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都市内を散策していると様々な場所でストリートライブが行われていた。それがどうやら、海側に行くにつれてレベルが上がっていくことを知った。この都市には大きく三つの種族が争っており、人魚族、セイレーン族、ハーピー族だった。
最初はセイレーンとハーピーの縄張り争いだったのが、人魚族も参戦し、歌の争いが始まった。その歌声に呼ばれて他の人が来るようになって都市に発展していったという歴史があるらしい。そこでレヴァイアサン卿が音頭を取り、区画整理や歌合戦などルールを創り、大きな問題はなくなったというのがわかった。
「ふぅん、そうだったのね」
串にささった焼き魚を食べながら、ナミは俺が調べたことを聞いていた。広場にはベンチがあり、俺とナミは並んでストリートライブをしているハーピーを眺めながら、集めた情報を共有していた。環境適応特化の斥候型のサイボーグであるため、情報収集はお手の物だ。何より、聞いていなくてもそこら中の話声を自動収集し、整理するナビもついている。
「歌合戦、というのは気になるわね」
俺は焼き魚を食べながらナミが気になるという意味について、歌唱力としてなのか、まさか自分も参戦したいのかという事なのか考えていた。後者はあり得ないなと思い、焼き魚を頬張りながら、ただ焼いた魚なのに塩加減が程よく、ここの都市の飯は割と良さそうで助かったと思った。
「歌合戦って次はいつあるの?」
俺は魚を飲み込み、ナミに伝える。
「三日ごとに開催されてて、種族同士だったり、種族と種族だったりといろんな所で開催されている。俺たちがいる場所は丁度ハーピー族とセイレーン族の縄張りの間あたりだから、両方聞くことが出来るな」
「開催っていつ?」
「一番早いので今日の夕方っぽいな」
「行ってみましょう」
「種族同士か、ハーピー対セイレーンか、どっちにする?」
「ハーピー対セイレーンにしましょう、レンツはそれでいい?」
「俺もそっちの方がいいと思っていたところだ、問題ない」
俺たちは魚の串焼きを完食し、歌合戦がある会場へと向かうことにした。道中、ところ構わず歌が聞こえ、どの歌も似たり寄ったりではあるものの、微妙に違ったりしていた。程よくいい歌だと思ったりしていても、別の歌がそれを阻害していることもあり、落ち着いて聴ける場所はそんなに無いように感じた。
「魔力の良し悪しもあるのかしら?」
「ん? どういうことだ?」
「ほら、私たちってこの浮遊してる卵型の武具やレンツだとその眼によって対抗して魔力を無効化するじゃない? それで歌唱力のみで判断してるけれど、魔力にも良し悪しがあるのかな、って」
解析結果、どの魔力も波長の違いはあれど受信側への状態異常は同一。魔力の良し悪しはないと推測されます。
「ナビが言うには、良し悪しはないってさ」
「ふぅ~ん、じゃ、純粋に歌唱力を楽しみにしていきましょうか」
「そうだな」
俺は情報収集した際に、聞こえる歌をある程度聞いていた。だが、あまり歌のバリエーションがなく、どれも似たり寄ったりだった。前の世界で聞いてた歌とは違った様々な歌を聴けたら、と期待があった。
歌合戦がある会場近くに到着すると、屋台や酒場などがにぎわっていた。様々な種族が入り混じっており、活気づいていた。
「ここを抜けた先に広場があって、そこのステージで歌合戦をやるらしい」
「始まる前からみんな盛り上がってるわね。あ、ちょっと飲み物とつまみ買ってきて」
「わかった」
適当に酒場から飲み物を、屋台で肉の串焼きを購入してナミに渡す。
「さ、準備出来たし、行ってみましょう」
俺は飲み物を飲みながら、ナミと一緒に広場に入り、いくつかの半径のステージが互いに向き合っているのを見て、嫌な予感がしてきたのだった。
「なんか思っていた会場とは違うわね」
片方の歌手の歌を聞いていると後ろからも歌が聞こえてくるような作りとなっていた。
「さすがに同時に歌ったりは・・・しないだろ」
「そうよね・・・?」
飲み食いし終えて、広場内の他のステージを見ても同じ造りになっていた。見て回っていると段々人の数も増えてきて、賑やかな雰囲気に変わってきた。周りを見てみると楽しみといった表情の人たちで溢れていたり、今日はだれだれが出るから楽しみだとか、今回は誰が勝つといった話も聞こえてきた。
俺たちはとりあえず、歌合戦がどんなものか最初にはじまるステージの近くに移動し、どちらにもつかずな場所で始まるまで待つことにした。
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