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37.最後に、言わせて

シオンがどこにいるのかは、知ってる。

あの家の二階で……少し前から、部屋の中でうずくまってる。


一緒にいた女の子も、あの子をずっと心配していた。

本当に慕ってくれてるんだな、と……そう思った。


いい仲間が、今のシオンにはいる。

だからもう……俺から、開放されていい頃だ。




ジークは部屋の前に立つと、一度深呼吸をした。

シオンと対面するのは三年ぶりだ。

どんな反応が返ってくるか、不安はある。

なんせ自分は今、霊体なのだから。


……だが、時間がない。意を決して扉を叩いた。

短い返事が聞こえてきたので、ジークは部屋に入る。


彼の姿を見て、ルナリアは咄嗟に警戒態勢をとった。

見ず知らずの男が入ってくれば当然だろう。


しかしシオンはぼんやりとジークを見た後、その顔を驚愕に染めて目を見開く。


「……ジー、ク……?」

「船長?」


彼の名を呼んだシオンを、ルナリアは振り返った。

呆然と、信じられないものを見るようなシオンの表情。

見たことない雰囲気の彼女に、ルナリアが戸惑う。


『……ごめん、すぐに終わるから。少しだけ、二人にしてくれないか』


ジークの言葉にルナリアは彼を睨んだ後、シオンを見た。

見つめ返すシオンの瞳が、「お願い」と言っているようで、ルナリアは躊躇いつつも退室する。

シオンの頼みなら、断れない。


二人だけになった空間で、シオンは震える声を絞り出した。


「……本当に、ジーク……なの?」

『ああ、そうだよ。……身体は、ないけどな』


苦笑しながら言うその表情に、シオンの目から涙が溢れ出す。

声も、姿も、雰囲気も。

見間違えるはずもない、ジークそのものだった。


『君も知ってる人の力で、今だけ姿を見せられるようになった。時間がない、聞いてくれ』

「時間がない……?」

『ここは危険なんだ』


ジークはなるべく手短に説明する。


ここは海底で、魔物の体内であること。

このままでは、魂が徐々に溶かされて死んでしまうこと。

自分は魔力が多かったから、魂だけは今まで残っていたこと。


それでも……もうすぐ、消えそうだと、自覚していること。


「消える……?そんな、せっかく会えたのに!嫌、私はあなたと一緒にいたいの!」

『落ち着いて、シオン』

「あなたじゃなきゃ嫌なの!結婚したかったのに……ずっと一緒って……」


目からボロボロと、止めどなく涙が溢れてくる。

こんなに泣いたのは、いつぶりだろうか。


ジークを、カルマーレ族を失ったあの日以来、本気で泣いたことなんかなかった。

星を見たあの夜、涙ぐむことはあったが、溢れてはこなかった。

ヘリオスと話したあの時も、目元が滲んだだけ。

ずっと、涙が枯れたみたいに、泣けなかった。

どれだけ辛くても、泣いたら立てなくなりそうで。


「だから私は……幻の秘宝を……」

『……駄目だ。あれは危険すぎる』

「………?」


言葉を遮るように強く言ったジークを、涙に濡れた瞳で見上げる。

ジークは辛そうに眉を寄せた後、軽く目を伏せて言った。


『……あの秘宝は、探すだけでも危険な目に遭う。もし辿り着いても、代償を払うことになる。君に、そんなことさせたくない』

「代償……?」

『他の人の、命だよ』


それを聞いて、シオンは言葉を失う。

信じられない、信じたくないと、その瞳が言っている。


ずっと生きる糧にしてきたものの正体を知って、混乱しているに違いなかった。

何も言えずにいるシオンに、ジークは続ける。


『ごめん、君に全部背負わせて。生きて幸せになってほしかったのに、俺のことで縛り付けて、危険な目に遭わせた』


ジークの後悔が滲む声に、シオンは俯いた。

呆然と、涙を流し続ける彼女の頬に、ジークは手を伸ばす。

ーー触れることは、出来ないけど。


『……もういいんだよ、シオン。君のそばには、大切にしてくれる仲間がいる。君は君の居場所を、ちゃんと自分で手に入れたんだ』

「でも私は……私はジークが……」

『……君は、気づいてないかもしれないけど……』


今でも自分を想ってくれていることは、嘘ではないだろう。

それはわかってる。

それでも、彼は気づいていた。


『君の中には……新しい想いが、もうあるはずだよ」

「………何、言ってるの……?」

『……今の自分の心に、ちゃんと向き合ってほしい。忘れなくていい。でも、過去に縛られないで』


本当は、忘れられても構わない。だがそう言ったところで、忘れられるものではない。

だから、あえてこの言い方をした。



ーー本当は、俺が一生守りたかった。


ーー心から愛してた。大切に想っていた。


ーーでも、それはもう叶わないから……



安心、したんだ。

君が、他の人に惹かれ始めていたことに。


感情を閉ざすほど、そうしないと耐えられないほど、心を寄せた相手がいたことに。

その相手も、君を想っていることに。


誰より愛した君が、誰より幸せになることが、一番の望みだから……


『もう行った方がいい。手遅れになる前に』

「でも……」

『俺はもうすぐ成仏できる。俺を縛るものは、もう切れているから』


ここで苦しみ続けるわけじゃない、だから行ってくれ。

シオンは俯き、何度も言葉を飲み込みながら、肩を震わせた。


しかし、顔を上げると、決心したように涙を拭って言う。


「……ちゃんと言ってなかった。私、子供の頃からあなたが……大好き、”だった”の」


拭ったそばから涙を溢れさせながら、ジークの目を見つめるシオン。

その言葉を聞いて、ジークは優しく微笑むと、触れられない手でシオンの頭を撫でる。


『ありがとう。俺も、君のことを本当にーー”愛していた”よ』


その言葉を最後に、ジークの身体が薄くなっていく。

音もなく、光に混じるように消えていくその姿を、シオンは黙って見つめていた。


ジークのいた空間に、そっと背を向けて。

そしてーー静かに、部屋を後にした。



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