ぼくのお父さん
ぼくのお父さん
ぼくのお父さんは、お城に仕えるえらい武人です。
みんなお父さんをけいしょう?というので呼びかけて、呼び捨てで呼んでいる人は見たことがありません。……一人いました。怖いおじさんです。おじさんはぼくのことがきらいなようで、いつも怖い顔で見てきます。お父さんはその度ぼくをかばってくれます。
お父さんはとってもやさしいです。
いつもぼくのそばにいてくれて、ぼくに何かあればすぐにかけつけてくれます。ぼくが笑えばお父さんも笑ってくれて、ぼくが泣けばお父さんはやさしく抱きしめて頭をなでてくれます。
……実を言うと、お父さんはぼくのお父さんではないのだそうです。お父さんもばあやも、まわりの人はみんなそう言います。ぼくにはほかに本当のお父さんがいるのだと。たしかに、お父さんはぼくのお父さんにしては若すぎます。
でもぼくは、ぼくにとっては、お父さんはお父さんだけです。だって、こんなにぼくのことを大切に思ってくれる人が、ぼくのお父さんじゃないなんてことあるのでしょうか?
だれが何て言おうと、ぼくはお父さんの子どもなのです。だから、ぼくがお父さんを、ぼくのお父さんだと思っていて、自分をお父さんの子どもだと思っていればそれでいいのです。
――――でも、そんなぼくのお父さんとの幸せな日々は、長くありませんでした。
ぼくとお父さんは離れ離れになり、お父さんはどんどん変わっていきました。優しい顔なのに、会うたびどこか冷たい雰囲気と悲しい目をしていて、昔のようにぼくに笑いかけてくれません。
きっとぼくがいけないのです。ぼくがお父さんの望むような立派な人間になれていないからです。
だからぼくは一刻も早く強く、えらくならなければならないのです。
お父さんが誇れるような子どもになれるように……。