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12.その瞳に映った異質な魔力

「じゃあ、不本意だけど。……不本意だけど、爺様が許可したから、乗船を認めるわ」

「何で二度言った」


例の船主テストを受けて、問題なく合格したノクスは、シオンの言葉に顔をしかめた。

尚、あくまで「仲間と認める」のではなく「乗船を認める」と言ったのは、シオンなりの抵抗らしい。


「んなことより、今の本当に意味あったのか?ぼんやり眺められて、頷かれただけじゃねぇか」

「爺様の判断に間違いはないの。文句があるなら降りなさいよ」


ぼやくノクスに、詳しく説明する気はないのか、シオンは素っ気なく言う。

ノクスは言葉に詰まったように黙り、目をそらした。

降りる気は、ないらしい。


船室に向かう途中、ふとルナリアの姿を見かけた。

こちらに気づいた彼女は、まずシオンを見てほんの少し安心したような表情を浮かべ、

――そのすぐ後、ノクスに目を向けた途端、目を見開き、逃げるようにその場を離れた。


(ルナ……?)


シオンを見たらすぐに駆け寄ってくるルナリアが、挨拶もなく逃げ出すとは思えない。

今すぐ追いかけたいが、ノクスに何の説明もなく放置するわけにもいかなかった。

親切心ではない、勝手に入ってほしくない場所に入られたら困るからである。


「あんたの船室はそこよ。空き部屋がないから、ベルと同室になるけど」

「……ベル?誰だそいつ」

「部屋にいたら自己紹介でもして。神出鬼没だから、いるかわからないけど。あと自分の船室以外は入らないようにしてね」


船主の部屋のことなどもそれで統括し、早口に告げる。

今はとにかくルナリアが心配で仕方ない。

なにか言いかけたノクスを無視して、シオンは行ってしまった。


「嵐のようなガキだな……いや、歳は変わんねぇのか」


一歳差はまだ信じがたいが、シオンが去っていった方を見ながら呟く。

すると、別の船室の扉が開いて、ヘリオスの声がした。


「あ、ノクス。テスト通ったんだね」

「……あれはテストって言えんのか」

「うーん、多分?」


ヘリオスもよくわかっていないらしく、首を傾げた。

一応彼は「本質」についての話は聞いたが、それでもよくわからない。

すると、ヘリオスの後ろからシュゼルが出てきてノクスに聞いた。


「船のルールは聞いたのか?」

「あ?ああ、”詮索禁止”、”船長命令に従う”、あとは……”船室以外立ち入り禁止”だったか」


船主の部屋を出た直後、シオンに聞いた話を思い出す。

加えてさっき言われたことを付け足した。


「船室以外って……大雑把だな」

「なら、談話室も禁止なんじゃねーの?」


ウィスカの声に、ノクスの動きが止まる。

聞き覚えのない声に、ノクスは咄嗟に視線を向けた。

無意識に足が一歩後ろへ引かれる。

警戒の色が、その目に浮かんでいた。


ヘリオスの足元に寄ってきた、一匹の黒猫。

村で見た時は、確かに猫だった。

しかしやたらと強い魔力を感じたので、普通の猫でないとは思っていたが。


今の姿は、体毛と同じ漆黒の羽に、額の宝石。

文献で何度も見たことがある、こいつはーー


「なんで、フェザーキャットが……」


言いかけたところで、シュゼルが前に出て、ノクスの肩を掴む。


「……詮索禁止、だろう」


穏やかに見えて、かなり強い力で掴まれ、ノクスの顔がひきつった。


「……テメェらも含まれんのか」

「”船員の”詮索禁止だからな」


自分たちも今は一船員だからと、そう言いたげなシュゼルにわかりやすく舌打ちする。

また喧嘩かと不安そうにしているヘリオスに、シュゼルは振り返って微笑んだ。


「虫がいただけだ。気にしなくていい」

(その虫って、俺のことじゃねぇだろうな……?)


