表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うさ百合~ツイてるふたりは恋仲です~  作者: 夏黄ひまわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/9

第二話:初めての放課後、秘密なこと

 私、大上まおは学校の人気者、宇咲百花さんとお付き合いをすることになった。

 でも、お付き合い一日目の時点でそのことを知っているのは、私と宇咲さんの二人だけだ。


「大上さん!お待たせ!」


 下校時刻まであと少しという放課後。

 私しかいないガランとした教室に、宇咲さんが私の名前を呼びながら勢いよく飛び込んでくる。


「部活終わるの早かったですね」

「うん、今日は少し早めに終わったんだ。ももとしては『ラッキー!』って感じ!」


 ――部活棟から急いで来たのかな?


 宇咲さんの呼吸は微かに乱れていた。

 それに朝練の後に必ず香るスッと爽やかな制汗剤の香りもしてこない。


 ――それは、流石に自意識過剰だよね。


 ふと抱いてしまった自分勝手な期待は、丸めて遠くへと捨てる。


「大上さん?どうしたの?」

「わっ!?」


 私の前の席にいつの間にか腰を下ろしていた宇咲さんは、上半身を乗り出して、私の顔を覗き込んでいた。


「ぼーっとしてたけど、何考えてたの?」

「え、えっと……何でもないです……」

「何を、考えてたの?」


 宝石みたいな丸くてキラキラ輝く瞳で、私の瞳を真っ直ぐ見つめ続ける。


「……」


 じーっ。


 眼力がとんでもない。

 納得のいく答えが返ってくるまで諦めてやるものか、という固い意志が伝わってくる。


「私のために急いで帰ってきたのかな、って考えてました……」


 宇咲さんの圧に負けて、素直に白状してしまった。


「自意識過剰でごめんなさい……」

「自意識過剰じゃないよ」

「え?」

「だから、大上さんの言う通りなんだよ。ももは一秒でも早く大上さんに会いたくて、大急ぎで来たんだよ」


 宇咲さんは柔らかく微笑む。


 友達やクラスメイトには絶対にしない恋する乙女の顔。

 恋人の私にしか向けない、私だけが見られる表情。


 ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、特別なんだって気持ちが湧いてくる。


「……大上さん、キスしよっか?」


 甘く囁くように、私に問いかける。


「こ、ここでですか?」

「うん、そうだよ。嫌?」

「嫌ってわけではないですけど……せめて、扉を閉めませんか?」


 教室の前後にある扉はどちらも完全に開いていて、部屋の中が丸見えな状態だった。


「別に見られて困るようなことでもないじゃん。どうせ、モモたちの関係はすぐにバレるだろうし」

「どうせって……きちんと気を付ければ、隠すこともできるんじゃないですか?」

「普通の女子高生だったらね。でも、ももたちはケモノツキ同士のカップルなんだよ?」


 そう言うと、宇咲さんは頭から伸びる自分のうさ耳をチョンチョンと弾くように触ってみせる。


「ケモノツキって、普通に外を出歩くだけでも芸能人みたいに注目されるじゃん?付き合ってるの隠すなんて無理だよ」

「そうかもしれないですけど……」

「大上さんはももと付き合ってることを隠したいの?」

「私は……」


 少しだけ口を噤んで、言葉を吟味する。


「不安なんです。宇咲さんは私のことを好きと言ってくれますけど、私はオオカミのケモノツキですし。それに今までお付き合いなんてしたことないですし……ケモノツキ(このからだ)になってから、仲のいい友達すらできたこともないですし……」

