第二十五話 海王族の再来
【入植30日目】
火龍の狩り場に来てから一月ほどが経過した。
一番恐れていた、湖に火龍が来るという事態はなく、森に住む精霊族も襲われないで済んでいる。
まだまだ油断はできないけれども、火龍は狩り場の外からやって来る者に対して攻撃をしているようだった。
この辺り一帯に、なにか検知器のようなものがあって、火龍はそれを知ることができるというのが、今のところの僕の見解だ。
騎士団が送り込まれて、何度も戦った結果だとしたら、火龍には知性があるのかも知れない。
もちろん、偶発的に遭遇してしまうことはあるだろうけど、夜に移動する限りその危険は少なそうだった。
昼も、ひとりふたり程度で移動しているなら、火龍と出くわす可能性はすごく低い。
こちらから火龍を見つけられるので、なるべく遠くに離れるという選択ができるからだ。
精霊族の村は、すごく落ち着いている。
湖の街の商人が、夜に馬車で行き来をしているけれども、慎ましい生活で、勤勉に働いているので、村はすごく儲かっていた。
とはいえ、彼らは金銭を使う生活をしてこなかったので、商人が持ち込む様々なものを買うことに、悦びを覚えているようだ。
特に、調味料やポーションが人気で、昔よりも明らかに生活の質が向上している。
領主である僕の評判も良く、森で拾ってきてくれる鉱石が、火龍の狩り場の特産品になることは間違いなさそうだった。
湖の街の方は、初めはすごく混乱した。
少し多めに一月の生活費を全員一律に渡したんだけど、食料品の供給が追いつかずに高騰してしまったり、トグサの街に行商に行く商人がいなかったために、誰も儲からなかったり、閉じた世界での生活が上手くいかなかった。
現在は、トグサの街に行商に行き、お金の流れを良くすることでまぁまぁ経済が回るようになっている。
まだ一月だから油断はできないけれども、全ては火龍の機嫌次第なので、いつまで経っても綱渡りなのは変わりなかった。
「…………」
練兵場から掛け声が聞こえる。
クラリスを含めて24名の騎士に、46名の兵士。
鍛える余地があり過ぎるとクラリスが言っていたので、毎日頑張っているんだろう。
僕は、クラリスに会うために顔を出す。
「やあ、クラリスお疲れさま」
「オーウェル様」
いつものメイド服で鍛錬を行っているので、なんか少し変だけど、みんな慣れているようだ。
街で仕事をしている兵士や騎士を除いて、休暇でなければ鍛錬をしているそうなので、みんないずれ強くなるだろう。
「休憩!」
クラリスが声をかけると、騎士も含めてみんながその場にへたり込んだ。
遊びじゃないんだから当たり前だけど、クラリスは結構厳しく鍛錬を行っているようだった。
「こんなに疲れていたら、いざというときに働けないんじゃない?」
「問題ありません、いざというときには別の力が沸くものです」
そうなんだ。
まぁ、いざというときなんて来ない方がいいんだけど。
「どうしましたか?」
「海岸に海王族の船が来ているらしいんだ、一緒に来てくれないか?」
「お供します」
クラリスは疲れを見せずに、メイド服からメイド服に着替える。
もうこれがユニフォームなんだな。
騎士であるより前に、僕のメイドであるってことなのかも知れない。
馬で海岸線に駆けつけると、火龍が船を襲っていた。
僕たちは火龍に見つからないように岩場に隠れる。
もう長い間戦っているだろうけど、船に海王族の姿はなかった。
火龍にやられないように、船の中に閉じこもっているんだろう。
でも、前と様子が違うようだ。
火龍のブレスを受けても、帆が燃えていない。
そして、船が少し小型だった。
「火耐性を施してきたのですね」
クラリスがそう分析する。
「そんなことができるんだ」
火龍の巨体が海を泳げるのかは知らないけど、ブレス以上の攻撃をしてこないようだ。
あの巨体で船に着地したら、一発で船は沈むだろうけど、火龍がどうなるのか自分が一番良く知っているのかも知れない。
「火龍にも得手不得手があるのですね」
「火龍といえども生き物だからね、海の上の相手だとブレスを吐くことしかできないみたいだ」
しばらく頑張っていた火龍だけど、悔しそうな声を上げながら北の方に飛び退っていった。
僕らは隠れていた岩陰から姿を現す。
