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8.服選びという名の着せ替え人形

服飾系の店に入ると、様々な系統の服が並んでいた。

他国との交流が盛んなので、文化が入り混じっているのかもしれない。


「動きやすさが大切だが……ヘリオスの魅力を引き出すならば……」


かなり真剣な顔で服を眺めるシュゼルを見て、周囲の女性客や店員が色めき立つ。

あれほど見目のいい妙齢の男性が真剣な表情をしていれば、うっとりもしてしまうだろう。


ただ、考えていることはヘリオス一色である。


「あの……なにかお探しでしょうか」


一人の店員が、緊張気味に声を掛ける。

すると、シュゼルは優しく微笑みながら問いかけた。


「ありがとうございます。それでは、このジャケットの他のデザインなどありましたら見せていただきたいのですが」

「も、もちろんですっ」


店員は顔を真っ赤にして深々と礼をすると、すぐに店の奥に取りに行った。

その様子に、ウィスカが呟く。


「……天然タラシだな」

「え、天然……なんて?」

「いや、わざとじゃねーのが逆にタチ悪ぃって話だ」


あの優しい笑みは、多分よそ行きの顔だ。

ウィスカはシュゼルの詳しい出自は知らないが、貴族であったことは容易く想像がつく。

人間社会で渡り歩くために身に着けた表情なのだろう。


だが、問題はその破壊力を、本人が無自覚であることだった。


シュゼルは差し障りない笑顔で相手に不快を与えないように、と考えているだけだが、あの美貌でそんな事をされれば女性が正気でいられるはずがない。

身だしなみは気にかけるものの、自分の容姿そのものには無関心なので、その影響力を理解できないのだろう。

わかっていたが、直に見ると、驚くというより呆れてしまった。


実際、当のシュゼルは「この店の店員は親切なのだな」と、的外れのことを考えているくらいだ。



間もなく先程の店員が戻ってきて、シュゼルに持ってきた服を見せる。

それを見て納得したように、彼はヘリオスを呼んだ。


「やっぱりヘリオスに似合うのはこの色だな。襟のデザインは思った通りこちらの方が良い。いや、違うパターンも少し用意しておこう。下に着る服は肌触りも重視してーー」

「えっと、自分の服は選ばないのか?」


怒涛の勢いに押されつつ、ヘリオスは聞く。

すると、シュゼルはきょとんとした顔で言った。


「まずヘリオスの服を決めるのが優先だろう。私はそれに合わせて選ぶ」

「あ、うん、そうなんだ……」


これ以上突っ込んではいけない気がして、ヘリオスは受け入れることにした。

ウィスカが完全に呆れ顔で眺めていることは言うまでもない。


しばらく着せ替え人形にされたあと、ようやく服を決めることが出来た。

ヘリオスは動きやすく肌触りのいいシャツとズボン、軽いが頑丈な焦げ茶のブーツ。

それから特に真剣に選んでいた、濃い緑色のロングジャケットだった。

ジャケットの上から太めのベルトを締めて、スッキリした印象になっている。


「なんか、ちょっと大人になった気がする……かも?」

「ああ、よく似合っている」


気恥ずかしそうに言うヘリオスに、嬉しそうにシュゼルは言った。


対して、シュゼルは襟元にシンプルな飾りがついたシャツと若草色のジャケット。

それからジャケットより少し濃い色のズボンと、ヘリオスと似たデザインのブーツ。

膝くらいまでの長さのあるマントも合わせている。

襟元の飾りはなくても良かったのだが、ヘリオスの「似合いそうだな」と言う言葉で即決した。


それと似たデザインの服を着替えとして購入し、店員にお礼を言って店を出た。


「いい買い物が出来た……」


あまり見たことないレベルで満足そうな顔をしているシュゼルを見て、ヘリオスは素直に納得できるものが買えたようで良かった、と思う。

ただウィスカは、その真意に気づいていた。


(ヘリオスに色んな服着せて、楽しんでただけだろコイツ……)


