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「ねぇ、レンツ・・・海って知ってる?」
「この世界のか? それとも俺たちがいた世界のか?」
「両方かな」
「俺たちがいた世界の海は任務で行くこともないし、サイボーグの俺にとっては割と近寄りたくない場所という認識だったな」
「感想を聞いてるわけじゃないんだけど」
「湖よりも大きくて、塩が取れる場所という認識しかない」
「そうよねぇ、私もその認識なんだけど・・・この都市ってどうしてこんなに栄えてるのかしら?」
「さぁ・・・?」
どこまでも続く透き通った海水が広がっていた。俺が知ってる海というのは大分濁っていたり、場所によっては汚染されてたり、知識だけでは海の底がわかるくらい透き通ってるというのは初めて知った。湖はもっと濁っていたりしたからだ。
そして、海上に大きな都市があり、それが海の下にも都市が続いていた。
都市マモンから数週間移動し、村や小さな都市を転々とし着いた先は都市レヴァイアサンだった。陸地が計画的に繰り抜かれたような階段状になっている都市で、海の底まで都市が続いていた。今、俺たちは外側の高いところから都市を見下ろしていた。
この都市レヴァイアサンは今までいた都市と比べて騒がしく感じた。
「風にのって、なんか歌が聞こえてくるわね」
騒音的なものではなく歌だった。
解析、魔力と音波による歌であり種族によっては何かしらの人体および精神状態の変化があります。
鼓舞するだけはなく、実際にブーストかけたり相手に何か阻害効果与えたりするわけか・・・。
「とりあえず、都市に入って宿泊所探そう」
「そうね」
俺たちは車に乗り、都市に向かった。都市マモンでゴブリンたちが一度は訪れたいと言わしめていた都市だった為、試しに行ってみることになった。筋肉を鍛えることに夢中になっていたゴブリンたちが訪れたいと言っていたのはどういう事なのか、俺とナミは気になっていた。
彼らの話を聞いても、夢心地になれるらしいとしきりに言っていた。都市アスモデウスとどう違うんだと聞いたら全然違う、と言っていたが要領を得ない回答でよくわからなかった。
都市に近づくにつれ、外から聞こえる音が段々と明確になってきた。
それは音楽であり、歌だった。
初めて聞く歌が俺とナミを不思議な気持ちにさせた。
「見て、空を飛びながら歌ってる」
「あっちにも歌ってる人もいるぞ」
解析完了、魔力による精神汚染を感知しました。対有害音防御フィールドデータを卵と連携します。
ピシィと小さな音がするとさっきまで聞こえていた歌がひどく簡素な心にあまり響かないものと変わった。
「ねぇ、卵から念話が入ったのだけど・・・」
「ナビのデータ連携で有害音と認識したっぽいぞ」
「「はぁ」」
俺たちは軽いため息をついた。さっき感じた不思議な気持ちは、魔力によって誘導されたものであり歌唱力そのものの力でない事に、残念さを感じたからだ。
前の世界では、部隊対抗の歌唱コンテストがあったり、大規模作戦前や作戦中に兵士を鼓舞させるために歌兵士がいたりした。投薬をしないで脳が自発的に脳内麻薬を分泌するため、兵士の戦闘能力がかなり上がった。
つまり、俺とナミは耳が肥えていた。
「5点」
「審査落ち」
「わかるわ、それね」
「「はぁ」」
「歌に魔力をのせて、か・・・確かにゴブリンたちには癒されるから一度は来たいってことなのね」
「都市アスモデウスは魔力を吸われるから別ってことか」
俺とナミはゴブリンが一度は来たいという意味がなんとなくわかったのだった。都市の中心部に近づくに連れて、路上で歌う者や窓を開けて歌っているものなどがそこら中で歌っていた。
宿泊所を見つけ、空いていることを確認するとそこに泊ることにした。部屋からは海の方が一面に見える部屋で見晴らしがいい部屋ですと案内された。部屋の中に入り、窓の外から歌声が聞こえてきて、レンツはそっと窓を閉めるものの、歌声は聞こえ続けた。
「防音フィールドをこの部屋に常時展開」
ナミが卵型の武具に命令すると、外の音が聞こえなくなった。
「その卵型の武具、なんなの?」
「私もよくわからないのよね、でもなんかいろいろ出来るって感じる」
「感じる・・・?」
「そ、感じる」
特に明確に求めている答えを得られなさそうだったので、考えるのをやめた。定期的に自称神から貰った卵型の武具の事が気になるが、ナミに聞いてもよくわからなかった。そういえば、自分のこのサイボーグのスペックも最新型であることしかわかってなかった。ナビの具体的な仕様や支援幅も把握してなかったな・・・。
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おい、うっそだろ!?
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