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うさ百合~ツイてるふたりは恋仲です~  作者: 夏黄ひまわり


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第三話:去年の出会い、すれ違い

 お付き合い二日目。

 私はいつもと同じ時間、同じように、登校する。


 私の席は窓際の最後列。

 クラスメイトの談笑を邪魔しないよう、読書をしたりして静かに過ごす。


「ふわ……」

「ふふ、大きなあくびだね」


 突然、私のすぐ後ろから声がかけられる。

 穏やかに流れる水の音のような清らかで耳触りのいい声だ。


「だ〜れだ?」


 後ろから私の首に腕を回しながら、その人は問いかけてくる。

 回された腕から、制汗剤と汗の混じった匂いが香る。


「……宇咲さん」

「正解!」

「あの……お、おはようございます」

「おはよう!」


 宇咲さんは嬉しそうにしながらそう言うと、ニコッとした笑顔でこちらを覗き込んでくる。


「あ、目に隈ができてる。昨日は夜更かししちゃったのかな?」

「あ、えっと……それは……」

「昨日、私が言ったことを考えてて、眠れなかったとか?」

「――っ!?」


 ドキッとし過ぎて、悲鳴が出そうになる。

 すると、宇咲さんはケラケラと笑った。


「だ、だって……宇咲さんがあんなこと言うから!」

「……いいよ」

「え?」

「大上さんがしたいなら、私はいつでもいいよ」


 宇咲さんは甘く囁くように艶っぽい声色でそう言いながら、私を抱きしめる腕の力を強くする。


「宇咲さん。それって、どういう……?」

「大上さんが想像してる通りのことだよ」


 ――それって、やっぱりエッチなこと!?


 ふと頭の中で、宇咲さんにいかがわしいことをされる自分の姿を想像してしまった。

 すると、高熱が出たみたいに顔が熱くなる。


「……大上さんのエッチ」


 宇咲さんはからかうように囁く。

 そう言われて、余計に顔が熱くなる。


「キス以上のことなんて、ももは一言も言ってないのに。照れてる大上さん、可愛い」

「み、見ないでください」


 まるで瞳を通して頭の中を覗かれているみたいで、堪らず顔を逸らす。

 宇咲さんはクスクスと笑う。


 そして、私の頭頂部から伸びるオオカミ耳に口を近付けると小さな声でこう言った。


「もものことを襲いたかったら、いつでも襲っていいからね」

「っ!?」


 宇咲さんは挑発的な笑みを浮かべて、私を見つめていた。


 ――わ、私が宇咲さんを襲う!?宇咲さんがじゃなくて!?


 私が宇咲さんを襲うなんて想像もつかない。

 自分から宇咲さんに触れるなんて、昨日みたいなことがない限り、とてもできる気がしない。


「朝から熱々だね、お二人さん」

「「わっ!?」」


 私の後ろにいる宇咲さんのさらにすぐ後ろ。

 まるで今そこに湧いて出たみたいに望月さんが現れる。


「恋!びっくりさせないでよ!」

「そっちが勝手に驚いただけだろ」

「望月さん、お、おはようございます……」

「おはよう」


 望月さんは私の一つ前――自分の席に鞄を下ろすと、身を翻して私たちをじーっと見やる。


「……昨日からやけに機嫌がよかったのは、やっぱりそういうことだったんだ。何となく分かってたけど、大上さんだったか」

「うん」

「でもさ、そういうことは親友の私に教えてくれてもよかったんじゃない?」

「恋なら、言わなくてもすぐに分かるでしょ?」


 望月さんは「確かに……」と言いながら、小さく笑う。


「もも、おめでと。一年間想い続けていた人と付き合えてよかったね」

「えへへ、ありがとう」


 宇咲さんと望月さんはお互いの顔を見やりながら、にこやかにほほ笑んでいる。


 そんな二人のやり取りの最中、私は教室がしんと静まり返っていることに気付く。

 もしかしたら、もっと前から教室は静かだったのかもしれない。


「う、嘘……」

「宇咲さんが、つ、付き合う……?」


 クラスメイトの誰かが声を震わせて言った。

 直後、教室はクラスメイトたちの驚愕の悲鳴に包まれた。


 ***

 

 私と宇咲さんが付き合ったという話は、瞬く間に学校中に広まった。

 その結果、私の空気のような学校生活は終わりを告げることになった。


「恋、ごめんだけど、大上さんのことよろしくね」

「はいはい」


 授業と授業の間の休み時間。

 次の授業の理科で、理科室に行かなくてはいけなかった。


 ただ、学級員をやっている宇咲さんは急遽日野先生に仕事を頼まれて、休み時間は別行動。

 私は望月さんと理科室へ向かう事になった。


「注目度がすごいね。ももといる時よりすごいかも」

「そ、そうなんですか……」


 廊下に一歩出ただけで、その場にいた生徒たちが一斉に視線を向けてくる。

 皆揃いも揃って、私への疑いの感情をその瞳に宿している。


 私をオオカミのケモノツキだからと恐れる目とは少し違う。

 けれど、心を揺さぶってくる不気味な怖さがあって、足がすくむ。


「大丈夫。大上さんは堂々としていればいい」

「は、はい」


 望月さんは私を守るように隣を歩いてくれる。


 でも、周囲からの視線はなくならないまま。

 居心地の悪い時間が続く。


 ――私がケモノツキじゃなかったら、こうはならなかったのかな……?