にこやかなシュゼルと、眉間にシワを寄せるノクスの対比が異様だったが、突っ込んではいけない気がしてヘリオスは受け流すことにした。

そして、話題を変えようとノクスに話しかける。


「ところで、どの部屋に入るかは聞いた?」

「ああ。空きがないから「ベル」とかいう奴と同室って言われたが……」


その名前を聞いて、ヘリオスの表情が固まった。

不思議そうにするノクスに、彼は視線をそらしながら言う。


「ああ、うん……えっと、頑張れ?」

「何をだよ」


謎の応援にノクスが問いかける。

当然の疑問だが、ヘリオスは説明しかねているようだった。

そのため、代わりにシュゼルが伝える。


「船長曰く、嘘しか言わない男だそうだ。まあ、お前なら聞き流せるだろう」

「全くワケがわからねぇ……」


ヘリオスが視線を泳がせたのは別の理由だったが、シュゼルはあえてそこには触れなかった。

どうやら苦手意識は続いていたらしい。


とりあえず荷物は置いてこようと、ノクスは言われた船室に向かった。






ーーーーーーーーーーーーーー






念の為ドアをノックすると、短い返事が返ってくる。

扉を開けると、見覚えのある銀髪の男がベッドに座っていた。

確か、酒場であの船長と一緒にいた……と、思い出す。


「あれ。お前さん、船長に喧嘩売ってた命知らずだよねぇ?ここで何してるんだい?」


ノクスを見るなり飄々とした様子で話しかけてくるベルナルドに、僅かな不快感を覚える。

ヘリオスが気まずそうな顔をしていたのは、こういう事だったのだろうか。


「……船員になった」


問いには、簡潔に答えた。

それを聞いて、ベルナルドは僅かに目を細めて笑う。


「へぇ?よく許したなぁ」


笑っているが感情の読めない紫の瞳に、ノクスは顔をしかめた。

だが、その瞳以上に、ノクスにはずっと気にかかっていたことがある。

酒場で見かけた時から、ずっと。


「……テメェ、何者だ」

「何のこと?」

「魔力が異質すぎる。…こんな色、見た事ねぇ」


ノクスの言葉に、ベルナルドは一瞬笑みを消した。

しかし、すぐに不敵な笑みを浮かべると、ノクスに問い返す。


「ふ〜ん……魔力の色、ねぇ。お前さん、”見えてる”ってこと?」


ノクスは黙る。"色”と言ったのは失言だった。

異質と述べただけならば、魔力感知ということにできたが、視覚的なことを言えば当然わかってしまう。


ノクスには生まれつき、生き物の「魔力」が目に見えた。

色や透明度、そして量などが。

とはいえ、このことを知っているのは、シュゼルともう一人だけである。


人により似た色を持つ場合もあるが、まったく同じ色と質は存在しない。

そして職業柄、これまで多くの生物の魔力を見てきた。

しかし、こんな異質な魔力はまだ見たことがない。

何か混ざり合ったような、混沌とした…言い表すのが難しい、色。


ただ、「異質」であることがわかっても、それが何を示すかまでは正直わからない。


他に魔力が見える人を聞いたことがないし、文献もないため、自分の経験しか判断材料がないからだ。


ノクスの無言を肯定と捉えたベルナルドは、小さく息を吐く。


「でもさぁ、船長から言われてない?この船では詮索禁止って。

 ……まぁ、お前さんのその目に映るものが、全部“真実”とは限らないけど?」


口元に指を当てて、さらにニヤリと目を細めると、ベルナルドは言った。


「安心してよ。お前さんと、大事なお友達に興味なんてないし、危害を加えるつもりもないからさ。

 ――直接的には、ね」


その雰囲気に、何故か背筋がゾッとした。

妖艶と言えるような表情も、静かだが圧がかかるような声も、居心地が悪い。


するとベルナルドは急に表情を崩して、大げさに肩をすくめた。


「俺は、麗しの船長にしか興味ないから」


急に軽口を叩くように言った彼を、ノクスは半眼で睨む。


「……あのチビ船長か?あんなガキ臭い女のどこがいいんだか」


それを聞いてベルナルドはニッと笑うと、わざとらしく首を傾げて

「失礼だなぁ。船長は立派な成人なのに」

と冗談っぽく言った。しかしーー


次の瞬間、表情を一変させ、声のトーンを落としながら囁く。


「でもさ、……あんまりナメてると、痛い目見るよ」


静かな声なのに、妙に響いた。

一瞬息を呑むが、眉をひそめて一言呟く。


「……理解できねぇな」


この男の感情も、魔力も、掴みどころがなさすぎる。


これ以上会話を続けることを無駄だと感じたのか、ノクスは視線を外した。

たしかに、こいつはあまり関わり合いたくないタイプだ。


ヘリオスたちに手出しする気はないようだが、警戒はしておいた方がいいだろう。


(思った以上にとんでもねぇ船に乗りやがったな、あいつら……)


呆れ半分に、ノクスは短く息を吐いた。




ノクスに対してはまだ警戒心が強いシオン。

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