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懐柔なんてされてない(後編)

どんどん絆されていくウィスカ。

何故かあの人間は、毎日おれのところに来た。

しかも薬草だけじゃなく、果物なんかも置いていく。


ワケわかんねー奴だな。

おれなんか気にかけてどうすんだよ。


言っとくけど、手懐けるつもりなら無駄だぞ。

誰にも媚びるつもりなんてない。


……そう言ったら、心底不思議そうに首を傾げやがった。


こいつ、マジで何しに来てんだ?


「怪我してたら、食べ物探しづらいんじゃないかなって」


……馬鹿だな。

本気(マジ)で?ただ助けるために来てたのかよ。

おれが何者か、絶対わかってないだろ。


しかも。


「友達が困ってたら、助けるのは当然だって言ってたよ」

「……誰が友達だ、誰が」


おれを友達とか言いやがる。

人間と魔獣が友達になれるわけねーだろ。

やっぱりただの馬鹿だ。


でも……


何でおれは、まだここにいるんだ?

もう怪我は治ってて、いつでも動ける。

というか、動いてる。


でもこいつが来る時間だけ、気がつけばこの場所に戻ってきてた。

……おれは、何してんだよ。


「君はさ、この森に住んでるの?」

「……違う。たまたま来ただけだ」

「じゃあ、僕たちの家に来ない?」


……来ない?何を言ってやがる。

魔獣に“家”って、お前、正気か。


「断る」

「そっか」


引き下がるのかよ。


「……他の人間もいるんだろ。おれを受け入れるとは思えねー」

「大丈夫、お願いするから」


何言ってんだこいつは。

その人間が、おれを受け入れると思ってんのか。

普通の人間だったら、絶対に無理だぞ。


……こいつと暮らしてるなら、普通じゃないかもしれねーけど。


「じゃあ、一回会ってみようよ。すごく優しいから」


話を聞く必要なんてない。

ついていく必要はもっとない。


それなのに、何で。

おれは、断れないんだ?






