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うさ百合~ツイてるふたりは恋仲です~  作者: 夏黄ひまわり


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第四話:好きが膨らむ私、変わりたくない私

「え……?」


 階段を上り切る寸前。

 宇咲さんは突然何かに引っ張られるように大きく後ろに傾く。


 次の瞬間、宇咲さんの足は床から離れ弧を描きながら踊り場へと落下していく。

 宇咲さんが踊り場に叩きつけられるまで、あと数秒もなかった。


「宇咲さんっ……!」


 私は叫んだ。

 同時に身体が動いた。


 私はオオカミのケモノツキに備わる身体能力をフルに使って、階段を滑るように駆け降りる。


 ――間に合え、間に合えっ!


 視線の先で、今まさに宇咲さんの身体が踊り場に叩きつけられようとしていた。

 宇咲さんは目蓋をギュッと瞑って、全身に力を込める。


 ――間に合え……っ!!


 ドスン。


 次の瞬間、階段に鈍い音が響き渡る。


「間に合って……よかった」


 宇咲さんは私の腕の中にいた。

 衝突の直前、私は宇咲さんと踊り場の間に素早く自分の身体をねじ込んだのだ。


「大上さん……?何で?」


 宇咲さんは瞳をゴマ粒のようにして、「え?ええ?」と何度も呟いている。


「もう大丈夫ですよ。安心してください」


 状況の飲み込めていない彼女の頭をそっと撫でる。

 触れることに慣れていない指先は震えていて、動きもぎこちなかった。


「大上さん、ありがとう。身体は大丈夫?」

「はい。私、身体は頑丈ですので」

「よかった」


 宇咲さんはホッと安堵の溜め息をつく。


「宇咲さん、怪我はしていませんか?」

「ももも大丈夫だよ。大上さんが受け止めてくれたから」


 そう言うと、さらにこう続ける。


「やっぱり、大上さんはももの王子様だね」

 

 宇咲さんは嬉しそうに微笑む。

 すると、私の胸の奥がキュッとなった。


 胸を締め付けられるような、切ない感覚。

 でも、それは同時に温かくて、不思議と心地がよかった。


 ***


 それから数日後。

 私の学校生活はまた少し変わった。


「あ、オオカミの人だ」


 朝の登校時間、周りいた誰かがそう呟く。


 ――青色のリボン……一年生?


 声のした方を見やると、物陰からこちらの様子をうかがう数人の女子生徒の姿があった。

 彼女たちの目はキラキラと輝いている。


「あ、こっち見た!目が合っちゃった!」

「ズルい!いいな~!」

「私も目が合った!」


 特に目を合わせたつもりはないのだけれど、彼女たちは「キャー」と叫びながら盛り上がる。

 中には、その場で飛び跳ねて感情を露わにする者もいる。


「……」

 

