第十二話 湖の冒険者
「仕方が無い、帰るか」
「そうですね、我々も危険です」
帰りに湖に寄ると、馬を下りて辺りを見回した。
「それにしても、湖の周りに動物が多いな」
「水飲み場だからではありませんか?」
「それにしても多くないか?」
様々な動物が湖の周りに来ている。
鳥なんかは、魚を捕ったりするんだろう。
でも、他の動物は水を飲むでもなくたむろしている。
「そうですね……」
そこに、人がひとり現れる。
すると、動物たちがわっと四方八方に逃げて行った。
冒険者か? ダンジョンが見つかっている?
領主として話をしておかないと。
「もしもし、ここで何をしているのですか?」
「何をしている? それはこっちのセリフだ」
冒険者風の出で立ちだけど、ここの人は少し歳の行ったおじさんだ。
昨日の人の仲間かな?
「わたしは、オーウェルと申します、この国の王族で、火龍の狩り場を領地として賜りました」
「領地? 正気か?」
呆れた顔でおじさんが手を広げるジェスチャーをする。
「正気です。領地を貰ったので開拓している最中です」
「わかっているのか? ここは火龍の狩り場だぞ?」
痛いほどわかっている。
開拓するなんて、ちょっと無理があるということも。
「とりあえず、森には火龍が来ないようなので、そこで生活しています」
「人間はアホなのか?」
変な言い方をする。
まるで、自分が人間じゃないみたいな。
「外界から隔絶されたこんなところで発展できるわけ無かろう」
「でも、やるしかないのです」
心底呆れた表情で肩をすくめる。
ちょっと愛嬌のあるおじさんだった。
「まぁ、好きにしろ」
「あなたはここで何をしているのですか?」
「何をしている? ふむ、哲学的だな」
「いえ、もっと平たい意味で」
物理的な意味合いでお願いしたい。
でも、冒険者のおじさんはちょっと僕たちに興味を持ったようだ。
「ここで生きている、と言ったところかな」
いや、平たくない。
難しいことを考えている気がする。
「昨日、火山で冒険者と会いましたが仲間ですか?」
クラリスがおじさんに尋ねると、憤慨したように怒り出した。
「あいつと仲間!? 冗談も休み休み言え!」
「す、すみません」
「あいつとは関わるな、それが身のためだぞ!」
どうやら仲が悪いみたいだ。
「ここには火龍は来ない、住むなら湖の周りに住むといい」
「そ、そうなんですか!?」
「人が住めば、ダンジョンも活気づくからな」
やっぱり、ダンジョンのことは知っているのか。
「このダンジョンは、もう登録はされましたか?」
「登録? なんのだ?」
「冒険者ギルドです」
「いや、そんな手続きがあるのか、知らなかったな」
いかにも冒険者風の出で立ちをしているけれども、冒険者じゃないのかな。
探検家とか?
いや、この世界に探検家なんているのかな。
「では、僕たちがダンジョンを登録しても良いですか?」
「いいぞ、人を呼べるなら呼んでくれ、ただ命の保証はできないがな」
不敵に笑う。
なんかおかしいな。
微妙に話が噛み合ってない感じが……。
「ここで何をしているんですか?」
「生きていると言っただろう」
「それじゃわからないですよ……」
「わからなくていい、哲学とはそういうものだ」
僕に哲学はわからない。
でも、火龍の狩り場にも割と人はいるものなんだと知った。
「ああ、それと……子供を見かけたら優しくしてやってくれ」
「子供、ですか?」
こんなところに子供?
いや、僕も子供だけど……。
「ふたりいると思うが、身の危険の心配はしなくて良い」
「身の危険? 子供がですか?」
フフフッとおじさんが笑う。
「ではな」
おじさん冒険者さんは、湖沿いに歩いて行ってしまった。
どうやら、火龍は湖には来ないようだ。
「クラリスはどう思う?」
「ダンジョンが原因でしょうか?」
「ダンジョンにボスが居て、お互い牽制し合っているとか?」
うーん、ありそうな無さそうな……。
「さっきの方は、ただの冒険者ではありませんね、昨日の冒険者よりも、二回りは強いです」
「じゃあクラリスも勝てないってこと?」
「無理ですね、全く相手になら無いと思われます」
それがわかるだけでも凄いと思うけど……。
「まぁ、なんにせよ湖の近くは安全だという話を検証しよう」
「そうですね、話を鵜呑みにすることはできません」
でも、どうしようか。
危険だということを証明するのは簡単だけど、危険はないということを証明するのは難しい。
「湖の周りで、家畜を飼ってみますか?」
「家畜?」
「精霊族に家畜を飼った経験のある者がいるなら、飼ってもらいましょう。そして、湖に火龍が来るか観察してもらうのです」
「なるほど、ミルクや卵も必要だからな」
ずっと湖にいれば、火龍が全然来ないとかわかるだろう。
運ぶ手間がかかるけど、家畜を飼うのもいずれは必要だ。
僕たちは、次にやることを定めて森に帰った。
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