ーーーーーーーーーーーーーーーー






仕方なく、おれはこの人間についてきた。

その友達?とやらに断られれば、流石に諦めんだろ。


それにしても、この森に住んでるって聞いた時は驚いた。

同じ景色の続く、磁場さえ狂ったこの森で普通に暮らせるって、どういうことなのか。


家に向かって迷いなく歩く人間に聞けば、変な返事が返ってくる。


「え、来た道を戻るだけだよ」


だから、その「来た道」を普通は覚えらんねーんだよ。

道らしい道もねーのに、一体何を見て言ってんだ。


そしたら、更にとんでもない答えを返す。


「同じ景色?いや、木ってさ――模様も枝の生え方も、一本一本違うだろ?」

「は?……お前、この木を全部見分けてんのか?」

「???」


おれが唖然とすると、何を驚かれているのかわからない様子で人間は首を傾げた。

いや、おかしいだろ。

模様とか生え方とか、覚えられるわけがない。


でもこいつはそれを当たり前のように言う。

そして本当に小屋に辿り着いた時、マジで迷ってなかったことがわかった。


おれの所に毎日来られていた時点で、迷ってないのは確かだったけど。

信じられなかったんだ、正直。


「あ、シュゼル!連れてきたよー」


人間は、例の同居人の所に走っていく。

おれを連れてくることを伝えてたんだろう。


そして、シュゼルとやらはおれを見て、一気に警戒の色を示した。

ああ、これが普通の反応だ。


「森で友だちになった、えっと……名前、なんだっけ?」


今更かよ。

おれもお前の名前、聞いてねーけどな。


そもそも魔獣に名前はない。

そう言ったら、じゃあ考えるとか言い出しやがった。

名付け親になる気か……


で、シュゼルはと言うと、おれを警戒したまま人間の方を見た。


「……ヘリオス。これがどういう生き物か、わかっているのか?」


ヘリオスっていうのか、この人間。


「猫みたいな喋る魔物?」

「ああ、そうだな。見たままだ……いや、しかし……」


何か悩んでんな。

すぐに腰の剣で斬り掛かってくるかと思ったが、攻撃してくる様子はない。

どう見てもおれの種族のこと、知ってそうだが……


「……友達、なんだな?」

「うん」


何を確認してんだよ。


「……何かあったら、すぐに追い出すぞ」


何で認めてんだよ。

そしてヘリオス、お前もマジで喜ぶな。

おれが呆然としていると、シュゼルがヘリオスに何か頼んでいた。

ヘリオスが頷いて小屋の中に入っていくのを見て、シュゼルはおれに向き直る。

ああ、人払いか。


「……なぜフェザーキャットがここにいる」

「やっぱり、おれのこと知ってんだな」


ヘリオスが一緒にいた時の様子とは、まるで別人。

冷たく鋭い目でこっちを睨んでくる。


結構色んな人間を見てきたが、無駄に整いまくった顔立ちだからか迫力がある。

おれはビビらねーけど。


「たまたま森に入った時に会っただけだ。あと、つきまとってきたのはあいつだから」

「……だろうな」


ため息混じりにシュゼルは言う。

どうやら、おれの怪我のこととか色々聞いたらしい。


放っておけない性格だから……もっと早く止めてれば……とか、ぶつぶつ言ってる。


「……おれのこと追い出すために、ヘリオスを外させたんじゃねーの?」


今なら、おれが気まぐれに消えたことにでもして、事を終わらせられるだろ。

何なら、斬り掛かられるのも覚悟してる。

斬られたくねーから、そしたら逃げるけど。


だが、シュゼルはそうしなかった。


「ヘリオスが、君を"友達”と言った。そんな事をしては、彼が傷つくだろう」

「……そんな理由でおれを認める気か?お前なら知ってんだろ、傾国の魔獣の話」


口にも出したくない史実だが、確認のために聞く。

シュゼルは顔色を変えないまま、おれに問い返した。


「それは君がしたことか?」

「んなワケねーだろ」

「では、する予定はあるのか」

「興味ねーな」


だったら問題ない、とシュゼルは言う。


「本能のままに暴れる魔物ならともかく、君たちは思考する。言葉も理解する。……それを無視して、種族だけで裁くのは不誠実だろう」


……マジか。

そんな事言う人間、初めて見たぞ。


おれが驚いていると、シュゼルは続けた。


「ただし、ヘリオスに少しでも危害が加わる可能性が出ればーー容赦はしないと覚えておくことだ」


ああ、なるほど。

こいつの行動原理は、全てヘリオスなんだな。


ヘリオスに危害を加えるなら、悪。

それ以外は、どうでもいい。


そんな感じか。

ある意味すげーわかりやすい。


「おーい!」


すると、小屋の中からヘリオスが出てきた。

なんかすごく楽しそうな顔をしている。

……何でだろう、嫌な予感がした。


「名前!ウィスカってどうだろ」

「………何でヒゲ」


確か、動物のヒゲっていう意味だろ。

何だその名前。


「いや、ヒゲが立派で可愛いし」

「ワケわかんねーよ」

「素晴らしいネーミングセンスだな。もう決定でいいんじゃないか?」


シュゼルもノってんじゃねーよ。

ヘリオスをただ褒めたいのか?おれの変な名前を認めて面白がってんのか?


……それなのに。

まあいいか、って思ってるおれは、いつからこんな馬鹿になったんだ。


「じゃあ、これからよろしく、ウィスカ」

「……気が変わるまではな」


まあ、おれはこいつらより長く生きてきてるし、この先もきっと長い。

生きてく時間のほんの一瞬、この変な奴らに関わるのも、悪くないと思っちまった。



これが、“戻れなくなる最初の一歩”だったと気づくのは――

もう少し、あとになってからの話だ。



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