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 クリーンヒットにつながる一撃は与えられず、いたずらに時間が過ぎていった。周りにいる野次馬ゴブリンたちは盛り上がっていたが、俺たちは冷静だった。俺はヴィクター・ゴブットはまだ本気を出していないと感じていた。一度足りとも、足技を使ってこない事を確信させた。

 

 倒した時に本気を出してなかったと言い訳されても盛り上がりにかけるが、その時はまた倒せばいいと思った。

 

「ふっ、どうやら本気を出してもらえそうだな?」

 

 まさか、俺が本気を出していないとわかっていただと!?

 

「いくぞ!」

 

「おう!」

 

 俺は本気を出し、ヴィクター・ゴブットも本気の一撃を放った。

 

 ヴィクター・ゴブットの一撃は、全身の筋肉と体内の魔力を練り合わせた蹴り技だった。ソバットという後ろ回し蹴りだった、正確には後ろ周り蹴り突きであった。また、蹴りの軌道そのものに魔力を這わせるため、刃のような鋭いものが流れて、普通に避けたら刃物で引き裂かれた状態になってしまう技だった。

 

 俺はその鍛錬を重ねた先にあるソバットを相手が後ろ回しする動作と同じ速度で背後に回り込んだ。

 

 きっと突然目の前から消えて、何が起きたかわからないだろう。俺は相手の背中、背骨を傷つけない位置に正拳突きを入れた。ドォンという大きな音と共にヴィクター・ゴブットは吹っ飛び、転がった。

 

 静寂の後に、野次馬ゴブリンたちの歓声が沸き上がった。

 

 ヴィクター・ゴブットは立ち上がらず、白目をむいており、完全に俺の勝利だった。

 

「あ、終わった?」

 

 ナミがひょこり現れ、俺と同じようにボコボコにされたジムリーダーを連れてきていた。その中でもひときわボコボコにされている赤い服をきたゴブリンがいた。

 

「あ、こいつ? なんかこの都市のマッスル―というトレーニングジムの大元の団体のリーダーらしいわ。四天王? っていうのの一番強いって自称してるんだけど、当て身の心得がないのか全部返して上げたわ」

 

「あ、あれ・・・ゴブソン、ゴブログ、ゴブット・・・?」

 

 俺が倒してきた相手を見て愕然としていた。

 

「ちょっと誰が喋っていいって言ったの?」

 

「す、すみませんでした」

 

 いきなり土下座した。

 

「まあ、これであとは・・・レンツがこいつらに教えればおかしな事にはもうならないでしょ」

 

「ああ、そうだな」

 

 この日、この都市のゴブリンたちは変わるのだった。ゴブリンといえば、単体で倒せなかったら仲間を呼び戦う習性を持ち、あらゆる手を使い生き残り繁殖してきた種族だった。しかし、この都市マモンにいるゴブリンは変わり、相手と同じ数で戦う種族へと変化したのだった。

 体格にあった肉体の鍛え方をし、性格にあったファイティングスタイルを身に着けていった。そして、互いを高めるために自分よりも格上に挑み、学び、鍛錬していくようになった。ゴブリンと侮るものが都市に来た場合、人数に応じた一対一の喧嘩が始まるようになった。

 

「対戦ありがとうございました!」

 

 勝っても負けても、ゴブリンは戦いが終わるとこの言葉を叫ぶのであった。ガラの悪そうな顔をしたゴブリンが街中を歩いてはいるものの、どのゴブリンも威風堂々としており、ゴブリンで憂さ晴らしにきた頭の悪い種族は洗礼を受ける都市へと変貌したのだった。

 

 リオ式格闘術と天現式格闘術が広く伝わるようになり、この都市のゴブリンはどちらを学ぶか選ばされるようになっていた。

 

 レンツとナミは来た時から数週間滞在しただけで、この都市の変貌ぶりを冷静に見つめなおし、やらかしたと痛感していた。一か月ちょっと経った頃には、ただの筋肉ゴブリン集団がいる都市ではなく、強者ひしめくゴブリン集団がいる都市になっていた。

 

「ねぇ、私そろそろ他の都市に行きたくなってきたわ」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

 ナミの体型は今ではスラッとしていた。本人もご満悦のようだった。

 

「ねぇ、ところで・・・レンツって筋トレする意味あるの?」

 

 肯定、精神的安定に繋がるため意味はあります。

 

 え、ナビ・・・?

 

「サイボーグだから筋トレしても筋肉増えないわよね」

 

「いや、そ、そうだけど・・・」

 

「もしかして、筋肉つくと思っていたりしないよね・・・?」

 

「ま、まさかぁ・・・そんなわけないだろ」

 

 旧型のサイボーグ素体の場合、適度な筋トレを行えば個体差が発生しますが、この素体では意味がありません。

 

 え、マジ・・・?

 

 数日後、俺たちは逃げるようにこの都市から去った。去った後に、風の噂でゴブリンに喧嘩を売るときは出身を聞き、都市マモン出身のゴブリンなら喧嘩を売るな、逃げろと聞いたのだった。



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