あとは……」


 私はスンスンと周囲の匂いを嗅いでみる。


「宇咲さんの匂いを見つけました。追えそうです」

 

 宇咲さんの匂いがまるで一本の糸のように空気中を漂っていて、校門の向こう側へ続いていた。


 これを辿っていけば、宇咲さんに辿り着くはずだ。


「流石の嗅覚ですわ」

「よし、ももを探そう」


 私たちは頷き合い、決意を固める。

 そして、いざ門を乗り越えんと手を伸ばした次の瞬間――。


「あなたたち、何をしているのですか?」


 校門から少し奥に行ったところにある職員玄関からちょうど出てきた日野先生から声をかけられる。


 日野先生の背後には、数人の先生の姿もあった。

 恐らく、宇咲さんを捜索しに行く先生たちだろう。


「よりよって、このタイミングで……!?」

「望月さん、ど、どうしますか!?」

「そんなの……強行突破しかないだろ!」


 その言葉と同時に、望月さんは急いで門をよじ登ろうとする。

 私と宮原さんも望月さんに続いて、門に手をかける。


「待ちなさい!」


 校門へと一気に駆け出す先生たち。

 その中でも、日野先生はスーツ姿にハイヒールとは思えない身のこなしと陸上部顔負けのスピードで他の先生たちを置き去りにしながら、こちらに迫ってくる。


「日野先生って、陸上部の顧問でしたっけ!?」

「柔道部の顧問だよ!」

「先輩方、そんなことを言っている場合ではありませんわ!急がないと、追いつかれてしまいます!」


 私たちはもう一心不乱に門をよじ登る。


 ――よし、越えた!


 私はオオカミのケモノツキの脚力と腕力で、無理矢理門を飛び越える。


「望月さんと宮原さんは?」

「大上さん、ごめん。捕まった!」


 振り返ると、望月さんと宮原さんは日野先生に引きずり下ろされているところだった。


「大上さん、今なら反省文だけで済むでしょう。ですが、戻らないというのであれば、退学も覚悟してください」

「脱走しただけで退学!?」

「大上さんはケモノツキですから。程度はどうであれ、問題行動を起こすと不安に思う大人もいるんですよ」


 日野先生の言う「大人たち」というのは、生徒の親たちのことだろう。

 

「世間が取り上げるのはケモノツキの過激な一面ばかりです。そのせいで、あなた方を同じ人間として見ない方も一定数存在します。大上さん、今あなたのしている行動は彼らに対して排除のチャンスを与えてしまう行為であることを分かっていますか?」

「……」


 ――そんなこと、考えたことがなかった。


 今まで送ってきた空気のように生きる生活。

 あれは、偶然にも、目に見える周囲の人々だけでなく、ケモノツキをよく思わない大人たちからも自分自身を守っていたのだ。


 ――私は運がよかったんだ。


 私は「私自身」か「宇咲さん」のどちらかを選ばないといけない。

 選べるのは、どちらか一つだけ。


「……日野先生、ごめんなさい。私は宇咲さんを選びます」


 考えるまでもなかった。


「この選択が正解なのかは分かりません。ですが、一つだけ言えることがあります。見て見ぬふりは、絶対に間違いだってことです」


 最後に、日野先生へ「ごめんなさい」と謝って、私は駆け出した。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

ぜひ次回も読んでくださると嬉しいです。


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作者の創作意欲もぐんぐん上がります。


本作品は不定期で更新しています。

詳しい情報は作者X(旧Twitter)チェックしてください!

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