第十話 一万人の精霊族
【入植二日目】
朝、少し寝坊して起きると、クラリスが食事を作って待っていた。
「みなさんに食糧を配布しました、残りは心許ないです」
「そうだよね、狩りと畑をやらないと」
僕は、ありがたく食事を採る。
それは、結構美味しかった。
「クラリスは、料理も上手なんだね」
「料理は、小さな頃に母に叩き込まれました。何があっても、美味しい物を食べれば元気が出るものだと」
「立派なお母さんだね」
「恐縮です」
クラリスを褒めてもあまり喜ばないんだけど、母親を褒めると、少し嬉しそうにしていた。
朝食を採って外に出ると、ラウススが皆と話をしている。
「どうしましたか?」
「森の中を散策しましたが、一時間ほどでこれですじゃ」
そこには、鳥やうさぎ、猪などの獲物があった。
精霊族は、狩りが上手らしい。
「豊かな森ですじゃ、これに畑があれば十分に食べていけますじゃ」
「良かった、そうだよね」
とりあえず、食べ物の心配をしなくて良いのはありがたい。
「領民になる件は、一晩経っても変わらない?」
「変わりませんですじゃ、皆とも話し合いましたが、これ以上流浪の旅はできませんですじゃ」
やはり、相当に追い込まれていたんだろう。
火龍の狩り場に来るくらいだから、それは察することができる。
「言い難いんだけど、この森が安全かどうかは、まだわからないんだ」
「昨日すでに一度死んだ身ですじゃ、我らのできることはなんでもやりますじゃ」
何日か様子を見ることになるだろう。
ここが襲われたなら、隣国との境ギリギリくらいまで引っ込む必要があるかも知れない。
精霊族としてはそれで問題ないだろうけど。
「そこで、領主様に相談なのですじゃ」
「なんでしょうか?」
言い難そうにしているのでお願いなんだろう。
できるだけのことは対応させてもらいたい。
「世界に散らばっている精霊族を、この地に呼んでもええでしょうか?」
「えええっ……」
それは突飛な相談だった。
領民が増えるのはありがたいけど、そんな安住の地みたいに思われても困る。
火龍の気まぐれひとつで、壊滅してしまう危険があるんだ。
「ここには火龍がいます、なので誰も居着かないんです」
「しかし、領主様にはお力がある」
「まぁ、そうなんですが……」
僕が、時間を戻せることを精霊族は知っている。
ならば、なんとかなるという算段だろうか?
でもそれも、僕が悪徳領主だったら成立しない話だ。
「どうしてそれ程、この地を、僕を信頼しているんですか?」
「精霊族には、ぼんやりと未来を見通せる力がありますじゃ」
「未来を見通せる力?」
昨日全滅したのに?
「その力が、火龍の狩り場に行けと言っておりますじゃ」
僕を信頼しているのは、その力のせいか。
こっちには、ありがたい話ではあるんだけど……。
「世界中に、精霊族はどれくらいいるんですか?」
「正確にはわかりませんが、一万人はいると思っておりますじゃ」
「い、一万人!?」
小さな地方都市ひとつ分くらいだ。
火龍の狩り場は広いけど、森にそれだけ住むことができるだろうか。
おそらく精霊族は我慢強い。
ずっと辺鄙なところに隠れ住んできたのだから、贅沢は知らないだろう。
火龍の狩り場に住むには、打って付けだとは思うけど……。
「皆、百人ほどで隠れ住んでおりますだで、見つけるのも困難ですが、何年、何十年とかけても、仲間を捜したいのですじゃ」
「もちろん、構わないけど……」
僕に不都合はない。
でも、本当に良いの? とは思う。
「ありがとうございますじゃ、若い者を外にやりますじゃ」
そこでクラリスが助言をくれる。
「昼間だと、火龍に見つかる恐れがあります、夜になったら移動して下さい」
「わかりましたじゃ」
「昨日、昼間に馬で移動しましたが、偶然なのか襲われませんでした。どうしても、昼間動くときは少数で」
「わかりましたじゃ、領主様の言うことをちゃんと聞くのじゃぞ?」
「はっ」
精霊族の方々が、一様に頭を下げる。
領民。
僕の初めての領民かぁ……。
感慨深いものがある。
精霊族は優秀だ。
いざアマルガンと戦うとなったときに、色々役に立つだろう。
僕としては厚遇したい。
「領主様、畑を耕したいのですが、種がありません、お持ちではありませんか?」
「大丈夫、昨日、家を造った要領で作れるよ」
僕は、何種類かの種を出す。
「おおっ……」
みんな凄く感心している。
自分が調子に乗ってしまわないように、気をつけないと。
「この地に合った植物なら育つでしょう、そこは試行錯誤ですね」
「これで畑が作れます、ありがとうございます」
「もしも、一万人住むとしたら食糧が不足することは明白です」
「はい、立派な畑を耕したいと思います」
「一万人といえども、少しずつ増えていくと思いますじゃ、我らも食糧のことを考えますじゃ」
「はい、ここは行商人も来られないので、自給自足が求められます」
「そういう場所でなければ、我らは生きていけませぬじゃ」
僕は、要望された種以外にも、色々とクリエイトして精霊族に渡す。
一応、完成品というか、出来上がった畑も作ってみせた。
「凄いです、領主様、実った畑を作れるなんて」
「当面は、実った畑を作りますが、自分たちで作った作物がないと、将来的には生きていけません」
「はい、なるべく収穫の早いカブやほうれん草を育てます」
「カブやほうれん草は、どれくらいで収穫できますか?」
「種から収穫まで、一月から一月半というところです」
そんなに早いのか。
畑の方は大丈夫そうだな。
初めての領民にウキウキしながら、僕はこれからのことを考えていった。
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