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39.”次”裏切るなら覚悟して

海岸には、確かに『ガーネット』があった。

渦潮に巻き込まれたとは思えない、無事な姿で。


ーーむしろ、前よりきれいになってる……?


そんな疑問が各々の頭をよぎったが、口にする者はいなかった。


船を見上げて、安堵の表情を浮かべるシオン。

ベルナルドは少し後ろからその姿を見つめていたが、ふとシオンが口を開いた。


「……ねぇ」


名前は呼ばなかった。

それでもその場にいた全員、シオンが声をかけた相手を理解していた。


「……ジークに会わせてくれたのは、あんたなの……?」


本当は聞かなくてもわかってた。けれど、口にしてしまった。

彼女の言葉に、各々の視線がベルナルドに向いた。

驚愕、不信感など、それぞれの視線に色んな感情が込められていたが、彼は「何のこと?」ととぼける。


その態度が肯定を表していることがわかったので、それ以上は触れないことにした。

ただ、念の為、確認しておきたかっただけ。


シオンは振り返ると、ベルナルドの前まで歩を進めた。

見上げた視線が、絡む。


「それで?何で戻ってきたのかしら。まさか……また、船員になりたいとでも?」

「船長!?何言って……」


腕を組み、ベルナルドを真っ直ぐに見つめるシオンの言葉に、カルロが先に反応した。

シオン自身、何でこんな事を聞いたのかわからない。


それでも、自然と言葉が出てしまった。


「なりたい、って言ったら、乗せてくれるの?」


いつもの軽い調子で問いかけるベルナルド。

シオンはしばらく彼を睨んだ後、ため息をついて、不機嫌な表情のまま言う。


「……次、裏切ったら。本気で、海に沈めるわよ」

「……………え?」


視線を外しながら、しかしはっきりと告げられた予想外の言葉に、思わず間の抜けた声が出てしまう。


次……と、いうことは。

これは、許してもらえたということだろうか。


シオンの態度に、他の船員も皆驚いていた。

「正気か?」とノクスが思わず小さく呟く。


周囲の反応を気にせず、シオンはベルナルドを再び見上げた。


「ちょっと、何か言いなさいよ」


怒気を含ませた声で言ったが、ベルナルドに反応はない。

だが、次の瞬間ーー彼は、急に笑い出した。


見たことない、笑顔で。


「……は?ちょっと、何笑ってるのよ!私は怒ってるんだけど!?」

「いや、ごめん。わかってるよ。でも……怒ってくれるんだ?」


何を言ってるのかわからないという顔で、シオンは顔を顰める。

すると、ようやく笑いが治まったベルナルドは、眉を軽く下げ小さく微笑むと、シオンの耳元に顔を近づけた。


「……感情のない瞳で見られるより、ずっと嬉しい」

「ーーーっ!!!」


吐息がかかるほどの距離で囁かれ、シオンの顔が一気に紅潮した。

しかし、彼女が動く前に、シオンの腕が後ろに引かれ、ベルナルドの背中に痛みが走る。


カルロがシオンを引き寄せ、ノクスがベルナルドの背中を蹴ったようだった。

意外な人物に蹴られたことに、ベルナルドが不思議そうに振り返る。


「こっちのデカイのはわかるけどさぁ……何で魔術師くんが怒ってんの?」


言われて、我に返ったようにノクスは固まる。

どうやら、無意識の行動だったらしい。


少し考えた後、ノクスは言った。


「……何となく、ムカついた」

「何となくで蹴られた俺」

「自業自得でしょ……」


まだ頬を赤くしたまま、シオンが睨む。

その顔を見て嬉しそうにするベルナルドに、もう一度蹴りを入れたくなったが、ノクスは自制した。






「あんな信用しかねる男が近くにいるのは、ヘリオスのためにならないが……。船長が認めてしまっていては、口を出せないな」


眉間に軽く手を当てながら、シュゼルは言う。

すると、ヘリオスはシオンたちのやり取りを見ながら呟いた。


「まあ……戻って来る気は、してたけど」


その言葉を聞いて、ウィスカがヘリオスを見上げる。


「何でだよ」

「だって、渦潮の話をしてたくらいからかな……態度がちょっと違ったし」


談話室での会話を思い出しながら、ヘリオスは言った。

いつもどおりのように見えて、笑ってなかったあの表情。

あの顔に、何かを企んでいると言うより、迷いのようなものを感じていたのだ。


「ヘリオスは人をよく見ているな。……だが、あの男は信用しない方がいいだろう」

「あいついると何かめんどくせー。どうでもいいけど」

「辛辣だなぁ……」


ぽつりと呟いたヘリオスの声に、ほんの一瞬、静けさが落ちた。


シュゼルは目を細め、再び海の方へ視線を向ける。

その横顔には、相変わらずの冷静さと、わずかな諦めが滲んでいた。


ノクスは、無言のまま手を組んでいた腕を一度組み直す。

先程の行動が、自分でも解せない。


(……何で、ムカついたんだっけ)


未だ答えの出ない違和感が、胸の奥でくすぶっていた。


ルナリアは相変わらず無言で、ただシオンの背中を見つめていた。

どんな感情を抱いているのかはわからない。

けれど、わざわざ口を出すことはしないーーそれが、この少女の変わらぬ姿勢。


レイジは、周囲の険しい空気に居心地悪そうに目を泳がせていた。

そして、何か言おうとしてやめた。

今は、下手に口を挟むタイミングじゃない。


カルロだけは、未だ明確にベルナルドを睨んでいる。

あの軽口も、笑顔も、信用する気はない。だが……


(船長がそう決めたなら、今は……)


そして。


ベルナルドは、そんな一人ひとりの視線を、真正面から受け止めていた。

相変わらず軽薄そうな笑みのまま、だけどーーその目は、前よりずっと真っ直ぐだった。



風が吹いた。

見慣れた船がそこにあって、少し騒がしい仲間がいて。


……また、ここから始まる。

今度こそ、全員で。



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