第十九話 夜にざわめくもの
400人の面談をして、食事を取っているうちに辺りが暗くなってきた。
夕方の時間を過ぎて、夜と言って差し支えのない時間になる。
「では、みなさん出発します。火龍は夜寝ていますから落ち着いて行動してください」
僕は馬に乗ってゆっくりと歩いて行く。
セーブをしておこう。
「川沿いを歩いて行くと湖に出ますが、そこが目的地です」
夜は襲われないというのも、こちらの勝手な憶測だ。
火龍の寝付きが悪くて、まだ起きていることだってあるだろう。
それに400人からの大行列ともなれば、火龍が見逃してくれるはずがない。
海岸線には、火龍のセンサーがあるかも知れないので、少し距離を取りながら川に向かった。
今日は満月で明るい。
月明かりだけで進んでいける。
なるべく目立たないように、松明などは使わないでおいた。
騎士団と兵士で周りを囲み、何が現れても問題ないように歩く。
肉食獣は確認されていないけど、夜行性のものがいるかもしれない。
あるいはモンスターだって注意しないといけないはずだ。
「川まで着きました、足を滑らせないように気をつけてください」
川に落ちるなんてことはないだろうけど、一応注意喚起だ。
90度進行方向を変えて、湖に進んでいく。
すると、皆がざわつき始めた。
どこかから女性の歌声が聞こえてくるのだ。
「なんだこの声は」
ひとりじゃない、複数の声が重なっている。
僕らの他に複数の人が居るのか? そんな馬鹿なことはあり得ない。
情報として、火山の冒険者と湖の冒険者、子供がふたり、これが全てのはずだ。
精霊族が、こんな夜に出かけているとも思えない。
「人外かと思われます」
クラリスが剣を抜いて警戒する。
人外……モンスターの類か。
それなら……。
「冒険者の方、なにか知っていませんか?」
「わかるか?」
「多分だが……」
冒険者の一団が、何か話し合っている。
「おそらくバンシーに近いモンスターだと思う」
バンシー。
聞いたことのあるモンスターだ。
「どんなモンスターですか?」
「死の予見をするモンスターで、無害だが、歌声に惹かれると死ぬ」
それは穏やかじゃない。
無害と言うけれども、ちっとも無害じゃない。
「倒すことはできますか?」
「倒しても、死の予見は避けられない、この後に何かあるから気をつけた方がいい」
死者が出るということなのか。
何が起こる?
やはり火龍なのか?
「か、川の中に何か居る!」
誰かが大きな声を出して川を指さしている。
その川では、何か大きな大きな影が湖に向かって遡上していくのが見えた。
その場が緊張に包まれる。
不気味な何かを、皆が感じ取っていた。
でも、僕は姿が見えるのでタップできる。
急いでその大きな影をタップした。
「ダイオウクジラ? クジラみたいです」
「クジラ? クジラか……」
「ダイオウクジラは大人しい魚です、こちらから危害を加えなければ大丈夫です」
「こんなにデカイのか!?」
確かに、圧倒的な大きさだった。
結構大きな川だけど、幅をたっぷりと使っている。
ダイオウクジラ自体が珍しいけど、川を上るなんて聞いたことがない。
多分、湖は広くて深いんだろう。
「皆さん落ち着いてください、危険はないようです」
大きな影が、ゆったりと僕らを追い抜いて湖へ行く。
火龍の狩り場という人を寄せ付けない場所にいるのだと、改めて思い知らされた。
「なんだアレは!」
今度はなんだ。
指さす方を見てみると、青白い光が闇夜に漂っているのが見えた。
精霊族の使うものとは、ちょっと違うようだ。
「アレはウィスプです、近くに寄らなければ害はありません」
冒険者が即座に答えてくれる。
やっぱりモンスターには詳しい。
「あんなの見たこと無いぞ!」
「あまり人里には居ないんだ、でも山奥の池とかにたまにいる」
「精霊に見えますが、ウィスプは人の魂ですぞ」
学者が余計なことを言う。
知識を伝えないと己の存在価値が薄れてしまうから、仕方が無いのかも知れないけど、みんな怖がるじゃないか。
「人の手が入っていない土地なので、ああいう物の怪の類が横行しているのでしょう」
「とんでもねえ、呪い殺されるなら戦場で死んだ方がマシだぜ」
「大丈夫だ、ウィスプは呪ったりしない」
拘留される予定の囚人達がざわめくが、冒険者がなだめていた。
そのまま二時間ほど川を歩いて行く。
時折、歌声やウィスプが見えるが、それ以上のことは起こらなかった。
「ギャー!」
すると、後ろから悲鳴が聞こえてきた。
「今度は何だ!」
後ろを見ると、複数のドクロが宙を舞っているのが見えた。
それは、顎をカタカタと鳴らしながら人を襲っている。
「後衛は何をやっている!」
騎士団のオニールさんが叫ぶけど、後ろの兵士達は戦っているようだ。
「剣が効かない! すり抜けちまう!」
「あれは精霊じゃな、剣や弓は効かん」
学者は、まるで他人事のようにそう言っていた。
次は自分が襲われるかも知れないのに!
「キャー!」
ドクロの数が多い、暗くて、もうどれだけ被害が出ているのかわからない。
「有効な手立ては?」
冒険者に聞く。
「ドクロの精霊というのは初めて聞きましたが、おそらく闇の精霊の一種でしょう、松明を灯していれば近づいてきません」
火龍に見つからないように明かりを灯さなかったのが裏目に出たか。
「オーウェル様!」
「少し離れよう!」
僕とクラリスが、馬で前進する。
逃げたと思われたか、みなが唖然とした顔をしている。
でも、ロードに巻き込むわけにはいかない。
「ロード」
岩場に戻った。
僕は馬に乗って、これから出かけるところだ。
「クリエイト」
僕は、十分な数の松明を出した。
みんなにそれを掲げてもらう。
「松明を灯して進みます。火龍には、見つからないことを祈りましょう」
「今日は月明かりがあります、明かりは点けない方がよろしいのでは?」
副団長のオニールさんが、そう進言してくれる。
僕も初めはそう思ったんだけど、襲われることがわかったから仕方が無い。
「火龍の狩り場の夜には、闇の精霊がいることがあります、明かりを灯していれば彼らは近づいてこないはずです」
「そうなのか?」
オニールさんが冒険者に聞く。
「闇の精霊なら、明かりを灯していれば近づいてこないぞ」
「わかりました、みな、松明を持ってくれ」
そして、クラリスが僕にそっとささやく。
「火龍に襲われたら、また考えましょう」
しかし、夜に火龍が襲ってくることはなく、無事に湖にたどり着くことができた。
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