1.再調査の依頼
お久しぶりの死霊術師です。今回は前話「墓室の闖入者」の続編になります。五話構成で、一日一話の更新になります。
「ホトケさんの顔に見憶えがある?」
「正しくは、〝見憶えがあるような気がする〟だ。何しろほんの一瞬だけの事で、その後は瞬く間に崩れてしまったのでね。確信と言えるほどのものは無い」
「「はぁ……」」
面倒な一件が片付いて、アーベントと二人で祝杯でも挙げようかって話してた時に、依頼人の殿様から呼び出しがあった。で、殿様のお屋敷に出向いた俺とアーベントが聞かされたのが、そんな話だったわけだな。
「……失礼ながら、卿のおっしゃる心当たりというのを伺っても宜しいでしょうか」
「相手もそれなりに身分のある家だし、さっきも言ったように私にしても確信があるわけでもない。ここで名前を出すのは憚られる」
「……んじゃ、どうしろっておっしゃるんで?」
「遺体の身許を可能な限り割り出してもらいたい。ただし、万一の場合には家名に関わりかねないので、他言は一切無用だ。目立って活動するのも控えてもらいたい」
――おぃ冗談じゃねぇぜ? 訊き込みも何もできねぇのに、どうやって身許を洗い出せってんだ。
「仄聞したところでは、死霊術にはその手の技術があるのだろう?」
おぃおぃ、個人識別をやれってのか? 結構な無理難題を振ってくれる――と、そう思ってた矢先に、
「では、これは卿からエルメントへの依頼であると?」
――っ! アーベントの野郎、敵前逃亡を図りやがった。自分一人だけ安全地帯に逃げ込もうってのか!?
「いや、不幸にして私の懸念が当たっていたら、『癒しの滴』修道会の力が必要になるだろう。協力して解決に当たってくれたまえ」
「はぁ……」
〝天網恢々疎にして漏らさず〟――ってな♪ 自分一人だけ逃げようったって、そうはいくもんかぃ。
……おっと、こっちも言うべき事は言っとかなくちゃな。
「あの、殿様……」
「ショックレーでいい」
「……ショックレーの殿様、ホトケさんの身許を調べろったって、手懸かりはあのホトケさんしか無ぇわけで……そうなると、あのホトケさんをバラしちまって調べるしか無ぇんですが……それでよござんすか?」
そう言ってやると、殿様はちょっと困ったような顔をしなすったな。
「……あのまま調べるというのは無理か?」
「そりゃ、そういう事ができる死霊術師もいるかもしんねぇですけどね、少なくとも俺にゃ無理です。……この条件を呑んで戴けねぇってんなら、俺はお払い箱って事で……」
……おぃアーベント、裏切られたような顔をすんなよ。そっちが先にしかけた事だろうが。
「……已むを得ん。どうせあのままの遺体を引き渡す事などできん。火葬にして渡すしか無いのだから、多少の損壊は許容範囲だろう。……解体して調べてもらって構わんが、不要に遺体を貶めるような真似は謹んでもらいたい」
「……解りやした……」
……ちっ……戦線離脱は失敗か。……アーベントの野郎、ざまぁって顔をしてやがる……
「……手懸かりと言えばショックレー卿、故人の遺留品を調べるのは、さすがに我々の手には余ります。然るべき筋にお任せしたいと思いますが?」
おぉ……確かにな。冒険者の持ち物なら判るが、あのホトケさんが貴族だったってんなら、そいつを調べんなぁ俺の手にゃ負えねぇ。判るやつに任せた方が良いだろうな。
「……承知した。確かにそれはこっちでやった方がいいだろう。何か思案に困る品が出てきたら、その時には知恵を借りると思うが」
「解りました」
ま、そんなとこだろうな。
明日もこの時間帯に投稿の予定です。