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 何事かと都市の兵士のセイレーンやハーピーがやってきて人魚に事情を説明してもらい、無実であることを説明してもらった。

 

「申し遅れました、メロジーヌ・ドライと申します。よろしくお願いします」

 

「あ、ああ・・・レンツだ。よろしく・・・」

 

 ベンチに座り、隣に腰掛けているメロジーヌ・ドライとチラリとみると満面の笑みで俺を見ていた。

 

「な、なぁ・・・帰ってくれないか?」

 

「教えてくれるまで帰りません!」

 

 このメロジーヌ・ドライが持つ尾ひれは人魚の特徴的な下半身だった。行きかう人たちにとって、どうして地上に、と疑問を抱かせるのは充分だった。そしてその人魚が誰かわかると周りの目は疑問と驚きが両方きたかのように何度か見直し、去って行っていった。

 

 横に座っている俺はなんだか見世物にされている気分だった。

 

「そうか、俺は帰るから元気でな」

 

 俺はこれ以上関わるのが面倒になり、立ち上がると宿泊所に戻ることにした。するとガシッと胴体を捕まれ、満面の笑みでついていきますと言われた。

 

「嘘だろ・・・」

 

 俺は、振りほどくにも、そのまま引きずって帰るにも人目があるのもあり諦めた。

 

「わ、わかった・・・明日、またここで」

 

「いいえ、ついていきます! 逃げられる可能性があるので!」

 

「ほ、ほら・・・帰らないと心配されるだろ? 帰ろう? な?」

 

「大丈夫です! ちゃんと地上に行くと伝えましたので!」

 

 俺は頭を抱えた。冷静になるべく、今までの経験を振り返ることにした。そして、蘇る過去の記憶から、女性に言い寄られた場合の回避方法を思い返し、全てナミが強引に物事を決め、回避しようとしても全弾命中し、あらゆる回避を試みても大抵どうにもならない記憶しか思い出せなかった。

 

 詰んだ。

 

「わかった。抱きかかえる形になるが、問題ないか?」

 

 俺は受け入れる事にした、とりあえず宿泊所に戻り、ナミに説明しよう。どうにも不安があるが、このまま振りほどいて放置しても、あのセイレーンのセイレア・ヴィヨンのようにやってくる可能性がある。

 

「はい、大丈夫です。お願いします!」

 

 俺は彼女を抱きかかえた。ファイヤーマンズキャリーと呼ばれる肩の上に担ぎ上げた。

 

「へっ? あのこの抱き方は?」

 

「ん? 移動するのに楽だからな・・・では行くぞ」

 

「えっ――」

 

 俺は宿泊所に向かう、通り過ぎる人に可能な限り目に入らないように建物の上を移動した。ハーピーやセイレーンに見つからないように、内臓されているナノマシンを周囲に散布し、光学迷彩を展開させた。

 

「ひゃ! へっ!?」

 

 着地とジャンプした際の衝撃で気絶しないように気を付けながら宿泊所に向かい、無事に着き、部屋に戻ると誰もいなかった。

 

「まだ戻ってきてなかったか・・・」

 

 俺は部屋に付属しているソファにメロジーヌ・ドライを置いた。あたりをキョロキョロとし、しきりに地面やソファに手を置いて何かを確かめていた。

 

「ん、どうした?」

 

「さ、さっきまで飛んでませんでした?」

 

「飛んではいない、飛び跳ねて移動していただけだ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

「もうちょっとしたら、仲間が戻ってくる。話はそれからでいいか?」

 

「歌の件、よろしくお願いします!」

 

「あ、ああ・・・」

 

 俺は窓を開けて、外の景色をぼんやりと眺め、ナミが帰ってくるのを待った。どのくらいの時間が経ったのか、時間を忘れて海に反射する光と飛び交うハーピーとセイレーンたちに和やかな気持ちになっていた。

 ただ待っているだけでは暇なのか、人魚のメロジーヌ・ドライが歌い始めた。俺にしか聞こえないように歌っていた。その歌は歌詞はあってないようなものだったが、感情が籠っているような感じだった。それがどのような感情なのか、俺にはあまりわからなかった。

 

 ただ、不思議と心地よさと切なさが相まって今まで感じたことがないものだった。

 

「ただいま、その人魚は誰?」

 

「あ、この人は人魚ナンバーワンのメロジーヌ・ドライさんですよ! え!? なんで!?」

 

「釣りにでも行ってきたの?」

 

「おかえり、いやこれはだな・・・聞いてくれるか?」

 

「そうね、聞きましょうか」

 

 さっきまで感じていたものが一瞬でなくなり、脳と心臓をサイキックで掴まれているような圧力と身体に重圧がのしかかっている錯覚を覚えた。

 

「「ひぅ」」

 

 そして、メロジーヌ・ドライとセイレア・ヴィヨンが両方とも青白い顔をして小さい悲鳴を上げた。



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