 私はふと思う。

 でも、すぐに無駄なことだと気付いて、考えるのを止めた。


「……オオカミのケモノツキ」


 上の階からやって来た一人の女子生徒が、私を見てポツリと呟く。

 すると、その生徒は力のこもった瞳を向け、真っ直ぐこちらへ歩み寄ってくる。


 品のいい優雅な足取りと共に、金色に輝く髪を揺らす姿、どこか異国の雰囲気の漂う顔立ちがとても印象的だった。


「望月先輩、こんにちは。朝練ぶりですわね」


 望月さんに柔らかく微笑みかけ、お行儀のいいお辞儀をする。


「こんにちは、宮原。何か用?」

「はい。そちらの方に少々」


 宮原と呼ばれる一年生は視線を私に向ける。

 笑みを浮かべているけれど、まるで睨まれているみたいに圧があった。


「あなたが大上まおさん、でしょうか?」

「は、はい……」

「やはりそうでしたか。初めまして、私は一年の宮原月夜(みやはら つきよ)と申します」


 宮原さんは背筋をピンと伸ばして、とても礼儀よくお辞儀をする。


「宮原、ごめん。私たち理科室に行かないといけないんだ。話をしてる暇ないんだ」


 望月さんは宮原さんの言葉を遮ると、私の腕を掴んで足早に歩き出す。

 すると、宮原さんは素早く私の手首を掴み、廊下中に響き渡る大きな声でこう言った。


「百花お姉様と別れてください!」


 ――百花お、お姉様……?


 宇咲さんは一人っ子のはずだった。

 以前、本人が教室でそう話していたのを聞いたことがある。


「あなたのような方はお姉様の恋人に相応しくありません!」

「おい、宮原」

「力づくで百花お姉様を手に入れて嬉しいですか?卑怯だと思いませんか?あなたに人の心はおありにはならないのですか?」


 宮原さんの問いかけは、まるで私が宇咲さんを脅迫したかのような言い方だった。


 周囲もそう受け取った。

 そして、他クラスの生徒もクラスメイトも、揃って悪者を見るような目で私を見やる。


「宮原、デタラメを言うな」

「いいえ、デタラメではありませんわ。私、この方のことを調べましたもの。一年生の時、この方とお姉様のクラスメイトもでなければ、部活仲間でも、委員会仲間でもありませんでした。接点がないのです。なのに、お姉様はこの方を一年生の時からお慕いしていた?辻褄が合いませんわ!」


 全部、彼女の言う通りだった。


 一年生の時、私と宇咲さんは接点がまるでなかった。

 会話をしたのだって、二年生になってからが初めてのはずだ。


 だから、宮原さんの言葉を否定する人は誰一人いない。


「望月先輩、お姉様はこの方に脅されて仕方なく恋人をしている。そうなのでしょう?」

「違う」

「先輩!」

「だから、違うって。何回言わせる気……?」


 望月さんは静かに怒鳴りながら、宮原さんを睨みつける。

 あまりの剣幕に、宮原さんは目を丸くして後ずさる。


「……大上さん、行こう」

「は、はい……」

 