村の中というのもあり、あえて口には出さなかったが。


とにかく、気になっていた着替えは無事に買えた。

他にも薬など必要となりそうなものを見終わったあと、他になにか気になるものはあるかとシュゼルが聞く。

ーーすると、ヘリオスが静かに立ち止まった。


「ヘリオス?」

「あのさ、シュゼル。……僕も、武器がほしい」


簡易的なナイフではなく、ちゃんとした武器が。


まっすぐに見つめてくる瞳に、シュゼルは言葉に詰まる。

ヘリオスはそれでも続けた。


「すぐ強くなれないのはわかってる。でも、僕だって守られるだけは嫌だ。この間みたいなことが起きた時、今度は一緒に戦いたいんだ」


真剣で、迷いのない瞳だった。

その目の奥に宿った光に、ふと胸が騒ぐ。

もう戻らないーー戻らせたくないはずの"アリウス"の面影が、今にもその瞳に重なりそうでーー。

シュゼルはそっと目を伏せ、それを振り払った。



危険なことなどさせたくない。

自分が命をかけてでも守り通せばいい。



ーーずっと、そう思っていた。



だがヘリオスが、”幼馴染”だけが傷つく姿を見て、何も感じないはずがなかった。


先日の森での襲撃は、正直危なかったと思う。

シオンが来なかったら、最悪ウィスカにヘリオスを連れ出してもらうしかなかったかもしれない。

このままでは駄目だ、もっと強くならねばーーと心に決めはしたが、ヘリオスも戦いたがってるということに、思考が結びついていなかったことに気づく。


「そうだな……ヘリオスは俊敏に動けるし、短剣の方が向いていると思う。武器屋に寄ってみよう」

「! ありがとう、シュゼル」


ヘリオスは幼い頃、護身用の剣術を習っていたことがあるし、身体が覚えているかもしれない。

だったら短剣の習得もきっと早いだろう。


できる限り、ヘリオスの希望を叶えたい。

それによって何か弊害が起きるならば、その時は自分が薙ぎ払えばいい。


そのように納得して、シュゼルは武器屋に足を向けた。






ーーーーーーーーーーーーーーーー






質の良い短剣が手に入り、空を見上げると、まだ日が落ちるまで時間がありそうだった。

思ったよりも早く買い物が済んだようである。


「少し早いが、船に戻ろうか?」

「うーん。でも多分、船長たちまだ村にいるよね?様子見ていこう」


その言葉に、シュゼルは一瞬ためらう。

確かシオンたちが情報収集に向かったのは、この村の酒場のような場所だったはず。

まだ日が落ちる前とはいえ、ガラの悪い人間も集まりやすい。

あまりヘリオスを近づけたくはないが……


(興味があるのだろうな……)


シオンたちがどんな場所に行っているのか、気になるのだろう。

ヘリオスの希望を叶えようと決めた手前、頭ごなしに否定するのも気が引けた。


「少しだけなら、いいだろう」

「よし、じゃあ行こう」


嬉しそうに前を歩くヘリオスを、苦笑混じりに見ながらシュゼルも続く。





ーーこの判断を後悔するまで、あまり時間はかからなかった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






村の外れにある、シオン達がいるであろう酒場に入ると……なぜか、シオンが知らない青年と睨み合っていた。

漆黒の髪をやや無造作に短く切り、黒いローブとマントを身に着けている。

目つきは鋭く、子供が見たら泣いてしまいような雰囲気だった。


「え、これ、どういう状況……?」


理解が出来ず困っていると、近くにカルロが座っていた。

ベルナルドは壁際に立っており、その容姿に惹かれて話しかけてくる人たちの相手をしつつも、視界にはシオンを捉えている。


ヘリオスはカルロに近づくと、そっと話しかけた。


「カルロ……あの人が、船長の言ってた”話を聞きたい人”?」


談話室でシオンが呟いていた言葉を思い出し、カルロに問いかける。

そこでヘリオスたちに気づいたカルロは、視線をシオンから彼に移し答えた。


「いや、その人との話はもう終わってる。ただ、俺たちの会話を聞いてたあの男の呟きが、船長の地雷を踏み抜いたみたいでさ……」


そう言ってカルロは苦笑した。

止めなくていいの?と聞くと、軽く首を振られる。


「俺達は、基本的に船長が買った喧嘩には手出ししないんだ。もちろんヒートアップしすぎたり、船長が怪我をする可能性があったら止めるけどな。……中途半端に止めると、船長のストレスが貯まるだけだし」

「そうなんだ……」


実際シオンは強いので、早々に手助けする必要もないのだろう。

それにシオンはどんな喧嘩でも買うわけではなく、本当に気に障った時にしか相手にしないらしい。

だから、そういう時は、気が済むまでやらせておくというのだ。


少し離れた席から傍観しているのも、それが理由なのだと理解した。


だがそんなやり取りの中、シュゼルは呆然と、しかし僅かに眉をひそめながら呟く。


「なぜーーあいつがここに?」


微かな声だったが、偶然喧騒が落ち着いたタイミングで発してしまったため、黒髪の青年の耳に届いたらしい。





その声に反応したかのように、青年がシュゼルたちを振り返りーー目を見開いた。





親バカ(?)全開中

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