価値観が異なろうとも。
努力をすれば、秀才にまではのし上がれる。だが、そこから天才になるためのは、生まれつきの才能が無ければならない。努力には、打ち止めがあるのだ。
空き教室の窓際で一心不乱に読書をしている茜は、その天才と呼ばれる頭の構造がどうにかなってしまっている人に入る。
成績優秀どころではなく、すべての数字が最高ランク。授業内容が分かり切って詰まらないらしく、趣味の読書に明け暮れていて、教師陣もそれを分かっていて止めない。『わが校を代表する生徒だから』と、機嫌を損ねたくないのだろう。
「おーい、茜。今日もここでサボってるのか?」
「明こそ、授業に出なくていいの? ついていけなくなるわよ」
「お前が付いて行けるのがおかしいんだよ……」
ノートも碌に取らない茜だが、テストの点数は良い点を取ってくる。頭の中に辞書が埋め込まれているのではないか、と不正を疑ってしまうレベルである。
「……友達、いなくなるぞ」
「……友達って、いるものなの?」
御覧の通り、交友関係はズタボロ。明とて会話を交わしてはいるものの、元をたどればよく授業を抜ける茜を不思議がってついていっただけのことだ。特別な感情など、あるはずがない。
「……バカみたいにじゃれ合って、生産性の無いことに熱中して。そんな関係の人達、いて得があるの?」
損得勘定を抜きにして考えろ、とは口が裂けても言えない。茜の言い分も一理あるのだ。
慣れあいすれば、今は楽しいかもしれない。ただ、未来への投資を怠っていれば、それは必ずどこかで露呈する。気付いてから補完できるものでもない。
「……孤立した人ってのは、いずれ行き詰まると思うけどな」
群れに入れない一匹狼は、孤独を好んでいるようで好んでいない。本心は、仲間を作りたいのだ。完璧な人間などこの世に存在しないのだから、欠点を補助し合える同志はかけがえのない存在になる。
「……それじゃ、私と入れ替わってみる? 明も、少しは私の気持ちが分かるんじゃない?」
「死んでもごめんだ」
あいにく、クール気取りは好きじゃないのでね。
「……早く戻れば? 留年しても知らないわよ?」
「たかが一授業抜かしただけで留年になるほど、規則は厳しく作られてないんだよ」
減らず口を、いつの日か叩き割ってやりたい。
「……初めて俺が茜についていったときは『迷惑防止条例違反で訴えるわよ』とか、刑法使ってまで排除しようとしてただろ? 天下の茜様も、随分軟化したようで」
「今すぐ締め出すわよ……?」
「すみませんでした」
精神を揺さぶろうとして、多大なダメージを負ってしまった。これぞ、天才がなせる業か。
「……でも、居心地悪くはなくなった。明、ずっとこの教室に残ってていいわよ」
「俺は地蔵か何かか……?」
辛辣な発言の隙に、茜のゲテモノを見るような視線が潤いを取り戻してそっぽを向いたのは、明の見間違えでは無かった。
「……話してる内に、読む気力が失せたわ。教室に帰りましょう」
「授業中に帰ったら、こっぴどく叱られるんだよ……」
「……私の時は何もなかったけど……」
「茜は特別なんだよ!」
ボケとツッコミでの漫才のような会話が繰り返される中、茜のお高く留まっている口角が緩んでいることに、明は気付かなかった。
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某小説が頭に浮かんで離れなかったんですよ……。