 私は望月さんに手を引かれ、再び歩き出す。


 宮原さんはこれ以上追ってくることはない。

 しかし、彼女は廊下で立ち尽くしたまま、私を憎ましそうに睨みつけていた。


 ***


 「大上さん。うちの後輩がごめん」


 理科室に着くと、望月さんは突然深く頭を下げる。


「あいつはテニス部の後輩で、特にももを慕っている奴なんだ。そのせいか、もものことになると、周りが見えなくなるところもあって。とにかく、迷惑かけてごめん」

「あ、頭を上げてください!望月さんが謝ることではないです!」

「それでも、あいつのせいで周りは大上さんが悪者だって思い始めてる。今度は大上さんが嫌がらせを受けることになるかもしれない」

「……望月さんって優しい人ですね」

「え?」


 望月さんはきょとんする。


「クラスメイトになったばかりで、私のことをほとんど知らないのに、それでも望月さんは私を守ろうとしてくれました」


 普通の人は私を庇おうなんてしない。

 そうすれば、自分も周りから浮いてしまうと分かっているからだ。


「えっと、だから……私はその優しさだけで十分です」

「はあ……」


 望月さんは口を半開きにしたまま、微妙な表情を浮かべる。

 私たちの間に気まずい空気が流れる。


「あの、ごめんなさい。私、説明が下手で」

「いや、そこはまあいいんだけど……」

「え……?他に何かありましたか?」

「大上さん、もし私の勘違いだったらごめんなんだけどさ……」


 望月さんは後頭部を掻き、恐る恐るこう続けた。


「私たち、一年の時からクラスメイトなんだけど」

「……へ?」

「去年、私も一年七組なんだよ」


 その言葉を聞いて、私は頭が真っ白になった。

 一年七組は去年の私のクラスだ。


 ――や、やってしまった……。


 血の気がサーッと引いていくのをはっきりと感じる。


「やっぱり気付いてなかったんだ」

「ご、ごご……ごめんなさい!本当にごめんなさいっ!」


 私は大慌てで何度も頭を下げて謝る。


「謝らなくていいって。同じクラスだったって言っても、まともに話をしたことなんてなかったから」


 望月さんは「ふふっ」と微笑んで、私の大失態を笑い飛ばす。


「でも、まさか望月さんが去年から一緒だったなんて」

「他人に興味がなければ、そんなものだよ」

「う……」


 望月さんの一言がグサリと私の胸に突き刺さる。


「あ、別に責めてないよ。きっとそれが、大上さんなりの処世術なんだろうって話」

「……」


 何も言えなかった。


 きっと望月さんは人をよく観ている人なんだろう。

 心臓を撫でられるみたいに、胸の奥がざわざわする。


「……あの、一つ聞いてもいいですか?」

「うん、何?」

「宇咲さんの言う好きな人って、本当に私のことなんですか?」

「不安?」

「不安というか……きちんと納得できなくて……」


 宇咲さんと接点ができたのは、二年生に入ってからだ。

 でも、宇咲さんは一年生の頃から「好きな人がいる」と言って、告白を断っていた。

 矛盾している。


「じゃあ、ももにそう言ってみたら?」


 私が答えることじゃない。

 望月さんはそう言っているようだった。


 ***


 お昼休み。

 私たち三人は校庭にあるテーブルベンチで昼食をとっていた。


 私と望月さんは休み時間に遭遇した出来事について、宇咲さんに伝えた。


「……月夜ちゃんが大上さんにそんなこと言ったの?マジで?」

「マジだよ」

「そっか……教室に帰ってくる時の皆の表情はそうことだったんだ……」


 理科室から教室へ戻る際、敵意を剥き出しにして私を睨みつける周囲の様子を思い出して、宇咲さんは溜め息をつく。


 宮原さんの行動は本当に予想外だったのだろう。

 宇咲さんはそのまま少しの間、言葉を失っていた。


「月夜ちゃんなら、応援してくれると思ったんだけどな……」

「根は悪い奴じゃないけど、相手が大上さんだったから素直に信じられなかったんだろうね」

「ちょっと、恋!」


 宇咲さんに怒鳴られ、ハッとする望月さん。

 しまったと言わんばかりの表情で私を見やる。


「大上さん、ごめん。大上さんのことを悪く言うつもりはなかったんだけど」

「分かってます。その……望月さんの言うことは事実だと思いますし……」

「……」


 すぐ隣から宇咲さんがムスッとした表情で私を睨みつけてくる。


「宇咲さん?」

「ももは大上さんのそういうところが嫌い」

「え……?」

「自分がオオカミのケモノツキだからって、引け目を感じてるの?そんなの気にしなくていいんだよ。怒ってもいいんだよ。言い返してもいいんだよ」


 声を絞り出すように言う宇咲さん。

 私を真っ直ぐ見つめるその瞳は涙で潤んでいた。


「本当の大上さんは、世界一優しい人なんだよ。なのに、どうしてそれを知ってもらおうとしないの?伝えようとしないの?」


 宇咲さんの涙と言葉が心の奥をグワンと揺さぶる。

  

「……宇咲さんは私の何を知っているんですか!?」


 校舎の中にまで聞こえてしまいそうな私の叫び声に、宇咲さんはウサギ耳を含めた全身をビクリと震わせる。


「宇咲さんが知ってることなんて、クラスメイトとして過ごしたこの数カ月間だけですよね?たったそれだけで、私の全部を知っているみたいに言わないでください!」


 感情が昂り、オオカミ耳と尻尾がピンと立ち上がるのを感じる。 

 ケモノツキ特有の獣の本能なのだろう、私は歯をむき出しにして、「グルル……」と唸り声を喉の奥から響かせていた。


 ――あ、やってしまった。


 そう気付いた時には手遅れだった。


 宇咲さんも望月さんもすっかり怯えてしまっていた。

 顔を真っ青にして、全部をガクガクと震わせてる。


 まるで化け物を見るみたいなその表情が、かつての親友と重なった。


「ご、ごめんなさい……」


 頭が真っ白になった。

 そして次の瞬間、その場にいるのが怖くてどうしようもなくなって、私は逃げ出した。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

ぜひ次回も読んでくださると嬉しいです。


感想やレビューをいただけたら、作者が歓喜の舞を踊ります。

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本作品は不定期で更新しています。

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