「だから?」

「そんな私が宇咲さんと付き合っているって広まったら、宇咲さんに迷惑がかかるんじゃないかって」

「はい、却下」


 宇咲さんは即答するように言い放つ。


「大上さん、告白したのはももの方からなんだよ?全部承知の上に決まってるじゃん。だから、そこは大上さんが気にするところじゃない」

「でも……」

「大上さん」


 宇咲さんは両手で私の顔を挟み込むと、グッと顔を近付けて真っ直ぐ睨みつけてくる。


「ももと付き合う相手は大上さん以上いないから。ももたちの関係に文句を言う奴がいたら、その時はももが黙らせる。だから大丈夫。自信を持って!」

「……」


 私を見つめる少しも揺るがないその瞳のせいだろうか。

 クラスメイトという以外は何も知らないはずなのに、彼女の言葉は不思議と私の奥深くへと染み込んでいく。


「あっ、顔赤くなった。褒められて照れちゃった?」

「……」


 宇咲さんの視線がなんだかむず痒くて、思わず視線を逸らす。


「隙あり」

「……っ!?」


 宇咲さんは顔を一気に近付けて、自分の唇の先を私の唇にそっと重ねる。

 驚きのあまり、全身が石みたいに固くなって動けなくなる私。


 お互いの唇を噛み締めるようなキスだった。


「……不意打ち、決められちゃったね」


 キスを終えると、宇咲さんは小悪魔のような笑みを浮かべる。


 宇咲さんの唇はもう私の元を離れてしまった。

 でも、宇咲さんの唇の感触は未だ私の唇に残り続けている。


「キス、気持ちいいね」

「……はい」

「したい時にキスできるなら、それ最高じゃない?」

「……最高、だと思います」

「じゃあ、ももたちが付き合ってることは隠さない。それでいいよね?」


 ――宇咲さんはどうしてそんなにも強引なんだろう。


 でも、不思議だ。

 そんな強引なところを私は嫌いになれない。


「……はい」


 そうして、私はゆっくりと頷いた。


 不安が全部なくなったわけじゃない。

 宇咲さんが悲しい思いをするのは心底嫌だ。


 でも、宇咲さんが大丈夫だって言ってくれているから、私はそれを信じてみることにする。


「じゃあ、もう一回しよっか?」

「……はい」


 私は身体の力を抜いて、目蓋を閉じる。

 すると、すぐに宇咲さんはキスをする。


 ――もう一回って言ってたのに。


 宇咲さんは一回で終わる気なんて更々なかった。

 でも、宇咲さんとのキスは頭が痺れるくらいに気持ちよくて、拒む気なんてなくなる。


 そうして、私は宇咲さんの気が済むまで、宇咲さんの『好き』を受け止め続けた。


 ***


 しばらくして、教室前方のスピーカーから鐘の音が響いてくる。

 生徒の下校時刻を知らせる予鈴だ。


「もうこんな時間!?まだキスしたりないよ」


 ――あれだけキスしたのに、まだ足りないんだ……。


 今の時間だけで、もう両手では数えられないくらいキスをしていた。

 それでも足りないと言うというのだから、宇咲さんは相当なキス好きらしい。


「宇咲さんはキス以外のことは興味ないんですか?」


 気付いたら、思ったことが口に出ていた。


「あ、忘れてください!何でもないです!」

「そこまで言って、何でもないは流石に無理じゃない?」


 そう言って、小さく溜め息をつく。

 すると、宇咲さんは少しだけ顔を逸らして、髪の先を指でいじり始める。


「……ちなみにさ、大上さんの言うキス以外のことって、どういうことを言ってる?」

「え?どういうこととは?」

「……エッチなこと、だったりする?」


 薄っすらと赤く染まる顔で、もじもじしながらそう言う宇咲さん。

 そこでようやく、私は宇咲さんの問いかけの意味に気付く。


「ち、違います!」

「だよね!ああ、ビックリした!」


 宇咲さんはホッと安堵しながら、ケラケラ笑う。


「誤解させるようなことを言って、ごめんなさい」

「気にしないで。ももが勝手に誤解しちゃっただけだし」


 そう言うと、宇咲さんは「でも」と呟いて、こう続ける。


「もちろん興味あるよ。キス以外のことも」


 その言葉を聞いて、私は思考停止。


「宇咲さん、それはどっちのことを言っていますか?」

「さあ、どっちだろう?」


 小悪魔のような笑みを返してくる宇咲さん。

 すると、ピョンっと飛び上がるみたいに席から立ち上がる。


「大上さん、ももは帰るね」

「え……」

「また明日!」


 肩掛けの鞄をリュックみたいに背負い、自分だけ下校する準備をし終えた宇咲さんはさっさと帰っていってしまう。


 そうして、一人静かな教室に置き去りになる私。


「……ど、どっちなんですか!?」


 学校の人気者の宇咲さんと付き合って一日目は、こうして幕を閉じた。


 ***


 ――キス以外って……エ、エッチなことの方なのかな……?


 その夜、宇咲さんが残していった含ませ気味な言葉のせいで、私は悶々とした時間を過ごすことになったのだった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

ぜひ次回も読んでくださると嬉しいです。


感想やレビューをいただけたら、作者が歓喜の舞を踊ります。

<もちろん一言でも大歓迎!!> あなたの想いが詰まった言葉を、ぜひ感想欄・レビュー欄に刻んでいってください。


本作品は不定期で更新しています。

詳しい情報は作者X(旧Twitter)で発信しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