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【番外編】懐柔なんてされてない(前編)

ウィスカ視点の短編です。

“最初に出会った”あの日のこと。

魔物と魔獣は、本質が違う。


まず、魔物は魔力を持った動物と考える方がわかりやすい。

知能はあまり高くなく、気性が荒い種も多い。

冒険者に討伐されることが多いのも魔物だ。

何せ数が多く、町や村に被害が出ることもあるから、討伐対象になるのだろう。


そして魔獣は、魔力が特に強い魔物と一般には言われている。

完全に間違いではないが、体の構造からして実は全然違う。

魔物は他の動物と同じように生殖によって繁殖するが、魔獣には性別がなく、繁殖はしない。


その代わりに、体内に「魔核」を持っている。


この魔核は身体が滅びても残り、空気中の魔力を取り込んで新しい個体として生まれ変わる。

魔核さえ壊せば絶滅させられる、なんて考える奴もいるが――そう上手くいくかっての。


魔核は魔力を取り込む力が強い。


下手に触れれば、魔力を吸い取られあっという間に絶命する。


回収する方法を見つけた奴がいるとかいないとか、噂で聞いたこともあるが、正直どうでもいい。


ついでに魔獣は、魔物と違って知能が高い。

喋れるかどうかは個体にもよるが、少なくとも人語を理解はしている。

気性が荒くない場合だって多い。多いのだが……





「おい、どっちにいった!?」

「くそ、放っておいたらやばいことになるぞ……」


声がする方を、茂みから覗く。

おれの姿を見た途端、斬りかかってきた冒険者。


「傾国の魔獣」を生かしておけないとか、そんな事言いながら。


……めんどくせー。一個体がしたことを、全員に当てはめんなよ。






「傾国の魔獣」とは、フェザーキャットに付けられた別称だった。

フェザーキャットの中でも特に上位種は、人間に姿を変えることが出来る。


数百年前、美しい女性に姿を変えたフェザーキャットが、とある国王を誑かし、国を傾けたという史実があった。


目的があったわけじゃない。

きまぐれに、滅ぼしたと。


けど、だからどうしたって話だ。

人間同士だって、そんなこと普通にやってんじゃねーか。

女に踊らされて国を傾けた王の話は、一つや二つじゃねーはずだ。


人間は「やらかしたやつ」だけ責めるくせに、おれたちは、ひとまとめに“危険種”扱い。


……マジで、めんどくせー。






斬りかかられるのは初めてじゃない。

ただ、今日は反応が遅れた。


うっかり刃に当たってしまい、熱い痛みが走る。

じわじわと流れる血が、前足を濡らしていた。

しばらくすれば自己回復できるが、深く斬られてしまったので少し時間がかかりそうだ。


近くの森に入り、身を隠すため奥へ進む。

この森は深くて、磁場も狂ってる。迷ったら最後、生きて出られねー。

人間にとっては、ほとんど“死角”みてーな場所だ。

ここでしばらく大人しくしてれば、回復すんだろ。


そう思って、傷ついた体を引きずりながら歩いていた時ーー







ーーあいつが、いた。







「………猫?」


ふわふわした金髪に、間の抜けた表情。

頭ん中までふわふわしてそうなその人間が、何やら草の入ったかごを持っておれを見下ろしていた。


猫じゃねーし。

羽が見えねーのかよ。……ったく。

……まあ、ぱっと見は猫に見えなくもねーか。 


するとその人間は、おれの近くに寄ると、しゃがんで覗き込んできた。


「怪我してる!今、手当するから……」

「触るんじゃねーよ」


触ったら引っ掻く。運が悪けりゃ、腕の一本くらい持ってかれるぞ。


睨みながら牽制すると、人間が驚いた顔をする。

おれを猫だと思ってたから、喋ったことに驚いたんだろうな。


残念、おれは魔獣だ。

死にたくなかったら、どっか行きやがれ。


人間は少し考えると、籠の中から一束の草を取り出し、足元に置く。

小さな白い花のついた、あまり見覚えのねー植物だった。


「これ、怪我によく効く薬草なんだ。傷に塗ってもいいし、食べても回復力が高まるってシュゼルが言ってた」


誰だよ、シュゼルって。

人間の名前っぽいが……どうせ、そいつも変な奴なんだろ。


「ほんとは手当てしたいけど、触られたくないみたいだし……とりあえず、今日は帰るね」


”今日”はってなんだよ、何言ってんだこいつ。


立ち去る人間を睨んだ後、置かれた薬草を見る。

においを嗅いでも、毒性は感じない。

毒なんておれには効かねーけど、念の為だ。


……ん?おれは、食べようとしてんのか?

あんな変なやつが置いていった、これを??


普段なら、人間が置いていったものなんて、その場で燃やしてる。

何で、食べようと思った?


……傷なんか負ったのが久しぶりすぎて、痛みで思考が狂ってんだ。


そう言い訳しながら、花を少しだけ口に含む。

すると体内の魔力が反応して、自己回復が早まったように感じた。

食べても効果があるって、そういう事かよ。


「……変なやつ」


けど、不思議と、嫌な感じはしなかった。

薬草の苦味と、ほんの少しの温かさが、喉を通っていく。



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