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43.君がお願いしてくれたら

夕暮れのヴィゼリア港を抜け、船に戻った二人と一匹は、まっすぐ談話室へ向かった。


他のメンバーたちはほとんど戻っていたようで、テーブルの上には今日得た報酬がずらりと並んでいる。


「あ、おかえり。どうだった?」

「ただいま。薬師さん、すごくいい人だった。状態も良いって、ちょっと上乗せしてくれたんだ」


ヘリオスがにこやかに言うと、シオンも満足そうに頷いた。


「それは良かった。こっちもまあまあよ」


シオンの言葉を聞き、ヘリオスたちも報酬袋を机に置くと、詳細を報告する。

袋の中を確認していたカルロが、小さく目を見開く。


「……結構入ってるな。薬草収集だけでこんなになるか?」


上乗せしてもらったとはいえ……と、不思議そうに問いかけた。

すると、ヘリオスが「ああ」と言って答える。


「ウィスカが森で魔物を倒して、それも素材として買い取ってもらったんだ」


ヘリオスが嬉しそうに伝えると、椅子の上で丸くなっていたウィスカがあくび混じりに振り返った。

つり上がった金色の瞳が、少しだけ自慢げに光った気がする。


今回の合計金額をまとめたところ、思った以上の成果が得られていた。

今後、しばらく生活費に困らないだけの金額が手に入ったのである。

小さな依頼を手分けしてこなした割には、上出来だった。


「……これだけあれば、当分は大丈夫そうね」


安堵の息をつきながら、シオンがふと周囲を見回す。


「……で。ベルはまだ戻ってないの?」


眉を少し潜めながら呟くと、次の瞬間、背後から声がした。


「呼んだ?」

「きゃぁ!?」


突然肩越しに覗き込まれて、シオンが驚く。

振り向けば、いつの間にかベルナルドが背後に立っていた。

相変わらずの神出鬼没だ。


「シオンのかわいい声、いただきました」

「う、うるさい!それより顔が近いのよ!」

「えー、今日もいい仕事したんだけどなぁ」


シオンが赤くなった顔を隠すように下を向きながら、両手で押し返す。 

その反応を嬉しそうに見た後、ベルナルドはにやりと笑いながら、ずっしりと重い袋を手渡した。


「君のために、稼いできたよ」


袋の重みに、シオンは一瞬言葉を失った。

そして、不審な目をベルナルドに向けながら、確認するように問いかける。


「……あんた、イカサマしてないでしょうね」


その言葉に、ベルナルドは悪びれず不敵に笑いながら答えた。


「やだなぁ。イカサマってのはね、“バレなきゃイカサマじゃない”んだよ」

「してんじゃねぇか……」


即座にノクスがぼそりと呟く。

直後、ベルナルドと視線がぶつかった。

一瞬だけ、空気がぴたりと止まる。


ベルナルドは軽く笑い、その挑発的な表情にノクスは顔を顰めた。


(……何が言いてぇんだ、こいつ)


以前から何を考えているかわからなかったが、最近は特に挑発的な気がする。

それが妙に気に触り、目を細めた。


しかし、ベルナルドの方からスッと視線をそらし、シオンの横に座ったところで、空気が戻る。

テーブルに並んだ報酬袋を前に、部屋の雰囲気がようやく落ち着きを取り戻したころ、シュゼルが口を開いた。


「そういえば……街で、騎士団長が投獄されたという噂が流れていたが、知っているか?」


シュゼルの一言に、ノクスが振り返る。


「ああ、それなら俺も聞いた。セディ・カランテだろ?王家直属の騎士団長だ。前に外交で一度会ったが、陛下が珍しく気に入ってやがったな」


その時、入口の方で「カタン」という、何かがぶつかったような音がした。

何の音だろうと気に掛けたノクスに、シオンは「廊下の飾りが落ちたのかもしれないわね」とだけ短く言った。

追求は許さないとでも言うような態度が気にかかったのか、ノクスは彼女を見る。

だが、シオンはそんな視線を気にせず、腕を組んで窓の外を眺めた。


騎士団長の、投獄。

シュゼルとノクスは彼と面識があるらしかったが、シオンにとっては顔すら知らない赤の他人だ。


けれど、わずかに眉が動く。

さっきの「物音」も、おそらくこの名前に反応していた。

何かあるのかもしれない、でも……


「王家の騎士とか、私達には関係ないわ。……面倒事には、関わるべきじゃない」


そう言いながらも、無意識に手に力がこもる。

その場にいた誰も気づかなかったが、彼女の胸には静かなざわつきがあった。


――どうでもいいはずなのに、引っかかる。


聞いたこともない名前なのに、何かが胸の奥で警鐘を鳴らすようだった。


(……やめておいた方がいい。私が関わっていい話じゃない)


噂を直接聞いたわけでもなければ、知りもしない相手。

そう思っても、理由のわからない焦燥が胸に芽生える。

虫の知らせ、というやつなのだろうか。


理屈では割り切れるのに、なぜか気になって仕方がない。


その様子を、ベルナルドは静かに眺めていた。


「……じゃあ、俺がちょっと調べてこようか」


軽い口調だった。

けれど、その言葉に視線が集まる。


「は?」


シオンが顔を向けると、ベルナルドは口元に笑みを浮かべた。

見透かすような瞳に、少し居心地が悪くなる。


「気になってるんでしょ?そんな顔してたよ」

「別に、頼んでないんだけど」


シオンが顔を顰めると、ベルナルドは今度はにこやかに、冗談めかして彼女の顎にそっと指を添えた。


「じゃあ、"お願い”してよ。俺の情報網で、しっかり調査してきてあげるから」

「……いちいち触らないで」


シオンはその指をそっと払いのけると、顔を背ける。

その横顔には、わずかに赤みが差していた。


ベルナルドは、そんな変化を見逃すはずもなく、ふっと目を細めた。

にやにやと楽しげに見つめてくる彼の視線を感じ、シオンは再びちらりとだけ睨むように振り返りーーそのまま瞳を伏せて、息を吐いた。


「……嗅ぎ回ってるの、バレないようにしてよ。私は懸賞金がかかった身だから、あまり国の中心に関わりたくないの」

「もちろん。抜かりなく」


そう言ってベルナルドは立ち上がると、早速行ってくると言って談話室を後にする。


出る直前、口角を上げながら「何か、面白くなりそうだな」と呟いたのは、誰の耳にも届いてはいなかった。


「……こういう時、行動早いわよね」


ぽつりと、気の抜けたような声で呟く。


気になるのは、胸の鼓動がやけにうるさいことだった。

……きっと、妙な胸騒ぎのせいだ。

そういうことにしておきたかった。


ベルナルドの軽口も、気安く触れてくる癖も、もう慣れているはずなのに。

最近はどうも、うまく受け流せなくなっている。


「今は出来ることもないし、とりあえずあいつが戻ってくるのを待ちましょう。どうせ、朝まで帰ってこないでしょうけど」


シオンの言葉を合図にするように、この場は解散となった。

それぞれが船室へと戻っていく中、ノクスは一人、足を止めたまま微かに眉を寄せた。


何となく、いや――何かが、胸の奥でざわついている。

理由はわからない。ただ、じっとしていられなかった。


ゆっくりと、甲板へと足を向ける。

その歩みに、自覚はない。


――気づかぬふりは、できなかった。



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