第二話 9歳の儀式
9歳になった。
父王アマルガンは隙を見せない。
慎重な男だとは思っていたけど、暗殺は無理そうだ。
そもそも、父を殺して僕が犯人だとバレるのは拙い。
やるなら上手く殺さなくちゃいけないんだけど、そんな機会は巡ってきそうになかった。
でもいい。
9歳になった今、僕には別の手立てがあった。
領地だ。
9歳になると領地を与えられる。
アマルガンを討つくらい、その領地を強くしてやる。
領地に視察にでも来てくれればいいが、そう上手くはいかないか?
戦争でも起きてくれればチャンスはある。
起きなければ、僕が起こしてもいい。
何にせよ、戦力になる領地はありがたい話だった。
選択肢が爆発的に増える。
「では、オーウェル様、こちらへどうぞ」
宮廷魔術師のシェーンベルグが僕を呼ぶ。
今は9歳の儀式の最中だった。
成人は16歳だけど、王族は9歳で適正を調べられた。
職業適性テストみたいなものだ。
その適正によって、領地を決められてしまう。
武人の適正があれば国境沿いの領地。
政治に適正があれば大きな街のある領地。
心に闇があるようであれば、僻地の開拓村など様々だ。
僕は、シェーンベルグの前にいき、水晶に手をかざす。
「おお、すさまじいレベルです……」
僕は、朝晩に欠かさず祈りを捧げていた。
祈るとレベルが上がるので、今や相当なものだろう。
「スキルは……クリエイト? 今までの王国の歴史になかったスキルです……興味深い」
僕は、祈りの対価にクリエイトというスキルを貰っていた。
キニスンの電撃みたいなものだ。
要するに0から物を作ることができるスキルなんだけど……僕との親和性がものすごく高かった。
なんと、地球の物が作れることを確認している。
王宮で暮らしていて使うことはあまり無いけれども、役に立ちそうなスキルでよかった。
「適正は……多い、何でもこなせるバランス型ですか……」
バランス型か。
どこかの地方の領地に決まりかな。
それでもいい。
今の僕なら、そこを強くしてみせる。
「しかし、芸術と武人の適正が極端に低いですな……レベルが高いだけにそれは残念です」
うるさい、絵や彫刻は苦手なんだ。
家庭教師を付けられて、様々なことを学んだけど、芸術だけは駄目だ。
意気揚々と絵を描いて喜んでいたのが恥ずかしい……。
「芸術は適性が高ければいいというものではない、極端に低いということも言わば才能だ」
父王アマルガン。
お前にだけは絵を褒められたくない。
「フフフ、オーウェルの絵は酷いものでしたからね、今思いだしても、ククク、心の底から笑いが込み上げてきます」
「キニスン、それはお前がオーウェルの絵に心を動かされたということだ、満点も才能だが0点もまた才能。特に芸術に関してはな」
「僕もオーウェルの絵は好きでしたよ、何が描かれているのかは良くわかりませんでしたが、不思議と温かなものを感じました」
セルジュは芸術に覚えがある、というかほぼ全てのことを高いレベルでこなすことのできる天才だ。
アマルガンを殺したとしても、この国はセルジュが継げばなんの問題もない。
「おお、これは……なんと! 前世の記憶があるのですか!?」
「なに?」
アマルガンの顔色が変わる。
興味があるというよりも、警戒や緊張という感じだ。
チッ、シェーンベルグは優秀だ。
知られたくなかったのに……9歳の儀式で、そんなことまでわかるとは。
「しかも、前世はこの世界ではなかった……なんと、チキュウ……?」
「……オーウェル説明せよ」
なにか間違いがあったら殺す、くらいの迫力でアマルガンがそう言う。
思わぬところでつまづいた。
アマルガンは、間違いなく僕を警戒している。
「じ、自分のことはあまりよく覚えていないのですが、世界のことはいくらか覚えております」
「ふむ」
警戒は解かないが、話は聞こう、そんな感じだ。
クソ、この憎い男に気圧されるなんて。
「異世界と比べて、こちらの世界はいかがですかな?」
シェーンベルクは興味津々という感じだ。
悪気はないんだろうけど、揉めそうだから前世のことは黙っているとか、そういう考えはなかったのか。
「この世界は、いささか文明が停滞しているかもしれません」
「ほう、どういうことだ?」
「魔術が便利すぎて、産業革命が起きていないかも知れません」
「産業革命とは何だ?」
「簡単な道具で職人が作っていた品物を、機械を使って大量に安価に作れるようになることです」
「ふむ? 機械か……ドワーフ達が好みそうな話だ」
アマルガンは、あまり興味がないようだ。
まぁ、その先に豊かな機械文明があるとは想像できないだろう。
世界中で衣食足りると、人はどうなるのか。
物質的な豊かさがもたらす、あらゆる事象を見せてやりたい。
「他には何かありますかな?」
「海に魔物が出没するので、大航海時代が来ていません」
「それは何だ? 大航海時代?」
「産業革命とも関係があるのですが、この世界をくまなく踏破し、未踏の戦力の乏しい地域を植民地とすることです」
「植民地か」
産業革命よりは興味がある、そんな感じだ。
こっちは想像しやすい。
「まだこの世界は踏破されておりません」
「海から船を使って未踏の地を探すか……こちらの方が夢があるな」
「しかし、海に魔物が出る以上、それは無理ですな、海の民、海王族でさえも無理でしょう」
シェーンベルクは、残念そうに頷く。
海王族とは、マーマンのような種族で、海を使った貿易で活躍している種族だ。
種族格差でいえば、おそらく一番金持ちなのは海王族だといわれるくらい、海運は儲かっている。
海で魔物が現れても、エラ呼吸できるために、水の中で戦えるのが大きい。
「興味深い話が聞けました、オーウェル様の9歳の儀式は以上となります」
「ふむ……オーウェルの領地を言い渡す」
警戒されるようなことがバレてしまった。
あまりいい領地ではないかも知れない。
「オーウェルの領地は……火龍の狩り場だ」
「!!!」
「はっ、ふはははははっ、火龍の狩り場だって? あんなところに住んでいる民はひとりもいないぞ?」
キニスンが噴き出して笑っている。
セルジュは難しい顔をして、アマルガンは……いつも通りの無表情だった。
「アマルガン様、それはあまりにも酷というものでは?」
宮廷魔術師のシェーンベルグが取りなそうとしてくれる。
クソ、火龍の狩り場? 火龍の狩り場だって?
「父上、火龍の狩り場を与えられても何もできません、オーウェルの成長のためにも、せめて街のある領地を与えて頂けませんか?」
セルジュの意見はもっともだ。
僕は、少し期待してアマルガンを見る。
「ならん、オーウェルの領地は火龍の狩り場だ。以上で儀式は終了する」
アマルガンは儀式の間を出て、どこかに行ってしまった。
僕は、茫然自失のまま部屋に戻る。
くそっ、くそっ、火龍の狩り場だって!? 火龍が居るから、ろくに調査もされていない僻地じゃないか!
何度か討伐隊が送られたけど、その全てが失敗に終わっている。
それはそうだ、騎士団が束になっても、ドラゴンは倒せない。
無駄に広いことだけが特徴の、どうしようもない領地だった。
くそっ、僕が恨んでいることを察したか?
「…………」
少し冷静になる。
僕は、いつだって冷静になれた。
…………。
勘のいい奴め……。
いいさ、それなら火龍の狩り場を立派な領地にしてやる。
そして、そこからお前を倒すための軍を起こしてやる。
みてろよ、アマルガン!
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