 ――今まで嫌われてたはずなのに……何でこんなことに……。


「大上さん!」


 校門の方から聞き慣れた声が聞こえてくる。


 宇咲さんだ。

 踵を浮かせ、グッと背筋を伸ばしながら、向日葵のような元気一杯の笑顔と一緒に大きく手を振る。


「おはよ!」

「おはようございます」

「大上さんもすっかり人気者だね」


 宇咲さんはニヤニヤしながら私を見やる。


「まさか、大上さんにファンがつくなんてね。うちの部でもね、大上さんのことをカッコいいって言ってる子がいたよ」

「止めてください……そういうの、本当に慣れてないので……」


 恥ずかし過ぎて、頭が爆発しそうになる。


「あはは、照れてる……可愛い」


 宇咲さんに可愛いって言われて途端、心臓がトンッと跳ねる。

 背筋がゾワゾワして、顔がさらに熱くなる。


「……」


 宇咲さんは私の顔をじーっと見つめてくる。


「宇咲さん……?」

「大上さん、教室行く前に寄り道していい?」

「え?寄り道ってどこに、あっ……」


 宇咲さんは返事を待ってくれなかった。

 私の手首を掴むと玄関口とは別の方向へと歩き出した。


 ***


 宇咲さんに連れられてやって来たのは、体育館裏。

 バスケ部の朝練は終わっているらしく、体育館は静かだった。


「宇咲さん、どうしてこんなところに?」

「それはもちろん、二人きりになれるからだよ」


 ――やっぱり、そういうことなんだ……。


 何となくの予感が確信に変わる。

 その瞬間から、心臓の鼓動が早くなる。


「大上さん、また顔が赤くなってる」

「だ、だって……」


 宇咲さんは一歩踏み込むと、上目づかいで覗き込んでくる。


「期待してる?」

「……っ!?」


 まるで心の中を覗き込んだみたいなその言葉に、ドキッとする。

 身体と一緒に耳と尻尾がビクリと飛び上がるのを感じた。


「あはは!大上さん、分かりやす過ぎ!」


 ――き、消えたい……。


 恥ずかしさで身体が爆発してしまいそうだった。


「大上さんの顔、さっきより真っ赤だよ」

「い、言わないで……」

「嫌だ。だって、可愛いんだもん」


 可愛いの追加でもっと恥ずかしくなる。


「また赤くなった。可愛いって言われてまた恥ずかしくなっちゃったんだ」

「……っ」


 ――もうだめ……。


 我慢の限界を迎えてしまった私はたまらず顔を逸らす。

 すると、宇咲さんのクスクスと笑う声が聞こえた。


「ごめんね。意地悪しすぎちゃった」

「……謝るなら、最初から手加減してください」

「嫌だ」

「宇咲さん!」

「あはは!」


 宇咲さんはケラケラと笑いながら、飛び込むように私にもたれかかってくる。


「……」


 宇咲さんは物欲しそうな瞳で私の目をじーっと見つめる。

 私たちを取り巻く空気が変わるのを感じる。


 ドッドッドッ……。


 密着する胸から響いてくる宇咲さんの心臓の音はとても早い。

 宇咲さんだけじゃない、私も同じくらい早かった。


「キスして」

「は、はい……」


 私は吸い込まれるように宇咲さんの唇に自分の唇を重ねる。


 校舎の方から聞こえてくる他生徒の声。

 早朝から物陰でキスをする、その背徳感がキスの味を濃くさせる。


「大上さん、ももが一番だからね」


 キスの最中、宇咲さんはポツリと呟く。


「え?」

「大上さんのファン一号はももだから。そこは絶対譲らない」


 その時だった。

 突然、宇咲さんの舌が私の唇を押しのけて、口の中に入ってくる。


「……っ!?」


 私はビックリして顔を仰け反らす。


「どうして逃げるの?」

「えっと……突然だったので、ビックリして……」

「確かにいきなりだったね。ごめんね」


 宇咲さんは「あはは」と笑う。

 いつもと違う笑い方。

 乾いていて、まるで自分を嘲笑っているみたいな。


 ――宇咲さん?


「じゃあ、今度は大丈夫だよね……」


 そう言うと、宇咲さんは私の顔を引き寄せ、唇を近づけてくる。


 その時、校内に予鈴が鳴り響いた。

 ホームルーム開始五分前を知らせる予鈴だ。


「宇咲さん、戻りましょう!ホームルームが始まっちゃいます!」

「……」


 宇咲さんは無言で額を私の胸に押し当てる。

 表情は見えないけれど、宇咲さんのうさぎ耳はダランと垂れ下がっていた。


「宇咲さん……?」

「あ、ごめん。戻ろっか!」


 顔を上げると、ニコッと笑顔を浮かべる宇咲さん。

 でも、その笑みには違和感があった。

 まるで造り物みたいなのだ。


 ――これって、あの時の?


 宇咲さんがケモノツキになる前、放課後の教室でチラリと見せた顔に似ていた。 


「あ、あの……宇咲さん!」

「ん?どうしたの?」

「えっと、我慢してることとかないですか?」


 そう問いかけた途端、垂れ下がっていたうさぎ耳がピョンと跳ね上がる。


「やっぱり、何かあるんですか?」


 ケモノツキの身体は案外正直だ。

 私たちは隠しているつもりでも、本能的に仕草として感情を露わにしてしまう。


「……何にもないよ」

「でも今、耳が動きました」

「大上さんが変なことを聞くからだよ。さっきの大上さんと同じ」


 そう言われたら、何も言えなくなってしまう。


「さあ、行こう。早くしないと遅刻になっちゃうよ」

「……はい」


 私は諦めて、教室へと歩き出す宇咲さんを追う。


 さっきのことはもう聞かないことにした。

 でも、頭の中には、あの妙な笑顔がへばりついて離れなかった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

ぜひ次回も読んでくださると嬉しいです。


「面白い!」と思ったら、高評価お願いします。

作者の創作意欲もぐんぐん上がります。


本作品は不定期で更新しています。

詳しい情報は作者X(旧Twitter)チェックしてください!

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