海王族が表に出て来て船が動き出した。
僕は、川の方に向かって馬を走らせながら、先導する。
そのまま大きな川を余裕を持って遡上した。
ダイオウクジラの行き来と重なったら厄介だけど、どうやら夜に移動するみたいだから、昼に来る海王族とはバッティングしないかも知れない。
川を上って湖に着くと、深いところを海王族に見てもらいながら、港を作った。
そこに船が停泊する。
「領主様、約束通り交易に来た」
いつかの船長だ。
僕たちに海王族の区別は付かないけれども、服装でそうだとわかった。
何事かと、街の人達が見に来ている。
「月に一度来る、いい商売をしたい」
「ありがとうございます、気に入ってもらえるかわかりませんが、こちらが出せるのは今のところ鉱物が主です」
「鉱物が採れるのか、それはいい」
海王族の船員が、積んできた物を運び出している。
こちらが不足しそうな穀物などが主のようだ。
食糧は不足しがちなので、有りがたい限りだ。
ワインなども持ち込まれているので、これからはお酒をクリエイトすることも無くなりそうだった。
「領主様! これは何事ですか!」
商人のまとめ役をしてもらっているミーシャさんだ。
商人は男性の方が多かったけれども、女性のミーシャさんが投票でまとめ役に選ばれていた。
僕の感じだと、すごく優秀な人だ。
「海王族の人達で、これから月に一度、交易に来てくれるそうです。なにかリクエストがあれば伝えておいてください」
「交易! そんなことがあるのですか!」
ミーシャさんは驚いているけれども、言ってなかったかな。
突然で申し訳ない。
「では、兵士に鉱物を持ってこさせます」
「うん、お願いするよ」
鍛錬でへとへとの人達を使うなら、ちょっとかわいそうだけど、仕方が無い。
クラリスは容赦なく兵士の人を使った。
「これが、こちらの出せる鉱物です」
この一月で精霊族が集めた鉱物を海王族に見せる。
帰りの荷物として、金や銀、そしてミスリル、森で採れる貴重な宝石などを積んで帰ってもらえばトントンになるんじゃないかと期待している。
「素晴らしい! さすがは領主様だ!」
海王族が跳び跳ねて喜んでいる。
どうやら交易が成立するみたいで安心した。
「海王族は、命を助けてくれた相手の次に、儲けさせてくれる相手を尊敬する」
「領主様は両方だ!」
鉱物はただで拾えるので、ちょっと申し訳ない。
人権費と言っても、精霊族はあまり見返りを要求しないから、本当にただみたいなものだった。
「これでは到底釣り合わないので、お金を払う」
「そうなんですか?」
「こちらの金貨が足りないので、次にたくさん持ってくるけれどもいいか」
「ミーシャさん」
「はい、ではその辺りの取りまとめは私の方でやります」
「お願いします」
借用書みたいなのを作成するんだろう。
でも、海王族が持ってきたのは大量の金貨だった。
「これでも足りないんですか!?」
「全然足りない。特に、ダークサファイアが高い」
ミスリルよりも高い宝石があるみたいだった。
この辺りの知識は付けておかないといけないかも。
それにしても結構な量の金貨を受け取ってしまった。
うーん。
物資は、こちらが不足しがちな穀物や塩、砂糖などの食物がメインだけど、流行の服やアクセサリー、変わったところで本や嗜好品、マジックアイテムなども持ち込まれていた。
「騎士団の方で、必要な武具や道具をまとめますので、それも次に持ってきてもらいたいです」
「うん、それも言っておいて欲しい」
精霊族の森の方は金属が枯渇する様子もなく,少し歩けばいくらでもきらきらした物が落ちているという。
子供でも採取できるので、丁度いい労働になっているみたいだった。
もしも掘ったら、とんでもなく出て来るんだろう。
新鮮な野菜は毎日商人によって村から持ち込まれ、鉱物も採れる。
精霊族が裕福になりすぎるかと思うけど、彼らは通貨を好まないし、贅沢をしない。
多分、砂糖を持って行ったら凄く喜ぶと思う。
森を行き来している商人に、今回の交易品をいっぱい持って行ってもらおう。
なんだか、軌道に乗りかけているような、妙な高揚感を覚えていた。
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