2.再度の外観調査
――てな事になっちまって、俺とアーベントは二人して溜め息を吐いてるってわけだ。
「先程調べた限りでは、身許の特定に役立ちそうな傷跡や刺青、黒子などは無かったが……念のため、もう一度見直しておくか……」
「あ、それが終わったらスケッチを一応残しておきてぇんですがね。身長とか、足のサイズとかも測っておきてぇですし」
「スケッチ? ……あぁ、骨の様子を見るために、軟部を除去するとか言ってたな」
アーベントのやつは少し考えていたが、
「だったら、修道会所有の撮影機を使うといい」
「撮影機? ……あるんですかぃ?」
「賢者」のやつは「カメラ」とか言ってたが……あのクソ高ぇ魔道具を持ってるってのかよ。さすが修道会様は違うわ。
ま、あるってんなら遠慮無く使わせてもらうけどな。……いや、俺は扱い方なんか知らんから、撮影はお任せするしか無ぇんだが……
「遺体に内臓とかが残っているようなら開腹して調べたいんだが……どうなんだ?」
「さぁて……結構ばらつきが大きいって聞きましたけどね……あまり期待しねぇ方が良いんじゃねぇですかぃ?」
かなりな確率で腐ってるって聞いたからなぁ……この屍体はどうだか知らんが。
「あぁ……その前に、髪と爪を確保しておくか。仮に内臓が傷んでいても、これは分析に耐えるだろう」
髪と爪ねぇ……あ? 待てよ……そう言やぁ……
「爪や髪の汚れとかって、調べられませんかね? どんな汚れなのか――とか」
「汚れ?」
「へぇ、汚れってぇか、埃ってぇか……」
「賢者」のやつが話してた「ミステリ」とかに、そういう噺があったんだよな。
「……例えばですけど……染料の汚れが染み付いてたら、染め物職人だとか……」
「ショックレー卿に心当たりがあるとなると、職人という線は弱いんじゃないか? だがまぁ……一応調べさせてみるか。この際だ、手懸かりとなりそうなものは少しでも集めておきたい」
「だったら、歯の間に食べ滓が挟まってねぇかも見ておきますかぃ? 胃の中のもんが見れりゃあ必要無ぇんでしょうが……」
「……一応調べておこう」
・・・・・・・・
改めて屍体の外側を調べ直した俺たちは、手懸かりの少なさに頭を抱えた。
デュラハンの旦那の時は性別と人種ぐれぇだったが、今度は個人識別だ。少しでも手懸かりが欲しいってのに……
「……嫌んなるくれぇ身綺麗な屍体ですね」
「恨み言の一つも言いたくなるくらいにな……」
傷跡も刺青も黒子も無ぇときたもんだ。歯にも食べ滓一つ挟まってねぇし……これでどうやって身許を調べろってんだよ。
以前に「賢者」のやつから聞いた「指紋」ってのを試そうにも……肝心の指先はボロボロに崩れちまってて、指紋なんざ採れそうもねぇ。……まぁ、対照すべき遺留指紋の当てが無ぇんだから、確認のしようが無ぇんだけどな。……いや……殿様は心当たりがあるような口振りだったな。……ま、どのみち今回は使えねぇんだし、気にしてもしょうが無ぇか。
「髪と爪、および爪の汚れは分析に回したが、結果が出るには少し時間がかかるだろう」
「んじゃ、待望の腑分けといきますかぃ」




